リサイクルは単純な概念のように思えるかもしれないが、プラスチックリサイクルのサプライチェーンはそうではない。どのプラスチックがリサイクルされるかを知ることから、プラスチックの品質の決定に至るまで、多くの問題がリサイクルへの参加率を低下させている。

統計では2024年までに世界のリサイクル市場は3770億ドルに達すると予想されている。しかしプラスチックの廃棄物管理は、深刻な環境問題となっている。例えば国連は毎年約3億トンのプラスチック廃棄物が全世界で排出されていると推定している

残念ながら、リサイクルされているのはそのうちのわずか9%だ。国連の調査結果によると、12%は焼却され、残りの79%は埋立地やゴミ捨て場などに捨てられ、自然環境の中に蓄積していく。

リサイクルプラットフォーム「リサイクルゴー」のスタン・チェンCEOはコインテレグラフに対し、リサイクルビジネスは「不平等と多くのステークホルダー、デジタルデータの欠如に悩まされている」と吐露した。さらに業界の成長を阻害しているのは「より良い意思決定のためにサプライチェーンが可視化されていないこと」だという。

チェン氏はリサイクルシステムが不十分なのは、消費者への教育や市民や企業へのリサイクルをすることのインセンティブが不足していることだと考える。サプライチェーンの透明化についても次のように述べている。

「どのようなサプライチェーンでも、可視化されれば価格設定や購買決定、在庫管理など、企業資源計画(ERP)に携わることが可能になり、利益の保護や最終的には全体の価値創造に影響を与えることになる」

ブロックチェーンがギャップを埋める

Inseadの幹部であるマイケル・ペシュカム氏は「トランスフォーミング・プラスチック・ポリューション・ユージング・ブロックチェーン(ブロックチェーンを使ったプラスチック汚染の転換)」と題したレポートをコインテレグラフと共同で執筆した。

このレポートではブロックチェーン技術が梱包用品とそれらを使用するユーザーとのギャップを埋めることで、公平で持続可能なプラスチックビジネスをサポートできる仕組みについて書かれている。さらにブロックチェーンによって、当事者が仲介者を必要とせずに安全に情報を共有できると説明している。

こうしたことから月間で100万ポンドのリサイクル品の処理を担当している「リサイクルゴー」は、サプライチェーンの透明性を高めることを目的にブロックチェーン活用のため、DeepDive Technology Groupと提携した。

チェン氏によると、プロジェクトの第一段階では、サプライチェーンの参加者が特定のペットボトルのすべての履歴を特定できるようになるという。ペットボトルがいつ作られ、回収され、原材料の形に変換され、最終的にメーカーに出荷されて、また別のペットボトルになるかを特定できるようになるという。

DeepDiveのCEOであるミシャ・ハニン氏はコインテレグラフに対し、プラスチックリサイクル業界で生成されるデータは非常に断片化されており、多くの場合不完全なため、アクセスができない状態にあると指摘。そうしたことからブロックチェーンを使うことで、仲介者を介さずに異なる当事者間で安全にデータを効率的に共有できるという。

ハニン氏はリサイクルゴーが提供するブロックチェーンはオープンソースのフレームワークであるハイパーレジャー・ファブリックを利用していることに言及。さらにIoTセンサーとQRコードを組み合わせて、製造段階からデータの収集を行う。データはすべてブロックチェーンにアップロードされ、記録される。ハニン氏は次のように語った。

「私たちは製造現場から価値のあるものをすべて収集する。例えば、ボトルの位置情報。どんなデータであっても、それがすぐに関連性のあるものであろうとなかろうと、編集できない内容としてブロックチェーン上に置かれる。」

データがブロックチェーン上に収集・記録されると、アクセス許可を得たすべての参加者が、ウェブポータルやAPIアクセスなどの方法でその情報を閲覧できるようになる。「現在、国際的な大手家庭用ブランドのいくつかと、プロジェクトを実現するための方法について協議中だ」とHanin氏は述べている。さらに同氏は、リサイクルゴーが現在、多くの参加者にブロックチェーン製品のトライアルを行っていることにも言及した。

「私たちはこのブロックチェーンをリサイクルゴーのためだけでなく、このネットワークの一部になりたいと思っているすべての人のために構築している。私たちの目標は、リサイクル率を8%から100%にすることだ。」

さらにチェン氏は、リサイクルゴーのブロックチェーン試験の第一段階に参加している人は、サプライチェーンの最適化によって15%~20%のコスト削減が期待できるという。

デジタルトークンで発行されるインセンティブ

サプライチェーンの透明性を提供するだけでなく、ブロックチェーンは企業や消費者にプラスチックを適切にリサイクルするインセンティブを与えるのに役立つ。例えば、コインテレグラフは以前、インドネシアやブラジルにある沿岸部で十分なサービスを受けられていないコミュニティをターゲットとするプラスチック・バンク(Plastic Bank)と呼ばれるスタートアップについて報じた。

プラスチック・バンクがサーキュラーエコノミーを行える1つの理由は、デジタル・トークンを通じてインセンティブを提供することだ。例えば、リサイクル業者がプラスチックをプラスチック・バンクに持ち込むと、モバイル端末を介してデジタルトークンが発行される。実行された各取引は、オープンソースのパーミッション型ブロックチェーン・プラットフォームであるハイパーレジャー・ファブリックに記録される。プラスチック・バンクはその後、リサイクルされた「ソーシャルプラスチック」を消費財メーカーに販売する。

アゴラ・テックラボもブロックチェーンを利用してサーキュラーエコノミーを構築し、廃棄物管理をコントロールしている。オランダに拠点を置く同社は、イーサリアム・パブリックブロックチェーン上で廃棄物管理システムのデモ版を実施している。モバイルアプリを使って、参加者はいつリサイクルセンターに廃棄物を持ち込んだかを記録できる。そして、デジタルトークンが報酬として発行され、公共サービスと交換することができる。

リサイクル業界はブロックチェーンを歓迎するか?

ブロックチェーンはリサイクル業界を変革する方法を提供できる一方で、すぐの採用は難しいかもしれない。リサイクルゴーのチェン氏によると、リサイクル業界は一般的にレイトアダプターの範疇に入るという。しかし、リサイクル企業がブロックチェーンの学習に時間を取られることなく、収益を上られるとわかれば、最終的にはその技術を利用したいと思うようになるだろうと彼は指摘している。

チェン氏はさらに、リサイクルゴーが国際的な家庭用ブランドとコラボレーションによって、プロジェクトでは2025年までにリサイクル率を25%にすることを公言していると加えた。「多くのリサイクル素材を求める市場があるが、私たちは、現在のところそれをサポートするだけの十分なコンテンツを持っていない。」

ペシュカム氏はさらに、リサイクル分野ではブロックチェーンベースのプロジェクトが数多く登場している一方で、「これらのプロジェクトで前進するには、世界的なリーチと影響力を持った変革のチャンピオンを必要としている。」と指摘した。こうしたことからペシュカム氏は、ブロックチェーンコミュニティは、廃棄物分野におけるデジタルコラボレーションと革新的なユースケース、金融インフラを通じて、この変化を支援することができるとしている。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン