OmiseGoの長谷川潤氏、仮想通貨の分散型取引所に見解 責任の所在は?

「仮想通貨市場が下げ基調にある今年は、技術開発に集中する時だ」。この業界にいる多くのプレーヤーが度々この言葉を口にする。仮想通貨を17世紀のチューリップ・バブルになぞらえる人もいるが、技術の潜在力を長期的に信じる人もいる。法定通貨や仮想通貨、その他トークン化されたあらゆる価値のP2P取引・決済プラットフォームを開発しているOmiseGoも、ブロックチェーンを使った新しいシステム開発に注力するプロジェクトの一つだ。創業者の長谷川潤氏は2013年、Eコマースプラットフォーム事業のOmiseをタイで起業。そこで決済システムの課題に直面したことからB2B向けウォレット決済サービスに転業した。ブロックチェーンには、研究開発ラボを設置した15年から関わり始める。17年に入り、複数のブロックチェーン間での価値交換を実現させるためOmiseGoを立ち上げた。

Omiseがタイのデジタル経済社会省傘下の電子取引開発機構(ETDA)と国家IDプロジェクトで協力したり、長谷川氏がフォーブス・ジャパンの「日本の起業家ラインキング2019」で第9位に選出されたりと、長谷川氏の功績は既に広範に認められている。日本人を代表するブロックチェーン起業家に、分散型取引所(DEX)の考え方やOmiseGoの下落相場での開発状況について聞いた。
長谷川潤CEO「(ブロックチェーン)テクノロジー自体が出来ることはそんなに多くないと思っていて。ペイメント、サプライチェーン、トレーサビリティとかシンプルな部分から入るのが一番早い」

DEXを巡る2つの事件

11月はDEXに関する2つのニュースが話題になった。

1つは、イーサリアム上に構築されているDEXの中で、トランザクションのシェアが最大(過去30日間のシェアは約45%)のIDEXだ。IDEXは、米規制当局からの圧力に応じるかたちで、利用者のIPアドレス制限に加え、本人確認(KYC)を完全実施する方針を示した

中央集権的な取引所ではなくDEXを使う理由の1つには、個人情報の提供が不要ということがある。DEXは取引情報と個人情報が紐付かずユーザーのプライバシーがより保たれるが、マネーロンダリングに利用される可能性が指摘されている。最大手のDEXがKYCを実施するとなると、その他のDEXにもこの動きが波及する可能性があり、DEXのメリットが損なわれるとの懸念の声が上がった。

もう1つは、DEXのイーサデルタ(EtherDelta)の創設者ザッケリー・コバーン氏が、米国証券法で有価証券と見なされるトークンの取引サービスを、SECに登録していない同取引所を通じて提供したことで起訴された事件だ。コバーン氏は罰金の支払いに応じている。

SECは、スマートコントラクトで動くDEXを、中央集権的な取引所と同様に規制する姿勢を示したことに加え、コードを書いたイーサデルタ創業者のコバーン氏に責任を負わせた。

コバーン氏は16年7月にイーダデルタを立ち上げた。17年11月に同事業の売却に合意し、翌月12月中旬にはプラットフォームのユーザーから手数料を徴収するのを停止している。現在は運営に関与していない。ここで危惧されるのは、コントラクトを書いてデプロイするだけで、コバーン氏と同様に訴訟を提起される可能性が出てきたことであり、開発者にとって不安を喚起するような事件となった。DEXを開発しているOmiseGoは、この2件のニュースをどのように受けとめたのか。今後の開発に影響はあるのか。

DEXとKYC

OmiseGoの長谷川氏は、DEXのKYC導入自体の是非についての言明は避けつつ、以下のように話す。

「僕らはDEXを作っています。DEXは入り口で、機能で、プロトコルでしかないので、インターネットと同じだと思っているんですよ。例えば、ダークウェブはインターネット上で作れるじゃないですか。インターネットが存在したのはダークウェブのためじゃないですよね。情報をのせて流すことができるという機能がインターネットだと思うので。 だからインテンション(意図)の問題だと思うんですよ。また、その上に作られるアプリケーションの問題で。(中略)

僕らのDEXの上にサービス提供者がいて、そのサービス提供者がDEXを利用してエクスチェンジ(取引所)をやるとか、板を提供するとか。そこがコンプライ(従う)しなきゃいけないことがあると。あくまでOmiseGoというのは、インフラレイヤーなので、僕らはそういうセンシティブな情報だったり、そういったものに接したくはない。 僕らはあくまでインターネットを提供するというだけですね。そこでKYCをしないと使えないとか、KYCをしなくても使えるとか、そういうのは僕らの中にはなくて。価値交換ができるプロトコルを提供するのが私たちです、という考え方です」

KYC導入後のDEXのコストや利用するメリットについては次のように見解を述べた。

「KYCのコストだけの問題と思いますけどね、そこの部分がトランスペアレンシー(透明化)にできるプロトコルができれば良いだけの話。E-KYCだったり、新しいAMLに関してもオンチェーンできる何か、プロトコルとかが出てくれば、コスト的な問題は解決できると思うんですよ」

「どちらかというと、トランザクションのビヘイビヤー(動作)を誰が判断するのかっていう話があって。今までセントライズドパーティー(中央管理者)がやって失敗してきているので、だからこそDEXは意味があるのかなと。安全性を確保するという意味で。匿名性があることが悪いのではなくて、どちらかというと安全に利用できることの方が重要なので。その安全の定義が人によって違い、たくさんあるというだけで。それはちょっと今後の動向を見ていくしかないかな」

「OmiseGo自体は、段階的に見ていて、僕らの最初のバージョン1のDEXは、セキュリティを担保するカストディマネジメント的なものになるんですね。なので、まだフルオンチェーンのDEXではないので、ステップを踏んでいくのかなと。レギュレーターのことは全くわからないですね。それをどうでも良いというのは簡単だと思うんですけど、それをどうでも良いと言うと急に使える人は決定されてくるので、そこは賢くやるとこなのかと思います。Omiseと他との差は、ずっとリアルビジネスをやってきていて、各国のライセンスを取っていること。僕らはコンプライアンスチームもいて慎重にやっています」

DEXを利用する最大の利点は、匿名性というよりもトランザクションがスマートコントラクトで処理されるところにあり、サービスを広範に普及させたければ規制当局を無視した進め方では上手くいかないとの考えを示唆した。

DEXの責任者

個々の責任でインターネットを利用するのと同様に、DEXをどのように利用するかは使う人の問題と長谷川氏は指摘する。イーサデルタに関しては、手数料の徴収が責任発生のポイントになるとの認識を示しつつ、既に同DEXの運用に関わっていない創業者への同情を匂わせた。

「イーサデルタ、僕はファウンダーを知っているので。ザックは大変そうですね。(当局の判断に関しては)ノーコメントですね。ただ、サービス運用者と言っている以上は、責任はあると思います。例えば、インターネットでサービス運用者は誰ですか?って言っても分からないじゃないですか、プロトコルでしかないので。インターネットにサービスをのせた時点で責任だと思うんですよ」

もし本当に何もレギュレーションに縛られたくなく、ひたすらプロトコルに集中したいのであれば、その人はそこから一切インセンティブを取ることがあってはいけないと思います。 例えば、イーサデルタのファウンダーは、少なからずフィー(手数料)を(昨年12月までは)取っているので、それってライアビリティ(法的責任)ですよね。サービス提供しているので。

ただ、あれは全てオンチェーンで、彼自体は運用も何も関わっていなくて、ただインターネットにのっかっています、みたいなのと…多分それって誰のライアビリティ?って言っても、コード書いただけで、運用も何もしてないし、オープンソースにのっかっているだけなので、プロトコルの一部でしかない。それを利用するのは、利用した側の問題だと思うんですよ、今度は。それを使い始めて何かをしたという。

なので、作った人が(責任がある)っていうのは、多分それってナイフを作って、料理作るためにも使えるし他の色んなことに使えるものを、人を刺すのに使ったら、それはナイフを作った人の責任になるんですかっていう話なので。インテンションとアクトは別だと思うんですよ。(中略)コンピューターで人を叩いたら、怪我するのと同じだと思います。コンピューターは人を叩くものではないので。そういうコアな問題だと思います。倫理的な方の問題」

「(開発者の間でこの事件は)話題にはなりますよね、もちろん。みんなビビるので、そこに関しては。レギュレーション怖いので。ただ、それで何か止まるようなテクノロジーではないと思いますね。そこに関しては大丈夫だと思います」

「ディセンタライゼーション(非中央集権)は、 インセンティブ・アライメントとトークンエコノミスがよくできていれば、セントライズドパーティーがディシジョンメイキング(意思決定)する必要がないと思うので、(悪い行動をすれば悪い結果がついてくる)そのインセンティブ・アライメントをきちんと安全に作らなければならないというだけで、それさえできれば心配いらないのかなと。

ただそこのキャピタライゼーションが大きくなると、他のセントライズドパーティーのインセンティブ・アライメントどうなってくるの?…つまりタックスとか。そのあたりが問題になってくるのかなというだけで、ガバナンスという意味では、トークンエコシステムで普通にできると思いますね」

下落相場での開発

今年の仮想通貨市場は下落相場で、中でもイーサリアムの下げ幅は大きかった。イーサリアムの価値は現在およそ115ドルで、今年のピークの1109ドルから、およそ10分の1に下落している。このような相場になったのはなぜか。事業や開発に影響しているのではないか。

「(イーサリアム共同創業者の)ヴィタリックとかも話していましたけど、本来あるバリューと、ただ投機的に起きていることの差が(2017年は)結構大きかったので、これ(今年の下落相場)は起こるべくして起こったのかな、必然的に起きたことなのかなと自分の中で納得するようにしています」

「賢いところで、投機的に考えていないところは、そこら辺きちんとやっていると思いますよ。うちもそこに関しては、仮想通貨の(価値の)上げ下げでプロジェクトの成功が決まってしまうようなやり方はしていないです。(中略)今の市場が織り込み済みだったというよりも、常にリスクヘッジはしていないといけないので。

(OmiseGoが)他のプロジェクトと違うのは、VCがバックにいてビジネスやっているので、プランAだけでなく、B、C、Dと常に考えているので、そこは大丈夫です」

ほぼ全ての仮想通貨・トークンと同様にOMGトークンの価値も下落しているものの、イーサリアム上のトークンの時価総額を比較すると、OMGは仮想通貨取引所バイナンスのBNB、メーカーのガバナンストークンであるMKRに続いて3番目に大きい(11月21日時点でOMGの時価総額は2億6530万ドル)。この理由について長谷川氏は、開発に集中していることのほか、トークンの保有者数が多いためと推測した。OMGを保有するアドレス数は約65万個で突出している。(BNBは30万個、MKRは6400個)

マーケティングの手法として今年流行っているエアドロップを、OmiseGoは昨年9月に実施した。およそ28億円を調達したイニシャル・コイン・オファリング(ICO)と合わせ、トークンの保有者を分散させたことでリスクも分散し、現在に繋がっているとの見方を示した。
「もともと僕は金融にすごい興味があるので、特定の人はいないけど、ペイパルやスクエア(イーロンマスクやジャックドーシー)などの金融にバックグランドがある経営者は結構好きかな」

2019年のOmiseGoはサービスをローンチしていく

OmiseGoは11月1日、チェコ共和国のプラハで開催されたイーサリアムコミュニティのカンファレンスDevcon4で、OMGネットワークのテストネットに構築した初めての分散型アプリ(DApps)を公開した。ブロックチェーン・ゲーム開発のホードと協力してOMGのプラズマチェーン上に制作したゲーム「プラズマドッグ」により、スケーリング技術のプラズマの開発が順調であることを示した。ユーザーの反応も上々だったと話す長谷川氏は「結構ポテンシャルががあるんだな(と思った)」と、手応えを得たようだ。
最後に、19年の展望を聞いた。

「2019年は明るいと思っています。一つは(OmiseGoの)プロダクトと、僕らがパートナーシップを結んでいるところがサービスをローンチしていくと思うので。そういう段階まで来ているので、これから本当の意味で楽しくなっていくのかなと。(中略)
(具体的には)ウォレットサービスは出てくると思っています。あとは、僕らのカストディマネジメントである最初のバージョンのDEX。カストディマネジメントをオンチェーンでできる、しかもプラズマチェーンで、OMGネットワーク上でできる。新たなセキュリティを担保できるモデルは結構大きいかなと思っていて」

「今までセンタライズド(な取引所)で、ホットウォレット、コールドウォレット、すごくハッキングを気にしなければいけなかった状況から、(カストディのセトルメントの部分が)本当の意味でピア・ツー・ピアで行えるようになる。そこはものすごいセキュアになるのかなと思っています。なので、数ミリオン(ドルが)なくなったというのはもう起きない。そういう時代が来ようとしているのかな。(中略)DEX開発は、かなりの勢いで進んでいるので、それを見ているっていうのが、僕らの描いているマイルストーン通りに物事が本当の意味で進み出したのが、一番今はエキサイティングなところですかね」