ビットコインをゼロから理解する 〜第1章:通貨そのものへの理解を深めよう:後編〜

後編:通貨・貨幣の機能と、貨幣が価値を持つ秘密 part2

前回の記事では、貨幣の価値を支える根拠については様々意見があるがどれも不十分な点がある、という結論で終わった。本記事では、私が最も納得のいった「貨幣が価値を持ち貨幣として成立するのは、それが貨幣であるからだ」という岩井克人氏の説を紹介していこう。

ただ、その前に、世の人々が貨幣のどこに価値を感じている・価値の源泉を何だと思っているのかについて、著名なビットコイナーである大石氏がそのフォロワーにアンケートを取っており、その結果が興味深いので見てみよう。

 

なるほど、日本円の価値の根拠に関して、それぞれ様々な意見が述べられている。「政府の債務履行能力」であるとの意見が6割ほどで、「利便性、ネットワーク価値」、「偽造できない技術」などの理由が続く。

しかし、私にはどの意見もピンとこない。例えば、何かを買う場面でも売る場面でも良いのだが、一万円札を使う際に「政府の債務履行能力」、「偽造できない技術」に価値を感じて一万円札を使ったことなどないからだ。(「利便性、ネットワーク価値」については少しイメージができるが…)

この私の違和感を解決したのがこれから紹介する岩井氏の説である。

何が貨幣の価値を支えているのか?その答えは、「それが貨幣であるから」である。

以下で詳細を説明しよう。

 

岩井説の説明

岩井説の結論を端的に述べると「貨幣が価値を持ち貨幣として成立するのは、それが貨幣であるからだ」というものである。

これだけだと、何を言っているかわからないのでもう少し噛み砕いて説明する。

 

「貨幣が貨幣として使われるのは人々がそれを貨幣として将来使えると信じているからであり、その信じているという現象の根拠は、それが今まで貨幣として使われてきたという事実にある。」ということである。貨幣の価値を支えるに実体的な根拠は何もいらず、貨幣として流通しているという事実が貨幣を貨幣たらしめるということである。

これでも何を言っているかわかりづらいと思うので、一万円札を例にとって見てみよう。

現在、一万円札が一万円の価値があるものとして使われている(ex.一万円札引き換えに一万円相当のメロンを買うことができる)のは、一万円札を持っているとそれを将来一万円相当の何かと交換できと信じているからであり、その信じているという現象の根拠は、今まで一万円札を使うことで一万円相当の何かを買うことができたという事実に支えられているということである。

つまり、国家の債務履行能力がどうだというのは、貨幣の価値に何の根拠も与えていない。貨幣が貨幣として流通してきたという事実が、将来その貨幣を貨幣として使えると人々が信じる根拠となり、その信じているという事実によって人々は現在貨幣を使うのである。

この「過去使えた→将来使えるはず→今使える→過去使えた→将来使えるはず→…」というサイクルが延々と回り続ける、これが貨幣が価値を持ち成立する秘密であると考えられるのである。

 

本当に実体的な価値がなくても貨幣は成り立ってきたのか?

個人的に、上記の説は膝を打つものだった。しかし、同時に「本当に実体的な価値がなくても貨幣は成立するのか?」という疑問も覚えた。これは読者も同じであろう。

そこで、貨幣が過去その実体的な価値がなくとも問題がなかった例をいくつか見てみよう。

 

  • 金貨
    金に実体的な価値があると信じられていた時代において、金貨の価値は金を含有していることによって支えられていた。しかし、金貨は流通の過程で摩耗したり改竄されたりしてその額面を保証するだけの価値の金を含有していないという現象が起こっていた。実体的な価値と貨幣がリンクしていない例と言える。

  • 紙幣
    紙幣は金貨よりももっとわかりやすい。もはや紙でしかなく額面と同じだけの価値がそこにはない。前回の記事で説明した兌換紙幣(=政府が金との交換を保証してくれている紙幣)に関して言えば、金によって価値が担保されていると言えなくもないが、現代において、紙幣は不換紙幣(=金との交換が国家によって保証されなくなった紙幣)であるので、そこに額面通りの実体的な価値はない。

  • 銀行の預金
    現在、日本で支払い等に使われるお金のうち、実体として存在する現金通貨(一万円札などの日本銀行券と500円玉などの硬貨)は約96兆円であるのに対し、銀行預金(銀行の通帳にデータとして記されているお金)は約620兆円(cf.信用創造)である。(マネーストック速報:2017年8月、日本銀行資料)。つまり、もはや貨幣はデータになっていて実体すらなくなってしまっているのである。

以上を見てみると、貨幣というのは何度も実体的な価値が消失することを経験してきたことがわかる。それどころか実体その物がなくなっているが、それでも流通し、機能している。このことを考えるとビットコインのような仮想通貨が円やドルといったその他の貨幣と同様に成立するのは何も不思議ではない。


 

貨幣の崩壊とは?

ここで視点を少し変えて、貨幣が崩壊するとはどういうことかを考えてみよう。よく貨幣の価値がなくなる、信用力がなくなると表現されるが、それは具体的にどういうことなのか。今までの話の流れから、貨幣が成立する上でのポイントは、「過去使えた→将来使えるはず→今使える→過去使えた…」というサイクルが回り続けることである。

ということは、貨幣が崩壊する・機能しなくなるのはこの循環が崩れた瞬間である。具体的な名称で呼ぶと、ハイパーインフレーションのことである。(※ハイパーインフレーションとは急激な物価の上昇すなわち急激な貨幣価値の下落である)

結局、自分の持っている貨幣が将来同じ価値を持っていると信じられなくなってしまうと、人々はその貨幣を今すぐ使用する。そうすると市場にその貨幣が溢れ、その貨幣の価値が下がる(=物価が高騰する)。その結果、人々はその貨幣が将来、現在と同じだけの価値を持っていると更に信じられなくなり、その貨幣を更に市場に放出する…

以上のサイクルが繰り返された結果起きるのがハイパーインフレーションであり、これこそが貨幣の崩壊である。

過去、法定通貨が崩壊してきたようにビットコイン等の他の仮想通貨も崩壊しうるであろうということは念頭に置いておきたい。

 

本記事のまとめ

  • 貨幣に価値がある理由

  • ビットコインは貨幣たりうる

  • ビットコインも他の貨幣と同様、価値がなくなりうる

 

以上、本編にて、通貨・貨幣の機能と本質、ビットコインが通貨・貨幣となりうるということについて述べてきた。次回は貨幣そのものというより、投資商品としてのビットコインについて簡単に見ていこう。