AIによるコンテンツ生成を行う制作スタジオ「アレテア(Alethea) AI」は5月15日、AIのアルゴリズムにより生成したメディア素材「合成メディア(synthetic media)」を取引できる、ブロックチェーン基盤のクリエイター向けマーケットプレイスを公開した。

合成メディア(synthetic media)とディープフェイク

コインテレグラフは、アレテア AIのアリフ・カーン(Arif Khan)CEOに対して、「ディープフェイク(deepfake)」が生み出した法的・道徳的な泥沼に対処する方法について、インタビューを行った。

カーン氏は、合法かつ許諾を得た創作物の流通・収益化をになうブロックチェーン基盤のインフラを提供することで、ブロックチェーンが「合成メディア」コンテンツに関する責任を保証する役割を果たせると考えているそうだ。

「我々は、ディープフェイクと合成メディアを区別する必要がある」

ここでいうディープフェイクは、有害かつ無断で生成されたディープフェイクポルノ、政治的な目的のため作成された誤った情報などを指している。合成メディアは、例えば、顔や声に関する許諾のもと、亡くなる予定の親の肉声クローンをAI生成し、その子供に聴かせるオーディオブックに適用することなどを指すという。

アレテア AIのマーケットプレイス向けコンテンツは、提携済みのソフトウェア企業Oasis LabsOasisブロックチェーンにおいて、「Oasis API」によりラベル付けがなされており、コンテンツ制作者だけでなく、画像処理を行う者も、制御できるようにしているという。

ツイッター提供の青い「認証済み」チェックマークと同様、同社はブロックチェーンによる検証を行うことで、有効な素材と疑わしい素材を切り分けられると信じているそうだ。カーン氏は、法的な許可と同意は、流通および収益化が可能な合成メディアの基本的な基準となると述べた。

また同氏は、顔認識データベースを提供するスタートアップ企業のClearview(クリアビュー) AIに関する騒動を指摘した。

Clearview AIは、撮影した顔写真と、30億人分の相当の同社画像データベースとを照合できるという、法執行機関向けサービスを提供している。2020年2月、同社はイリノイ州住民ほぼすべての情報をSNSなどにおいて無断で収集・保存し、警察機関に提供していたことが発覚した

「Clearview AIは人々の顔を盗み、同意なしに法執行機関に販売した。人の顔と声のデータはその個人に属し、企業や規制当局が祖有することはできない。Oasis Parcel APIの目的は、それらデータを機密情報として安全に保管し、Oasisブロックチェーンを通じてアクセスできるようにすることだ。ユーザーは、自分のデータに関する制御を保持しており、データにアクセスし、就役する方法を選択できる」

AI技術により、顔認識を超えて本物の外見をシミュレートできるようになった現在、「悪意のある者がこの技術をどう使うか考えると」迅速に対応する必要はあるものの、どのような合成メディアが公共の利益に沿っているのかという点は、最終的には規制当局と市民の判断に委ねられていることをカーン氏は認めた。

我々の顔や声は、完全に移植可能、合成可能、そして取引可能

カーン氏は、「このテクノロジーから生まれる可能性がある、ポジティブなユースケース」として、アレテア AIの合成メディアが一般の人々を教育するのに役立つと主張した。またポジティブな可能性を示す点について、次のように説明した。

「合成メディア(中略)では、人間が物理的に交流する必要はない。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックなどにより、映画スタジオなどが新たなコンテンツを作成できない状況では、重要だ。

我々は現在、俳優やタレント、その事務所が安全な方法で顔や声のデータをライセンスできるようになった。

(中略)我々の顔や声は、完全に移植可能、合成可能、そして取引可能になる。ユーザーは、合法かつ許諾を得た環境内で創造性を発揮できる」

ディープフェイクをリツイートする米大統領とともに

人間が物理的に交流する必要がない点に、アレテア AIや合成メディアの魅力があるという提案に、ディストピア的なイメージを感じさせないか尋ねたところ、カーン氏は次のように答えた。

3300万人以上のアメリカ人が失業している(新規失業保険申請件数。2020年5月8日現在)。定期的にディープフェイクをリツイートする米大統領とともに、ディストピアはすでにここにある。

我々のクリエイタープログラムは、合成キャラクターの作成を容易にし、合成メディアによる無数の創造的なユースケースで収入を得られるよう設計している」


翻訳・編集 コインテレグラフジャパン