著者 クラーケン・インテリジェンス

クラーケン・インテリジェンスは、クラーケンのリサーチ・チームであり、事実とデータに基づく仮想通貨関連の本質的で実用的なレポートの配信を行っている。伝統的な金融市場と仮想通貨市場の双方での知見を活かし、デイリー、ウィークリー、マンスリーで最新の業界動向についてコンテンツを生み出している。クラーケンのビジョンである「仮想通貨の普及」をもとに、クラーケン・インテリジェンスは、トレーダー、投資家、ビジネスピープル、単なる趣味で仮想通貨を勉強する人、これから業界に参入するプレイヤー、そして既存のプレイヤーといった様々なステークホルダーに対して価値あるテーマの選定を心がけている。

オランダの東インド会社が1602年に世界初の株式会社として誕生して以降、資本主義システムによって多くの人々が貧困から抜け出した。技術発展とともに資本主義システムは進化を続け、時代とともに参入障壁はさらに低くなった。今日、スマートフォンと銀行口座さえあれば、長年大手金融機関の専売特許だった金融市場に誰でも参加できる。金融市場は間違いなくオープンになってきている。しかし、未だに中央集権的な組織や大手企業が有利な立場にあることには変わりがない。こうした現状に風穴を開け、最も透明性の高いマーケットを構築しようとしているのが暗号資産(仮想通貨)だ。

時価総額は、1兆ドル超。進化を続ける仮想通貨市場はインターネットに接続さえできれば誰でも数十億ドルの資産規模を持つ大企業と同じプラットフォームで肩を並べられる。また情報へのアクセス面にも格差はない。オープンソースの公開情報をパブリックブロックチェーンやギットハブ、ツイッターなどで同じように入手できる。仮想通貨市場は透明であり、全ての人に開かれている。

今回のレポートは、米国でウォール街と個人投資家による対立が鮮明となったゲームストップ(GME)株をめぐる騒動を受けて、仮想通貨と伝統的な金融市場の構造的な違いについて説明する。とりわけ、伝統的な金融市場の非効率性、つまり、伝統的な金融市場がいかに富裕層に競争的な優位性を与えているか、そして仮想通貨市場における技術発展が伝統的な市場にどのような変化をもたらすかについて考察する。

トレードの民主化

伝統的なマーケット

時は、投資ブームの時代。個人投資家にとっても使い勝手の良い投資アプリの出現によって、新たに株式市場への参入者が増加している。しかし、彼ら個人投資家は未だに「業界のインサイダー」よりも不利な立場に置かれている。

しかし、ゲームストップ騒動によって、金融業界の既得権益層が矢面に立たされている。2021年1月に我々が目撃したことは、普通ならウォール街の洗練された市場参加者たちの間で「密室」で行われる類のものだったかもしれない。しかし実際には、世界中から数千人もの匿名の個人投資家が参加するネット掲示板で晒された。それは、個人投資家たちが米SNSレディットのサブレディットであるr/WallStreetBetsを通して、完全なる透明性の下、市場にある株より多い株を売り浴びせるという市場の不都合な真実について、オープンな場で共闘して声を上げたことだ。最終的にゲームストック株を押し上げ、市場がこうした人々の意見、考え、指摘を反映することとなったのは、まさに世界中に分散された人々による議論と戦略立案の結果によるものだった。

ゲームストップ騒動は民主的なトレーディングの力を見せつける場となった一方で、これまで明るみにならなかった伝統的な金融システムの重大な欠陥が露わになった。レディットのトレーダー軍団は、現存する金融システムの脆さを理解し、ヘッジファンドの不注意をついたというわけだ。

ゲームストップ騒動では、一時は市場で流通している株(浮動株)の約140%がショートされた。市場に存在しない40%を一体一体どうやってショートすることが可能なのか?実は、既存の証券決済システムでは、決済時に証券の引き渡しを行わない(フェイル)ことが認められている(フェイルによる金銭的なペナルティ等は存在するが)。これによって市場参加者は証券を借り入れることなく株式のショートができる。ゲームストップ騒動は、今後、壊れたシステムの犠牲になることを嫌気した投資家が新たな証券取引の未来を作ろうとした現象とも言えるだろう。

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仮想通貨

民主的な金融システムの重要性はかつてないほど高まっている。インターネットがコンテンツの民主化を進めたとしたら、仮想通貨は金融の民主化を進めることになるだろう。全ての人にオープンで、透明性が高く、資産所有者の明確な定義づけとともに過去の記録全てを保管し、取引承認には過半数の賛成が必要なシステムだ。仮想通貨とその裏付けとなるブロックチェーン技術の精神とは、古びた金融システムと富裕層を利する「密室」合議からの路線変更を意味する。

仮想通貨プロジェクトはオープンソースのソフトウェアであるため、仮想通貨を支えるコードは全てギットハブで見られる。アップグレードされる時も全ての人にそれが分かるように表示される。

また、仮想通貨はネットワーク効果の恩恵を受けている。参加者が情報やコード、データを共有するインセンティブが働くように設計されており、ネットワーク全体にさらなる価値を生み出し続けられる。仮想通貨市場では参加者が協力し合って価値を発見するという文化が根付いている。

対照的に伝統的な金融市場は、情報の非対称性によるトリクルダウン(富める者が富めば貧しい者にも自然に富が浸透する)効果によって特徴づけられている。例えば、ウォール街にある大企業の顧客は個人投資家にとっては入手不可能な投資情報を手にすることができるかもしれない。その結果、トレードは公平な競争の産物ではなくなり、金融市場によるステータスやウォール街との関係性の産物になる。

伝統的な金融市場の将来も結局は民主化へ向かうと我々はみている。この民主化によって、我々の証券取引に対する見方は変わり、一般人ですら恩恵を受けられるようになるだろう。誰もが、各自の考えに基づいてリアルタイムで取引できる。何に価値があるのか、どの情報を他の人と共有するのか、判断は各自の自由だ。一部の投資家のみに開かれているプレマーケットもポストトレードも存在しない。特定の金融サービスを使うために手数料を追加で徴収されることもない。仮想通貨市場と同じように、年中無休で1日24時間、ブローカーなしで運営されることになるだろう。

さらにゼロかゼロに近い手数料によって、少ない資本しか持たない一般人も参加しやすくなるだろう。資本は資本を産むため、金融の民主化によって富の分配が進むだろう。歴史的に金融市場の成長の恩恵を受けられてこなかった人々が、これまでのステータスに関係なく金融市場に参加できるようになる。

新たな金融システムでは、個人投資家はテクニカルなスキルを多く身に付けることができる。オンラインで金融データが入手可能になるため、APIを駆使してリアルタイムのデータを取ってくるスキルは他の投資家との差別化につながるだろう。開発者も消費者もマーケットの成長に取り残されないようにますますテクノロジーに精通するように努力することになる。将来的には、個人投資家が機械学習を使って投資の判断をするようになるかもしれない。新たな金融システムでは、全体的に投資家のリテラシーが底上げされるだろう。

取引の処理プロセスで遅延の原因となっている決済システムに存在する中間業者は、コードやスマートコントラクト、その他の自動化されたプロセスに置き換えられるだろう。これによって取引プロセスの効率化が実現するだけでなく、ブロックチェーン基盤の分散型ネットワークの性質を活かしてセキュリティーと透明性がより一層向上するだろう。取引される全ての資産はブロックチェーン上に永遠に記録され、誰が所有者で、いつ取引が行われたのか、承認されたのかが明らかになり、過剰なシステムとなる可能性を取り除くことができる。

仮想通貨の精神の下、クラーケンなど仮想通貨取引所は、投資経験や投資額にかかわらず全てのトレーダーを守ることが自社の利益になる。これら仮想通貨取引所にとって、中間業者やブローカーが、ユーザーの口座を停止したりトレードを止めたりすることは非現実的だ。仮想通貨システムには、「金融包摂」の文化を醸成する可能性が秘められている。そして、伝統的な金融システムも、仮想通貨に差をつけられないように準備する必要があるだろう。さもなければ、ますます時代遅れになってしまうと我々はみている。

トークン化が伝統的な金融市場にもたらすもの          

 

 

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本記事の見識や解釈は著者によるものであり、コインテレグラフの見解を反映するものとは限らない。