サイト閲覧者のパソコンのCPUを使って、仮想通貨マイニングを行うプログラム「コインハイブ」を使ったサイト運営していた複数の人物が、警察から捜査を受け、そのうち1人が書類送検されたという。複数のメディアが報じている。
報道によれば、警察は不正指令電磁的記録(ウイルス)供用などの容疑で捜査しているとしており、警察当局はコインハイブをウイルスの類だと解釈しているようだ。
読売新聞によれば、神奈川、宮城、茨城などの県警が捜査しており、少なくとも5人のサイト運営者を捜査しているという。そのうち1人が今年3月、横浜地検に不正指令電磁的記録取得・保管罪で略式訴訟され、罰金10万円の略式命令を受けたという。
摘発された人物がブログで経緯
自身も摘発されたというデザイナーの「モロ」さんが、詳しい経緯をブログで発信している。モロさんは、記事公開の目的は「この記事を公開した目的は『他のクリエイターの人に同じ経験をして欲しくない』という一点に尽きます」と書いている。
モロさんのブログによれば、広告あふれるメディアのあり方に疑問を感じ、昨年9月下旬にコインハイブを自身のサイトに導入し、同年11月上旬に削除した。
その後、今年2月上旬、突然警察から連絡があり、取り調べが行われたという。モロさんのブログには、警察の担当者が威圧的な態度を取った様子が生々しく再現されている。警察は「事前に許可(もしくは予感させること)なく他人のPCを動作させたらアウト」と説明したという。
ただモロさんは、「解釈がめちゃくちゃアバウト」で、「(法律で規定されている)不正な指令」についてまるで考慮されていない」と指摘する。
モロさんは、略式起訴に異議を申し立ての裁判を行うという。「当然のように『Coinhiveはウイルス』と解釈を変え、さらにそれがCoinhiveだけに留るとは限りません」と懸念するからだ。「今後の「ウイルス罪」運用を健全なものにし、新しい価値を生み出そうとするクリエイターが割を食うことのないよう、できることをしたいと思っています」と述べている。
専門家からは疑問の声
今回の警察の対応には、専門家からは批判の声もあがっている。産業技術総合研究所の高木浩光主任研究員は、ブログで「『自分のパソコンのCPUを勝手に使われる』こと自体を不正とするのは、どうか」と疑問を呈する。CPUに負荷を与える広告コンテンツを取り上げ、「いかなるWebサイトの閲覧についても『あなたのパソコンのCPUを勝手に使われていますよ』と指摘しなくてはならない」と述べている。
高木氏は、「『マイニングさせられる』こと自体を不正とするのは、暗号通貨自体を嫌悪する個人的感情に基づくものに過ぎないのではないか」と書いている。
コインマイナーの登場自体が新たな犯罪なのではなく、Webサイト改竄とかサーバ侵入という従来型のサイバー犯罪を実行することの目的として、新たな換金の手段ができたということに他ならない。その結果として従来型のサイバー犯罪が拡大しているわけである。
コインハイブ、ユニセフでも活用
コインハイブはオンライン広告の代替手段として提供されているプログラムだ。米ウェブメディアのSalon.comが広告の代替手段として採用したり、豪ユニセフが寄付の方法として使っている。どちらの場合もユーザーに事実を伝えた上で選択できるようにしている。
一方でサイト運営者が知らない間にプログラムが埋め込まれている事例もある。いわゆる「クリプトジャック」と呼ばれるものだ。今年5月、サイバーセキュリティ研究者による調査で、世界300以上の政府や大学のウェブサイトでコインハイブのコードが検出された。また動画サイトのユーチューブに、仮想通貨をマイニングさせる広告が出稿されていた。
日本でも漫画を無許可で掲載していた「海賊版サイト」で仮想通貨をマイニングするプログラムが組み込まれていたと報道されている。トレンドマイクロは5月、18年第1四半期のセキュリティ動向をまとめた中で、日本国内においてもクリプトジャックが増えていることを指摘している。