著者:創・佐藤法律事務所 ヨーグ・シュミット

ドイツ連邦共和国弁護士(日本非登録)。2019年5月、創・佐藤法律事務所に入所。キャピタル・マーケッツ及び最先端のテクノロジーに関する法分野を専門とする。入所前には、ドイツ有数の法律事務所のシンガポール及びクアラルンプール拠点にて勤務し、多くのクロスボーダーM&A案件に関与。また、欧州及び米国の法人顧客の為に広く企業・商事法務(会社設立、ジョイントベンチャー、リストラクチャリング、ファイナンスを含む)を取り扱う。更に、東南アジアにおける車載通信システムの普及に関し、大手自動車メーカーを支援。現在、国際トークン標準化協会(ITSA)の東京におけるアンバサダーを務め、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)とセキュリティ・トークン・オファリング(STO)に関するPhD論文を執筆中。また、2017/2018にはOxford大学のFintech Programを修了。

DeFi(分散型金融)プロトコルでトークンを交換したいユーザーは、2つの種類の分散型取引所(DEX)を使うことができる。1つは、オーダーブック(注文板)を持つ分散型取引所。もう1つは、自動マーケットメーカー(AMMs)だ。後者は2020年夏頃から急速に人気が高まっており、執筆時点では分散型取引所の取引高の90%以上を占めている

AMMsの人気の背景には、イーサリアム ブロックチェーンの技術的限界、及びAMMsではプトロコルに流動性を供給することでトークン保有者が受動的な収入を得られる事実がある。

AMMsの仕組みは単純だが、複数の異なるトークンが関与しており、規制の観点から複雑となる要因となっている。

例) Uniswap, Curve, Sushiswap, Balancer, Bancor

中央集権型取引所や他の分散型取引所と異なり、AMMsはオーダーブックに依存していない。AMMsのトレーダーは、他のトレーダーと関わることはなく、スマートコントラクトで管理される流動性プールとやりとりをすることになる。

流動性プール

流動性プールは、AMMsの取引場所だ。それぞれのプールは、少なくとも1つのトークンペアで成り立っている。例えば、WETH/DAIだ。プールが作られる時、流動性提供者は同価値の2つのトークンを預けることになる。プールが作られる時にWETHが500米ドルでDAIが1米ドルあると仮定する場合、流動性提供者は、1WETHに対して500DAIを預託する必要がある。もしユーザーがプールを使ってトレードしてDAIをWETHに交換したら、DAI建てのWETH価格は次のトレード時に上昇する。対照的にもしユーザーがWETHをDAIに交換したら、WETHの価格は下落する。

(出典:創・佐藤法律事務所「AMMの仕組み」)

必ずしも全てのトークンペアに対してプールが存在するとは限らないため、最近のプロジェクトでは、異なるプール間でトレードを可能にする仕組みを採用している。

流動性提供者

流動性プールの流動性は、流動性提供者(Liquidity Providers、しばしばLPと呼ばれる)によって提供されている。流動性を供給する時、流動性提供者はLPトークンを代わりに受け取る。LPトークンは、流動性プールへのシェアを表している。また、ユーザーからの手数料を持分割合に応じて受け取ることができる。

一般的に、LPトークン は、いつでも償還できる。

一部のプロジェクトは、LPトークン をステークすることを認めている。流動性提供者は、見返りにガバナンストークンを受け取る。ガバナンストークンは、インセンティブとして使われる他、統治権の配分、すなわち分散化、のために使用される。

ユーザー

AMMsのユーザーは、他のユーザーと関わり合いを持たずに、スマートコントラクトとだけやりとりをする(上記参照)。価格は、プールの中の他のトークンとの相対的な関係の中で決められ、事前に決められた公式に基づいて計算される。もしトークンの価格が市場価格と異なれば、アービトレージ(最低取引)の機会が生まれ、アービトレージャーによって他の取引所との間の価格が調整されることになる。

 

CEX

DEX

AMM

fully decentralized

hybrid

custodial

yes

no

no

no

order book

off-chain

on-chain

off-chain

n/a

matching engine

off-chain

on-chain

off-chain

n/a

settlement

off-chain (until withdrawal)

on-chain

on-chain

on-chain

onboarding

KYC

no KYC

KYC possible

no KYC

crypto to fiat

yes

no

no

no

multi-chain support

yes

no

possible

no

liquidity

high

low

medium

high

censorship resistant

no

yes

no

yes

(出典:創・佐藤法律事務所「中央集権型取引所と分散型取引所(完全に分散型・ハイブリッド型)、AMMの比較」)

規制

規制に関しては、以前の分散型取引所の記事で示したように、2段階のアプローチに従う必要がある。まずは、活動が規制されているかどうか分析し、規制されている場合のみ、規制の対象となる者が存在しているか分析する。

但し、AMMsの場合、最初に「LPトークンが証券かどうかの検証」という追加的なアプローチを取る必要がある。LPトークンが証券となる場合、LPトークンの発行だけでなくAMMの他の活動にも影響を与えることになる。

(出典:創・佐藤法律事務所「規制を分析する上で必要なステップ」)※

トークンの分類

流動性提供者は、LPトークンにより、トレーダーから支払われる交換手数料の分配を受ける機能を取得するため、金融商品取引法(金商法)で証券とみなされる可能性が高くなる。他のトークン は資金決済法資金決済法における第1種もしくは第2種の仮想通貨(暗号資産)と考えるのが一般的だ。

規制された活動

以下のような活動は規制の対象になるかもしれない。

(i) 仮想通貨預託との交換でLPトークン の発行・・・証券の発行は金商法で規制対象になるのが一般的だ。

(ii) 預託された仮想通貨の管理・・・他の誰かの仮想通貨を管理することは一般的には資金決済法における仮想通貨交換業と考えられる。しかし、もしLPトークンが(多くのケースで見られるように)金商法 における証券とみなされる場合、仮想通貨のプールへの預託は投資であると考えられる。その場合、仮想通貨は他の誰かのために管理されているわけではなくなり、投資目的となり、仮想通貨交換業で規制された活動ではなくなる。

(iii) 仮想通貨交換の媒介サービス・・・資金決済法において仮想通貨交換業と考えられる。ユーザーが他のユーザーと交換しているか、スマートコントラクトと交換しているかは、無関係だ。

(iv)ガバナンストークンの発行・・・ガバナンストークンの発行は、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)と類似する新たなトークンの発行と考えられるかもしれない。ただLPトークンが新たに発行されるガバナンストークンと永久的に交換されるわけではなく、スマートコントラクトに一時的にロックされるだけであるため、ICOとは状況が根本的に異なっており、規制の対象ではないと考えられる。

規制される実体(entity)

規制される活動が1つか2つあると想定される場合(ほとんどのケースはそうなのだが)、最後のステップとして規制される実体(entity)があるかどうかを決めなければならない。

金商法と資金決済法は、双方とも、規制される活動を提供する「者」は金融庁の登録を受け、ライセンスを得なければならないとしている。プロジェクトが十分に分散化されている場合、そのような「者」は存在せず、登録やライセンスの要求は適用なくなる。

あるプロジェクトが十分に分散化されているかどうかは、その都度、分析されなければならない。プロトコルの創設者が広範囲に及ぶ管理権限を有してプロジェクトに対してコントロールを及ぼし続ける場合は、金融庁に登録しなければならない可能性が高くなる。

管理権限がガバナンストークンの形でコミュニティーに移譲された場合、状況が変わってくる可能性がある。これは、初期の開発者がコミュニティのためにプロトコルを維持する場合にも、同様かもしれない。そのような場合、開発者は、単なるソフトウェア提供者とみなされ、規制対象とならない可能性がある。

当初規制される実体であった者が規制されない実体へ移行可能かは一概には答えられないが、間違いなく可能性はある。但し、慎重な分析が求められることになる。

Money Orderは、一部のステーブルコインにだけ関係がある。本稿では、AMMで使われるトークン は仮想通貨(暗号資産)と推測する。