ビットコインの基盤技術として発明されたブロックチェーンは、まもなく10年目を迎える。この10年で技術は進歩してきたが、いまだに魅力的なブロックチェーン ・アプリは開発されていない。そして、他の技術を時代遅れにするほどの破壊的な技術としても理解されていない。

 仮想通貨は成長し、拡大している。多くの注目がそこに集まり、エコシステムもまた発展してきている。一方で、仮想通貨の基盤であるブロックチェーン技術の応用は、いまだ不発のようだだ。なぜブロックチェーン革命は未だにその初期段階を抜け出せないのか、その理由はいくつもあるだろう。革命を加速しうる一つの要素は、ハイテクやブロックチェーン分野外の企業が、ブロックチェーンの可能性に気づくことだろう。

 BMWやメルセデス、ポルシェなどのドイツ自動車産業が、ブロックチェーン技術を使って試作を繰り返しているということが、最近話題となっている。ハイテク産業やブロックチェーン分野の外にいた有名企業が、このエコシステムに参入してきたことで、この技術の成長を促進する可能性がある。なぜなら、現実の世界において、この技術が使用できるということを誤魔化さずに証明できるからだ。


ブロックチェーンのキラーアプリはまだない

 ブロックチェーンには、大きな可能性と成功の見込みがあるにも関わらず、その能力を最大限に発揮できておらず、技術にまつわる混乱のみが強調されている。仮想通貨エコシステムは進歩し、発展しており、次第にメインストリームの奥深くに入り込み、様々な分野で採用されつつある。しかし、それが仮想通貨技術の基礎であるブロックチェーンになると、話は変わってくる。

 イニシャル・コイン・オファリング(ICO、新規仮想通貨公開)分野を見てみるといい。パブリック・アイデンティティからウェブカムポルノサイトまで、ブロックチェーンが割り込み、革新をもたらすアイデアで満ちあふれている。しかし、この分野はいまだ初期段階にあり、ブロックチェーン技術を実践したり、ブロックチェーンによるソリューションを受容したりという実績はまだ限られている。

 ブロックチェーンによるソリューションを提供するバンキームーン社のロリエン・ガマロフCEOは、ブロックチェーン技術には成長する時間が必要であり、仮想通貨を完璧なものにするためにまず努力を払うべきだと述べる。

 「私は悲観主義者であり、多くの企業がブロックチェーンに関わろうとしていることに懐疑的である。現在我々が耳にする誇大広告は好ましくない。多くのアイディアとソリューションは、データベースを使った方が上手くいく。まさに今、誇大広告のバブルの只中にいるのだ」。

 ガマロフCEOの意見では、仮想通貨こそがブロックチェーンのキラーアプリだ。「我々が必要な次のステップは、この技術を簡単かつシームレスにすることだ。ブロックチェーンとICOに注ぎ込まれた莫大な資金と努力は、ほとんどが無駄になっている。もし仮想通貨のみに注力していれば、未来は違ったものになるだろう。現在のICO革新期は、ブロックチェーン革命を遅らせている可能性がある。より多くの人材と資源を投入して、限界に挑戦する企業や組織が求められている。

 そのような試みは、すでにマイクロソフトやIBMなどがテクノロジー分野で実践してきた。それらの企業はブロックチェーン分野に足を踏み入れており、ブロックチェーンが革新期から抜け出すきっかけになるかもしれない。しかし、もし技術畑にいない企業がブロックチェーン分野に参入すれば、そこに新たな地平が開かれるだろう。なぜなら、そういった企業は誇大広告に踊らされず、ブロックチェーン に本当の可能性を見出していることになるからだ。

 


ブロックチェーンを前進させる

 自動車業界ではブロックチェーン の応用が3件立て続けに起こた。実行可能性と効率性を重視することで知られている彼らが、ブロックチェーン・ソリューションの様々な分野に亀裂を入れている。

 メルセデスベンツの親会社のダイムラーAGは、優良運転手に報酬として与えらる独自の仮想通貨「MobiCoin」を発表した。3ヵ月間の試験運用では、500人にMobiCoinが与える計画だ。

 また、ポルシェは、ベルリン拠点のスタートアップ企業ゼインと、自動車向けブロックチェーン・アプリを共同開発した。

 BMWは、ブロックチェーンの導入を試みている。自動車製造に必要なレアメタルのコバルトを、不当な環境から採取しないようブロックチェーン によって供給源管理するスタートアップ企業との提携がロイターによって伝えられた。

 3社に共通して言えることは、自動車業界が、ブロックチェーン技術を実世界における実用性を見出していることだ。ICOの時に起きているような誇大広告は少なく、前向きな機会がある。

 メルセデスは、ブロックチェーン技術を使った安全な運転を促進する方法を見出すだろう。スマートコントラクトによって、安価で自律型なプログラムだ。

 BMWは、書き換え不能の台帳を使うことで、コバルトが出来るだけ環境に配慮した形で採掘されることを保証できるし、またその記録を追跡できるようになる。

 ポルシェは、ブロックチェーン・アプリを利用し、ドアを開閉する時に一時的なアクセス許可を与えることも、仮想化されたデータ記録を用いて新しいビジネスモデルを作り出すこともできるだろう。

 これら全ての技術の応用は、自動車業界をさらに一歩前に進めるだろう。この資源や人材、高いレベルでの実行力の集中は、ブロックチェーン技術を促進し、小さなスターアップでは埋めることのできないギャップを埋めるだろう。

 

未来を見据えて

 ブロックチェーンの革新は、2001年まで振り返ったとしても、これまで問題とされたことはなかった。伝説的な暗号作成者のニック・サボ氏は、現在ポルシェの開発者が実現しようとしているスマートコントラクトの概念について、例えを使って説明している。財産に自律的にその所有者の情報を埋め込むことで、信頼の問題をどう解決できるかを説明した。「例えば、車をクレジットで売ることができるのは、月々の支払いが滞りなく行われる時のみだ」。

 ポルシェによると、ドアの開け閉めや、一時的なアクセス許可を含めたブロックチェーン応用の試験は成功した。ポルシェのプレスリリースは、ブロックチェーンの将来的な応用可能性についてのサボ氏の言葉と響きあう。「車のデータと機能への安全なアクセスが、ブロックチェーンを使って可能になるだろう。同時に、関係者間の全てのやり取りが守られるようになるだろう」

 


誇大広告を超えて

 ブロックチェーン技術は非常に興味深く、その可能性は無限にあるように思える。それは大きなICOブームを引き起こし、同時に技術分野の巨人たちの興味をを惹きつけた。違いが生まれたのは、ハイテク分野外の企業が、その革新性を維持するための違った道を探し始めた時だ。彼らがその技術から何かを得ることができ、それが役立つと感じるならば、それはその分野にとって有益でしかない。

 ブロックチェーン業界は長らく、ICOから恩恵を受けてきたが、企業の新しい関心が集まるにつれ、共に成長できるのではないかという機運が高まっている。ポルシェ・デジタルラボのアンヤ・ヘンデル所長が、ICOはブロックチェーンの上に飛び乗る以上のことをしていると説明しているように、企業はブロックチェーンを乗っ取ろうとしている訳ではない。

 「現在ポルシェは、ドイツ・スタートアップ協会の公式な後援者だ。750以上ものスタートアップがある中で、同協会は、ドイツにいる設立者と投資家、そして企業を一同に集めることができるという意味において、もっとも重要なネットワークの一つと言える。私たちは設立者と協力して、ブロックチェーン、人工知能、モノのインターネット、サイバーセキュリティ、モビリティの分野で新しいソリューションを開発したいと考えている。もちろんこの研究所にいる専門家も一緒に」。

 ブロックチェーン自動車分野にすでに関わっていた企業もまた、これら大手企業の参入がエコシステムの成長に寄与することを期待している。大手自動車企業やフリート管理ツールとの提携に向けて取り組んでいるシェアリング社創業者ティム・ボス氏は「多くの誇大広告を、ブロックチェーン技術に関わる自動車業界に見ることができる」と述べている。

 「ブロックチェーンが安心な未来を提供し、自動車が本質的にloTデバイスとなってきている今、これら二つを組み合わせることは自然なことだ。大手自動車メーカーがこの最先端技術と取り組む最初の企業となることは、理解できる。私たちはまた、この新しい技術によって、仲介人を外す動きが自動車売買において進み、それにより車入手のハードルが下がり、また他の自動車関連の問題が解決されると考える」

 ICOの誇大広告と一攫千金型のブロックチェーンプロジェクトから離れたところにある自動車業界において、ブロックチェーンの可能性には大きな期待が持てる。これら大手企業は、スタートアップを活用し、その中で彼らの革新を組み上げ、ドイツ自動車企業にしかできない効率性をもって、それを実現しているのだ。