本稿は投資のアドバイスをするものではありません。投資をする際は、ご自身でリサーチをお願いいたします。

 米国の株式市場は最近、低調な中国経済の統計が世界の株式急落を引き起こした16年1月以来最悪の1週間を経験し、世界経済の成長に対する懸念を再び呼び覚ました出来事となった。3月19日〜23日の間の5日間にわたり、米国株式はおよそ6%下落、ヨーロッパは4%、英国は3.4%、アジアは最高4%それぞれ下落し、中でも日本株の下落率は5%超と最大だった。この株式市場の下落は、ビットコインの価値が35%下がり、結果的に仮想通貨の第1四半期の損失が47%となった1か月の間に起きた。

 ブルームバーグのデータによると、第2四半期の初日にS&P500指数が2.2%下がり、4月の始値が1929年の世界大恐慌以来最低となった。4月4日の引け際には、株式市場相場は2日の急落から回復し、S&P500指数の終値は1.3%、ダウ平均株価の終値は1.7%それぞれ上昇した。それに比べると、ビットコインの価格は今月の初めから比較的に横ばい状態となっている。

 昨年仮想通貨市場が急成長したことで株式市場が利益を享受したことなどを含むいくつかの理由から、最近の株式市場の低迷が、今年のビットコインの悲惨なパフォーマンスに関連していると考えることができる。確かに、ビットコインの下落が株価に影響を及ぼしたかもしれないが、そのような影響はわずかなものだ。株式市場の衰退は、世界経済に対する懸念に起因していた。

米中の貿易戦争に対する不安

 最新の株式急落の中心にあるのは、最高600億ドル相当の中国からの輸入品に対し、関税を課すというトランプ政権の動きによって起こる可能性がある貿易戦争に対する懸念だ。米政府は中国による不公正な通商上の慣行に関する調査(301条調査)を行った。

 米政府は4月中に対象となる商品のリストを公開する。調査を指揮した米国通商代表のロバート・ライトハイザー氏は先月22日、航空機部品、最新の鉄道用機器、新エネルギー車、ハイテク製品が新しい関税の対象になるだろうと議員に述べた。ライトハイザー氏は、中国への輸出市場に依存してる米国の農産物を関税対象にすることで中国政府が報復する可能性があることを認めた。

 トランプ政権は米国製品を保護する意志について率直に表明してきており、関税に関する最新の計画は、米政府が本気であることを示している。トランプ大統領は、新しい関税の第一段階への対応次第で、数週間のうちに中国に対するさらなる措置を検討すると報じられている。

 関税およびトランプ政権が国際貿易に対して取る可能性がある今後の行動が、国際貿易を頼りにする米企業の収益に潜在的に悪影響をもたらし、最近の株価下落の原因の一つとなっているというのが、米国金融業界の一致した見解だ。コモンウェルス・フィナンシャル・ネットワークの最高投資責任者であるブラッド・マクミラン氏が以下のように記述した文書をマーケットウォッチが入手した。

「中国に、さらに言えば、いかなる国であれ米国外に商品を売る企業にとって、マイナスの影響となる可能性が高い。再び市場が反応しているのはそのためだ。最良のシナリオでも、現在の状況よりも経済的に悪化するだろう」

 調査会社ベアードのブルース・ビットルズ氏は米放送局CNBCに対し「市場は、完璧を前提に価格設定されているため、潜在的な貿易戦争に対する懸念のような、予期せぬ物事の影響を受けやすい」と述べた。ウェドブッシュ証券の株式責任者であるイアン・ワイナー氏は、以下のように述べた。

 「世界規模の貿易戦争が、それが現実のことなのか、そのように認識されたことなのかに関わらず、市場に重くのしかかっている。現在の状況は、非常に不確かだ。中国が農産物やその他の商品に対し厳しい措置を講じれば、人は本当に動揺させられてしまう」

 「フェイスブックの事件、貿易戦争、および利上げといういくつかの出来事が同時に起きている」と、シカゴにあるキングスビュー・アセット・マネジメントのポール・ノルテ氏がブルームバーグに対し述べた。

ソーシャルメディアのプライバシー問題

 ケンブリッジ・アナリティカ社がユーザーから許可を得ず、5000万人のフェイスブックユーザーのデータを入手したというニュースが出た後、フェイスブックは、ユーザーデータの取り扱い方をめぐり批判の的になっている。この事件により、3月23日までの1週間でフェイスブックの株価は約13.8%下落し、同株価は過去1か月間でおよそ1%下落した。この新事実は、テクノロジー企業がユーザーデータの保護に十分手を尽くしていない可能性があるという不安感の高まりにより、テクノロジー関連株全体に圧力を与えた。ダウ・ジョーンズ米国テクノロジーセクター指数の動きを追跡するiシェアーズ米国テクノロジーETF(上場投資信託)は、3月12日に1株当たり182.95ドルだったのが、3月23日には165.68ドルまで下落した。ETFは今月4日、1株当たり約168.18ドルで取引を終えた。通常、テクノロジー関連株がこれほど苦戦すれば、間違いなく株式市場全体も打撃を被ることになる。

 バージニア州リッチモンドのハリス・フィナンシャルグループのハイメ・コックス氏は、テクノロジー業界全体の懸念を表明した

「テクノロジー業界全体が(フェイスブックの創業者である)マーク・ザッカーバーグ氏が3月21日に『この業界は規制されるべき』かもしれないと述べたことについて懸念を抱いている。テクノロジー企業は皆、突如として『彼がそのような発言をしたことが信じられない』と考えている。それが本質的にテクノロジー企業の潜在的収益力の低下につながりかねないからだ」

 簡潔に言えば、これまでに取り上げた貿易とデータ保護に関する二つの出来事が、最近の株式市場の低迷の中心的背景となっている。米連邦準備理事会による潜在的な金利上昇に関する懸念により引き起こされた2月の世界的な株安も、最近の出来事に対する市場の反応に影響を及ぼした。

 その一方で、ビットコインの低調は、規制機関と企業を含むさまざまなレベルの組織によるビットコインの受け入れ、あるいはその欠如によるものである。ウォール・ストリート・ジャーナルは2月末、米証券取引委員会(SEC)が仮想通貨業界に関与しているテクノロジー企業と技術顧問に対し十数通の召喚状と情報要求をしたことを報じた。中国政府がビットコインに課した規制が一時的な規制ではないことを示唆したブルームバーグの報告に加えて、3月初めにSECの調査に関するより詳しい情報が入手可能になると、ビットコインが先導する仮想通貨市場は大幅に下落し始めた。

 フェイスブックやアルファベットのグーグルなどの企業により課せられた仮想通貨の広告の禁止による悪影響もある。このように禁止事項となったことが、大衆に仮想通貨とICOプロジェクトに対する嫌な印象を与えた。

思いがけない方向

 明らかなのは、最近の株式市場のパフォーマンスは、ビットコインおよび仮想通貨全体のパフォーマンスとはほとんど無関係であるということだ。ほとんどの場合、株式市場の低迷は、起こり得ることに対する投資家たちのパニックに端を発している。調査会社スミスムーアのジュリアン・ニーマン氏は以下のように述べた。「市場は今、『疑わしい時は、逃げ出すべき。何が起きたかは後で分かる』というような心理状態にある」。

 とりわけトランプ政権を取り巻く政治不安により、株の下落傾向が続く場合、ビットコインが政府により統制されていないことを考慮すると、投資家が自身の財産を守るためビットコインに目を向ける可能性がある。そのことが本質的に、最も人気のある仮想通貨であるビットコインへの需要を増加させるかもしれない。

 オーストラリア連邦科学産業研究機構の研究者たちは、ギリシャの経済危機、英国のEU離脱を取り巻く不確実性、ドナルド・トランプ氏の米大統領当選などの近年の政治不安が、ビットコインに対する需要の増加をもたらし、結果的に価格を押し上げたことを見出した