世界第2位の資産運用会社フィデリティや元ゴールドマンサックスのマイク・ノボグラッツ氏が率いるギャラクシー・デジタル、コインベースコンセンシス、モルガン・クリーク・デジタル、そして日本のリクルート…大手企業や有名投資ファンドから引く手あまたの会社が仮想通貨業界にある。仮想通貨を担保に米ドルでローンを提供するBlockFi(ブロックファイ)だ。昨年2月から過去3回にわたる資金調達ラウンドで、計5805万ドル(約64億円)を調達した

そんな飛ぶ鳥を落とす勢いのブロックファイでCEOを務めるザック・プリンス氏が先月末に来日。プリンス氏は、コインテレグラフ日本版のインタビューに応じ、仮想通貨の利用ケースを増やすことで誰でも簡単に仮想通貨やビットコインが使える世界を実現したいと語った。

BlockFiの仮想通貨ローン

2017年夏に設立したブロックファイ。ニューヨークを拠点に仮想通貨を担保としたローンサービスを提供するスタートアップだ。利用者はビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)とライトコイン(LTC)を担保に米ドルでローンを組める。例えば、1万ドル(約110万円)借りるのに5.32BTCが担保として必要。利子率は年間4.5%〜だ。該当する仮想通貨さえあれば簡単に法定通貨でお金を借りられるというわけだ。

(引用元:BlockFi 「米ドルでのローンに必要な仮想通貨での担保額」)

弱気相場が続いているにもかかわらず、ブロックファイの売上高は去年6月と比べて10倍ほど増加した。プリンス氏は「損失を出したことがない」と話した。

一体、仕組みはどうなっているのか?

プリンス氏によると、担保に出ている仮想通貨の価格がローン申請時と比べて大幅に下がると、利用者に対して「担保に出されたローンを売ります」という警告と共にマージンコールがかかる。その後、利用者がマージンコールに対応しなければ、ブロックファイは利用者の仮想通貨を売却する。もちろん、利用者が借りたお金を返せば担保に出した仮想通貨を取り戻すことができる。

弱気相場が続いた2018年の間、「我々のリスクマネジメントは完璧に機能した」とプリンス氏は自信を見せた。

ブロックファイは、仮想通貨ローンの利用ケースとして、家や車の購入や旅行などを提案。また、投資家が仮想通貨を法定通貨に両替せざるを得ない時、単に売るのではなくブロックファイでローンを組めば、仮想通貨の保有権を維持しつつ法定通貨を手に入れることができると指摘している。

リップル(XRP)は4月か5月に追加

現在担保として使える仮想通貨は、ビットコインとイーサリアム、ライトコインの3種。選択の条件とはなんだろうか。プリンス氏は、3つ指摘した。

-流動性(時価総額や取引高)
-ボラティリティ(価格の変動幅)
-消費者からの需要

こうした観点からプリンス氏は、新たに担保として使える仮想通貨として、リップル(XRP)は「必ずサポートする」とプリンス氏は名言。4月か5月には追加する予定だと明かした。

これまで数千億ドルのローンを提供してきたブロックファイ。まだ「担保の額が小さすぎる」ため担保額と価格には相関関係は見られないものの、プリンス氏は、理論的には担保として仮想通貨が使えるということは、仮想通貨の利用ケースが増えることになると指摘。とりわけ新興国でこれまでドルを借りられなかった人々でも、ブロックファイを使えばビットコインを所有してるだけでドルを借りられるようになる。プリンス氏は「それは価値があること」だと述べた。

仮想通貨クレジットカード?

プリンス氏は、以前米仮想通貨メディアThe Blockに対して、「航空会社のマイルの代わりに仮想通貨をプレゼントするクレジットカードビジネスを米国でやりたい」と発言していた。コインテレグラフ日本版がこちらの進捗について聞くとプリンス氏は、「今年の第4四半期(10-12月期)までに米国でサービス開始できるようになることを望んでいる」と話した。また、日本など他の市場への展開も検討しているという。

(コインテレグラフ日本版作成 BlockFiのクレジットカード イメージ)

プリンス氏は、2つのタイプのカード作成を検討中。1つはデビットカードみたいな形を想定。これを使えば、仮想通貨ローンサービスで借りた法定通貨を銀行口座に入れるのではなくカードに直接入れて、そのまま小売店などで使えるようになる。2つ目はクレジットカード形式。消費額に応じて「アメックスのポイントを獲得する代わりにビットコインを獲得できるようになる」(プリンス氏)。

クレジットカードの場合、銀行やクレジットカード会社とパートナーシップを結ばなければならないが、このためのコンプライアンスは厳しいという。プリンス氏は、そうした準備も全て終わっていると述べた。

「(仮想通貨を使って)もっと普通のことがたくさんできるようになるべきだよ。安心できて難しすぎないやり方でね」

誰でも簡単に仮想通貨が使えるようになる世界。プリンス氏は、その重要性を強調する。もし父にビットコインの購入を頼む時、「どこか怖いところ」で口座を開設する必要があって「12桁の文字」を書き留めなければならないと言ったら、父は怖がるだろうと指摘。しかし「このクレジットカードを使って、価値が下がる航空会社のマイルを貯めるより、ビットコインを稼いだらどうか」と提案すれば、父も簡単に受け入れるだろうと予想した。

「簡単に理解できるものを作る」それがブロックファイの目標だ。

資金調達はICOでなく大企業

ブロックファイができた2017年の夏。仮想通貨業界はICO(イニシャル・コイン・オファリング)市場で盛況だった。ブロックファイは、様々なプロジェクトが数億ドル単位で資金調達していたことに対して焦りはあったものの、独自トークンを発行する意味が見出せず、ICOは結局しなかった

それから約1年半。ICO市場は低迷し、プリンス氏のブロックファイは大手企業や有名投資ファンドから出資を受けている。プリンス氏は、仮想通貨ローンビジネスのように、まさに信頼が必要なビジネスを展開する上で、こうした企業やファンドがバックにいることの重要性を感じているという。

「ICOをせず、リクルートやフィデリティなどから資金調達ができたことによって、人々からの信頼が得やすくなった。だってリクルートがチームや会社、技術に対してデューデリジェンス(顧客確認)を行わずに投資をするなんてことはないだろう」

(BlockFi(ブロックファイ)ザック・プリンスCEO 簡単・安全な仮想通貨サービスの重要性について語る)

またブロックファイは、顧客からの仮想通貨の預け先として米国のGemini(ジェミナイ)をパートナーとして選択。プリンス氏は「ジェミナイは他より優れている点がいくつかある」とし、絶大な信頼を寄せている。

ウィンクルボス兄弟が創業者であるジェミナイは、ニューヨーク州で仮想通貨事業を行うためのビットライセンスを取得。プリンス氏は、「そのおかげで我々がビットライセンスを取得せずにニューヨークでローンを提供することができた」と話した。

また、ジェミナイはしばらくこの業界に存在し数十億ドルもの仮想通貨をカストディ業務を遂行しているものの、今までハッキングされたことはなく「実績は完璧」。仮想通貨取引所の運営も成功していると指摘した。

さらにプリンス氏は、ジェミナイについて保険を使って顧客の仮想通貨資産を保護した米国で最初の企業と紹介。ほとんど全てをコールドストレージで保管しているため、そもそもハッキングはありえないだろうが、たとえハッキングにあったとしても、損失分を保険がカバーすることになっていると解説した。

ジェミニは今年の1月、4台会計事務所の1つデロイトからSOC2 Type1報告書を取得。セキュリティ、機密性およびプライバシーに関連する内部統制が米国公認会計士協会が定めた水準に達していることの証で、仮想通貨業界で取得したのはジェミナイが初だという。

米国と同じくらい日本に期待

プリンス氏は、日本市場について米国市場と同じような理由で注目していると語った。

「仮想通貨業界は現在成熟期にさしかかっている。カストディ業務の充実、規制の整備、機関投資家による参入、楽天やスクエアなど伝特的な企業が仮想通貨で何かやろうとしている。そんな中、仮想通貨を使ってできることが増えるべきだ。ローンを組める、金利を稼げるなど、他の伝統的な資産ですでにできることをビットコインやイーサリアムでもできるようにするべきだ」

今回の来日では、日本の仮想通貨取引所やウォレット業者と会う予定だとプリンス氏は話していた。例えば、取引所と提携し、ビットコインを担保にローンを借りられるサービスをその取引所の利用者に提供することなど模索すると述べた。

 

ブロックファイを創業する前は、貸し出しサービスを手がけるフィンテック系スタートアップを創業したプリンス氏。ビットコインの購入を始めたのは2015年だ。ある時、地元テキサス州で家を買うためにローンを組む時、ビットコインとイーサリアムを自身の資産として申請書に書いて銀行に提出。その時、銀行は驚いてプリンス氏に対して次のように言ったという。

「我々のコンプライアンスチームは、あなたがドラッグディーラーではないかと疑っています」

プリンス氏は、その時ブロックファイについて閃いたんだよと笑顔を見せた。

フィンテック企業での貸し出しビジネスの経験と仮想通貨に対する情熱を併せ持つプリンス氏。巨大企業や投資家のバックを得て、仮想通貨の利用ケース拡大に邁進している。

追記

ブロックファイは5日、仮想通貨で年利6%を獲得できる口座サービス発表した。プリンス氏によると、日本での利用も問題はないことを確認済み。米メディアに対してプリンス氏は日本の投資家をメインターゲットにする考えを明かしました。