目まぐるしい勢いで発展するWeb3には、数え切れないほどの取引所が存在する。繁栄の一方で、大手取引所が突然ユーザーのアカウントを凍結したり、個人情報の確認が強化されるなど、初めて暗号資産を手にした時には気が付かなかった違和感をおぼえる利用者が増えている。そこで注目を集めているのが、分散型取引所のdYdXだ。dYdXでは、中央集権型とは反対に、透明性と権限の分散に特化しており、完成形までの計画をマイルストーンとして公開している。本稿では、新しく公開されたdYdXのマイルストーンとともにdYdXの取り組みや今後のビジョンを解説する。
・dYdX
・dYdXが目指す完全分散化
・dYdXが発表したマイルストーン
・ガバナンストークンとdYdXのNFT「Hedgies」
dYdX(ディーワイディーエックス)
dYdX(ディーワイディーエックス)は、暗号資産のトレーディングに使用できる分散型取引所(DEX)である。dYdXの最大の特徴は、中央集権取引所と異なり、KYC(本人確認手続き)等で個人情報を提出する作業が不要な点だ。事実、近年のKYC強化により手軽かつプライバシーを保護して利用できる分散型取引所の需要が高まっている。中でもdYdXは、執筆時点で過去90日間のプロトコルレベニューでOpenSeaを上回る。
出典:tokenterminal.com 「Dapps Protocol Revenue」
トレーダーは自分の資産が入ったウォレットをdYdXに接続して、dYdXへの入金が完了次第すぐに取引を開始できる点も大きな魅力だ。トレーディング開始までにかかる準備時間は、10分程度である。顔写真やIDの写真を送付したりして、アカウントの承認まで待機する必要はないのだ。dYdXから資金を出金する場合にも同様に、dYdXによる承認は不要だ。
さらに、世界各国で暗号資産業界への規制が課されており、満足にトレーディングができない場合も多い。例えば、中央集権型取引所の多くがレバレッジトレーディングのサービスを制限または廃止している。また、新しい暗号資産の認可は容易ではないことから、日本国内の取引所の取扱い銘柄は極めて少ない傾向にある。一方のdYdXは、dYdXでは30種を超える暗号資産をトレードすることが可能であり、最大20倍のレバレッジトレーディングを利用できる。
dYdXが目指す完全分散化
dYdXは、「完全分散化(V4)」を目指す。現在、完全分散化へ向けた具体的な取り組みがスタートしている。
まず、dYdX内の中央集権組織の排除だ。
現在、dYdXは、dYdXトレーディング社とdYdX財団に組織が分かれている。前者は、米国に拠点を置くエンティティであり、取引所収益を受け取りオペレーションを行っている。いわば中央集権的な組織だ。後者のdYdX財団は、非営利団体でありガバナンス目的のスマートコントラクトを管理し、ガバナンストークンであるDYDXを発行し、コミュニティのサポートや一般トレーダーに対する教育、コミュニティの基金(Treasury)の管理などを担当している。拠点はスイスだ。
最終形態のV4では、dYdXトレーディング社がコミュニティに権限を移譲することで、コミュニティにより運営される完全な分散型取引所となる予定だ。
dYdXのV4の土台となるソリューションの最適化も重要だ。2022年6月、dYdXはV4実現に向けた改革としてコスモスの採用を発表した。現在、dYdXでは、イーサリアムのレイヤー2である「StarkEX」を採用している。StarkWare社によって開発されたStarkEXは、トレーディングにおける大きな障壁である「ガス代の高騰」を解決するソリューションだ。一方で、dYdXが理想とする処理水準に到達していないことに加え、中央集権的な要素が問題視されていた。
dYdXは、分散型の追求を最重要視しており、ハイブリッド型のV3から完全分散化のV4への移行準備を進めている最中である。これに必要となるのが、dYdX用にカスタマイズされた処理能力を持つチェーンだ。今回、新たなソリューションとして採用されたコスモスは、完全にカスタム可能なチェーンであり、dYdXが目指す完全分散化に最も適している。
もちろん、コスモスが全てにおいて完璧というわけではない。今後も、常にベストな選択肢を選び続けることが求められるだろう。
dYdXが発表したマイルストーン
dYdXは、完全分散化のV4実現に向けた計画としてマイルストーンを公表している。dYdXのマイルストーンとは、dYdXの最終形態である完全分散化までの計画を5つのステージに分けたものだ。
・マイルストーン 1 — 完了済み — 開発用テストネット
・マイルストーン 2 — 2022年 第3四半期 — 内部用テストネット
・マイルストーン 3 — 2022年 第4四半期 — プライベートテストネット
・マイルストーン 4 — 2023年 第1四半期 — パブリックテストネット
・マイルストーン 5 — 2023年 第2四半期 — メインネット
(dYdXのマイルストーンに関する詳細は、こちら)
これらのマイルストーンの主な目的は、段階的にテストネットを改良しながらメインネットを構築することだ。テストネットとは、開発中の動作を確認、修正するためのテスト用ネットワークであり、メインネットは公開される完成形のネットワークを指す。
マイルストーン1から4では、必要な機能を備えたテストネットを使用しながら、バグの修正や検証、フィードバックの収集が行われる。最後のマイルストーンでは、テストネットで発見した問題点を全て修正してメインネットが作成される。
2022年9月時点では、すでに最初のマイルストーンが完了している。第一のマイルストーンでは、可能な限り迅速にテストを開始するために必要な基本的な取引が可能となった。まず、複数のグループに分かれたバリデーターノードによる自動化されたテストネットを構築。これにより、想定以上の負荷をかけた際の反応を調べるシステムのストレステストが可能となった。実際に、1秒あたり500件のオーダーと1秒あたり50件の取引が可能となり、処理能力が向上した。
現在は、第二のマイルストーンとして、取引所の運営に必要なすべての機能の完成へ向けて取り組んでいる。具体的には、手数料やリクイデーション(資産の流動性)の確立に加え、価格データのアップデートやトークンの送金も含まれる。
この第二のマイルストーンの目的は、より多くのバリデーターノードを備える安定したテストネットに変換することだ。つまり、ブロックに記録されるデータの検証者であるバリデーターを増やすことで、テストネット全体がアップグレードされ、より安定した環境下によるテストが実行可能となる。その結果、より正確なデータを集めてシステムの構築へ反映することが可能となるのだ。
各マイルストーンが完了する毎にdYdXが改良され、5つのマイルストーンが全て完了すると、最終形態のプラットフォームであるdYdXのメインネットが作成される。つまり、今は、最高レベルのメインネットの完成に向けたテスト段階なのだ。
dYdXは、コミュニティの声を重要視しながら完成となるV4(完全分散化)を目指す。
ガバナンストークンとdYdXのNFT「Hedgies」
分散型取引所であるdYdXにとって、dYdXのユーザーはエコシステムを支える貢献者だ。そんなユーザーへ還元する取り組みとして、トレーディング報酬がある。トレーディング報酬では、支払った手数料に応じてガバナンストークンであるDYDXトークンが付与される。トークンの付与の金額は、エポック毎に算出される仕組みだ。
dYdXでは、エポックと呼ばれる28日間を周期として管理されている。最初のエポックは、2021年8月4日にスタートした。各エポック毎に受け取ったトレーディング報酬は、エポック終了日から7日前後で申請可能となる。
ガバナンストークンDYDXは、2021年9月のピーク時には27ドル程で取引されていた。現在は、暗号資産全体がベアマーケットであることも影響し、トークンの価格が下がっている。
一方で、今後のdydxの成長とともにトークン価格が再上昇すれば、受け取るトレーディング報酬額も大きくなることが予想される。このような期待から、トレーディング報酬としてDYDXトークンを受け取り、長期保有するホルダーも多い。事実、トークンの価格は下がったものの、DYDXトークンの所有者数は減少していない。DYDXトークンホルダー数は、緩やかであるものの右肩上がりに増え続けている。
出典:Dune「トークンホルダー数」
ガバナンストークンに加えて、dYdXのNFT「Hedgies(以下、ヘッジー)」も人気だ。
ヘッジーは、ハリネズミをモチーフにした4200体のユニークなイーサリアムベースのNFTである。ヘッジー所有者は、dYdXの手数料の割引率がワンランクアップすることから、ユーティリティも備えたNFTとして注目を集めた。dYdXのコミュニティで、NFTヘッジーへのユーティリティ追加へ向けて取り組んでおり、今後も成長が期待できるNFTだ。
NFTマーケットプレイスのOpenSeaから、ヘッジーを自由に売買することができる。2022年9月現在、フロア価格0.39EHT($639)前後で取引されている。購入以外のヘッジーを得る方法として、毎日開催されているdYdXトレーディングコンペティションがある。このコンペティションでは、勝者にヘッジーが一体付与される。
出典:dYdX「コンペティションページ」
各国でdYdXのコミュニティ活動に貢献した方にもヘッジーは定期的にプレゼントされている。
まとめ
dYdXが目指す取引所の完全分散化は、Web3業界全体としても未知の領域だ。その分、解決しなければならない課題も多い。一方で、達成すればWeb3全体の概念や流れを大きく変えることになるだろう。
dYdXの最後のマイルストーンは、2023年に完了予定だ。現在、トレーディングプラットフォームの使い勝手の向上はもちろん、ユーザーにとってベストなエコシステムの構築と開発が進められている。今後も、コミュニティの声を最大限に取り入れながら取引所の完全分散化を目指すだろう。