著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。世界最大級のDEXであるdYdXのガバナンスをサポートしている。
自民党のWeb3プロジェクトチームは、「DAOルールメイクに関する提言」を審議会で承認したことを発表しました。この提言について、自民党の平将明議員が情報を公開しています。本稿では、2022年2月にDAOを法人として認めた世界初の国、マーシャル諸島のDAO法と比較して解説します。「ネットワークステート」で知られるバラジ・スリニバサンもマーシャル諸島のDAO法を称賛しており、日本がクリプトプロジェクトの世界で競争する相手としてマーシャル諸島を考えるのは不思議ではありません。
何の課題を解決するためのDAO?
まず、自民党の提言の主な議論点はマーシャル諸島のDAO法と大きく異ならないようです。また、提言では「DAOの目的と運用形態はDAOごとに異なる」と認め、「全てのDAOに適用される包括的なルールを設定することは困難であり、適切でもない」と述べています。これは賢明な判断だと感じます。自民党は、合同会社を利用してDAOを実現するためのルールメイクを提案しています。
しかし、DAOが解決しようとしている課題については、自民党の提言に書かれている次のような文があります。
「人口減少社会での地方創生や社会課題の解決、またはIPコンテンツの活用などを目指し、同じ志を持つ人々が協力して事業を加速させる手段として、DAOは大きな成果を上げています」
このような課題は、本当に「オンチェーン・エンティティ」が解決できるものでしょうか?オンチェーン・エンティティとは、国籍などに関係なくインターネットを通じて集まった人々が共通の目的のために作るエンティティです。実際、DAOはこのような概念に適していますが、日本の伝統的産業の保護や地方創生など、国内の問題を解決する手段としては適していないと思われます。これらの問題に対して外国人が自分事として関心を持つことは難しいかもしれません。さらに、「大きな成果」とは具体的に何を指しているのかも疑問です。
マーシャル諸島のDAO
マーシャル諸島は太平洋に位置する島国で、2022年2月にDAOを法人として認め、以来約100のDAOを法人化してきました。2023年10月の法律改正でさらなるDAO支援の姿勢を示しました。コインデスクによると、マーシャル諸島のDAO法には次のような特徴があります。
- DAOの登録に最大30日かかります。
- 登録はMIDAOを通じて可能で、ペーパーワークは必要ありません。
- 登録代理人を雇う必要がありますが、DAOやその指定メンバーが地元で登記したり、地元の法律事務所を雇ったりする必要はありません。
- DAOがオープンソフトウェアを作成した場合、その責任を負う必要はありません。
- ほとんどのガバナンストークンは証券として認定されません。
- 取締役は不要で、ほとんどのメンバーが匿名であることが許可されます。匿名でないメンバーはマーシャル諸島にいる必要はありませんが、KYCは必要です。
- 全メンバーに実名と住所の公開を要求すること
- 伝統的な取締役会と経営チームを要求すること
- 紙の記録を要求すること
- 古い証券法の適用を要求すること
- オンチェーンで重要な機能を実行することを許可しないこと
マーシャル諸島のDAO法は、これらの時代遅れの要件を避けることを目指しているとMIDAOの創業者は述べています。日本におけるDAO法制化はまだ途中ですが、マーシャル諸島のような進歩的なアプローチから学ぶべき点があると思います。特に「Web3で勝つ」ためには、そのような姿勢が必要だと感じます。
自民党の提言に戻ると、議題としてはマーシャル諸島のDAO法と大きな違いはないと思います。ただし、グローバルな視点から見ると、マーシャル諸島の法制度の方が魅力的に見えるかもしれません。例えば、マーシャル諸島では「全メンバーに対して実名と住所の公開を要求」することがありませんが、自民党の提言ではKYC済みのウォレットを用いる形を検討すべきとしています。これは、日本の提言がある程度匿名性を認めているものの、全メンバーに適用される点で異なります。
この他、DAOが管理するオープンソフトウェアの責任の所在をどうするのか?ガバナンストークンの法的な位置付けはどうするのか?マーシャル諸島の方が明確な解を持っている印象です。
最終的に、Web3はグローバルなものです。日本の提言は国内のメディアで取り上げられていますが、英語での報道は少ないようです。一方、マーシャル諸島はバラジ・スリニバサンなどの世界的な影響力を持つ人物によって支持されており、グローバルな認知度を高めています。日本も英語での情報発信を強化し、グローバルなDAO議論に参加する必要があるかもしれません。
※ 上記はdYdX Community JapanのWeekly DAO Reportを要約・編集したものです。