著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。

Cosmos Hubのコミュニティが、ATOMのインフレ率の上限を10%に削減する提案を可決した。約2週間に及んだ議論、X(Twitter)での自由な意見表明、コミュニティの声に応じてNO票をYES票に変える柔軟さ。投票締め切りまで拒否されるムードが漂う中での逆転劇。これだから「ATOMのガバナンスはやめられない、米大統領選よりも楽しい」という声も聞かれ、まさにDAOガバナンスと言える要素がたくさん詰まった2週間となった。

出典:Mintscan プロポーザル#848の投票結果 結果は、YES票41.1%、NO票31.9%、拒否権6.6%、棄権20.4%だった。

複数の争点があり、「高いインフレ率はATOMの価値を下げる割に高いセキュリティに貢献していない」や「高いインフレ率は高いAPRをステーカー/バリデーターにもたらしてる」など最後までコミュニティの意見は分かれる形になった。詳しくは2週間前のブログをご覧いただきたい。結果、ハードフォークを示唆する声も出てきている。

まず、今回の特筆すべき事項は、多くのバリデーターがXで意見表明を行ったことであるように思える。普段から投票行動に対する説明をXで行うバリデーターはいるのだが、今回はより多くのバリデーターが説明責任を果たした。Cosmos系のチェーンでは、トークン保有者(ステーカー)はステーキング先のバリデーターを直接選び、バリデーターがステーカーを代表して投票先を選ぶ。ステーキングされたトークンの量=投票力になる構図だ。ステーカーは、バリデーターの投票先に反対したい場合、投票先を書き換えることができる。

例えば、YouTuberバリデーターとして知られるStakecitoは、なぜYES票を投じたのか超長文をXに投稿。なぜこの投票が重要なのか?ATOMの課題は何か?ついでに教育を行った。今回NOに投票したバリデーターの中で最大の投票力を持つAllnodesは「小規模のバリデーターにとって不利な提案だ」と訴えた。そして、ベトナム拠点でCosmos界隈の重鎮Jacob Gadikianが率いるNotionalは、「賛成派・反対派、双方の意見は分かる」とし棄権を示唆していたが、「単なるパラミーター変更でありもし間違った結果になったらまた変更し直すことができる」ということでYES票を投じた。

バリデーターは技術屋さんというイメージが根強いかもしれない。今回の投票で改めて分かったのは、バリデーターにはコミュニケーション力、そして政治力が求められていて「代議員」としての活動が期待されているということだろう。

ATOMがハードフォーク?

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