著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。

ステーブルコインは、米国で規制されている方が「危ない」という時代になってきているのかもしれない。

米ドル連動の2大ステーブルコインであるテザー(USDT)とUSDコイン(USDC)の明暗がはっきりと分かれ始めている。ステーブルコインの時価総額全体に占める割合(ドミナンス)において、USDCが低下する一方、USDTが上昇している。

画像(出典 : CoinGecko 「ステーブルコインのドミナンス 過去90日間」)

年初はUSDT50%に対してUSDCは32%ほどだったが、現在はUSDT64%に対してUSDCは24%。3月10日のシリコンバレー銀行の破綻ニュースが報じられ、USDCを発行するサークル社が資金の一部をシリコンバレー銀行に預けていたことが明らかになった。その際、一時的にUSDCがデペッグしたが、現在は回復。しかし、回復した後もUSDCのドミナンスは下がりつづけている。

なぜだろうか?

USDCはDeFiの担保手段としてUSDTよりよく使われる傾向がある。しかし、DeFiのマーケットは拡大はしていないものの、縮小はしていない。DeFiLlamaによると、DeFi全体のTVL(預かり資産合計)は490億ドルで年初来でほぼ横ばいだ。先週お伝えした通り、DEXの取引量はCEXと比較して増加傾向にある。

背景にあるのは、米国の仮想通貨規制強化かもしれない。米国関連の銘柄にエクスポージャーを持ちたくないからUSDTを買うという動きが出ている可能性だ。

一昔前までUSDTには怪しいイメージがつきまとっていた。USDTを支える準備金に関する透明性の欠如が批判され、テザーはニューヨーク司法当局に起訴されたこともあった。現在、そういった問題は投資家にとっては「米国への露出」より低リスクと判断されているようだ。

ちなみに、年初の11%から5%までドミナンスが下がったバイナンスUSD(BUSD)に関しては、2月にニューヨーク州の規制当局が発行体のパクソスに対して取り扱いを止めるように命じた。

サークル社のジェレミー・アライアーCEOは、最近の流れを次のように分析する。

「米国の規制や銀行システムに近いポジションを取っていたプレイヤーが『安全じゃない』と思われているのは皮肉なことだ。投資家は、管理監督者のいない完全に不透明でリスクの高いプラットフォームに移っている」

先週、米国に拠点を置く取引所のコインベースとジェミナイがオフショアで仮想通貨デリバティブの立ち上げを計画していることが分かった。米国に近いことは仮想通貨プレイヤーにとってリスクという流れは続きそうだ。

今週のプロポーザル

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