著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。

Arbitrum(アービトラム)が、DAOのガバナンスでいきなり危機に直面している。

イーサリアムのレイヤー2ソリューションであるアービトラムは、先月、既存ユーザーに対して独自トークンARBエアドロップ実行。同時にDAOへの移行を発表し、ARBの関係各所への割り当て計画を発表した。

(出典:「Arbitrum DAO「ARBの割り当て」)

ARB発行量の42.78%にあたる42億7800万ARBが、アービトラムのDAOのTreasury(トレジャリー)に割り当てられる計画であることが分かる。トレジャリーとは、DAOが管理する資金を指す。

DAOのトレジャリーの使い道を決めるのは、DAOでの投票だ。アービトラムのDAOも、トレジャリーの使い道はガバナンス投票で決めると述べていた。しかし、アービトラムからガバナンス投票の存在を蔑ろにするような行為があり、多くの批判にさらされている。

問題となっているのは、Arbitrum Foundation (アービトラム財団)が出した記念すべき第1回目の提案(AIP-1)。この中で、7億5000万ARBをアービトラム財団が作ったウォレットに送付し、「特別なグラント(助成金)」や初期費用、外注費用、経営管理費用に使うと述べた。これは全体の7.5%に相当する額で、執筆時点では1250億円だ。

この提案に対してアービトラムのDAOは、執筆時点で78%ほどが反対票を投じている。理由は、7億5000万ARBの使われ方が不透明であることやアービトラム財団の構成人数が不明であること、ウォレット管理のセキュリティ上の懸念だ。デリゲートのBlockworks Researchなどが反対の声をあげている。投票は明日終わる予定だ。

普通であれば、アービトラム財団の提案はDAOに否決されたことになり、7億5000万ARBの送付はされないことになる。しかし、実はアービトラム財団がすでに7億5000万ARBを自分達のウォレットに送ってしまっていたことが判明。さらに、下記のアドレス表から分かるように、そのうちの5000万ARBを既に使ってしまっていたことが明らかになった。

(出典:Blockworks Research 「アービトラムDAOの二つのアドレス」)

反対多数で投票がまだ終わっていないにも関わらず、アービトラム財団が提案内容を実行してしまったというわけだ。一体「投票」とは何なのかと疑問に思う人は多いだろう。

アービトラム財団は、その後釈明し「提案はリクエストではなく批准目的」と述べ、コミュニケーションの不備を認めた。その上で「鶏と卵の問題」とし、最初から全ての決定をDAO主導で行うことは非現実的であり、最初はアービトラム財団の裁量が特に必要になる点を強調した。

これはコミュニケーションだけの問題なのだろうか?エアドロップ以外のトークンはロックされていると考えるユーザーが多い中、実際7億5000万ドルのARBはアンロックされており、しかもその一部は使われていた。ARBの価格に与える影響を心配するユーザーがいても当然だろう。また、「批准目的」であるとしても、実際に反対票が多い。この反対票はどう扱うのか?そもそも、なぜスナップショットを使って投票にかけたのだろうか?

アービトラム財団が言うように、確かにDAOにおける「鶏と卵の問題」は存在するだろう。だからこそ、最初から全てが分散型で進むのではなく「Progressive Decentralization(段階的な分散化)」を提唱する人は多い。そこに異を唱える人は多くないだろう。

問題はガバナンス投票が実際に行われ、提案の目的が何であったとしても、DAOの意志が無視された形になっていることだろう。

 

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