著者 大木悠 dYdX財団 Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。

米テック企業やVCへの融資で知られるシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻によって、11日、Maker DAOがUSDCへの依存度を下げるための緊急提案を行った。背景にあるのは、”分散型ステーブルコイン”であるDAIが米ドルと1対1で連動しなくなったことだ。分散型ステーブルコインと謳いながら中央集権的なステーブルコインに頼る仕組みに、大きな課題があることが浮き彫りとなった。

Maker DAOの緊急提案は、即日で可決され、13日に実施される予定だ。

 

(出典: Goingecko 「DAIの価格 」)

DAIは11日土曜日、一時0.9ドルを下回った。なぜSVBの経営破綻でDAIがデペッグしたのか?DAIの50%以上がUSDCに依存しているからだ。

USDCを発行するサークル社は、現在流通する400億ドルほどのUSDCのうち、33億ドル分をSVBに預けていると発表。USDCは一時0.9ドルを割り込んだ。DAIはその影響をモロに受けたというわけだ。

「中央の失敗」による緊急時に中央集権型のステーブルコインと同じ動きをしたDAI。「分散型」の触れ込みとは異なり、人々にとってDAIはUSDCと同じに映ったようだ。

Maker DAOの緊急提案と課題

DAIを発行するMakerのDAOはすぐに動いた。Maker DAOのリスクユニットコアは、土曜日、USDCへのエクスポージャーを下げるための緊急提案を行い、Maker DAOの投票権の保有者に対してすぐに提案をチェックするように呼びかけた。

提案の一つは、PSMと呼ばれるDAIと米ドル連動のステーブルコインを1:1でスワップするためのツールに変更を加えることだ。具体的には、一日あたりのDAIのミント上限を2億5000万DAIに下げ、USDCからDAIへのスワップ手数料を1%に引き上げることだ。

PSMは以下のような仕組みだ。あなたが100USDCをPSMに入れると、PSMが100DAIをミントしてあなたに送金する。100USDCはPSMの準備金として保管され、あなたの100DAIの担保となる。一方、DAIをUSDCにスワップしたければ、DAIをPSMに入れてUSDCを準備金から受け取る。

今回の緊急提案は、前者のDAIミント額を減らし、USDCからDAIへのスワップ手数料を増やすことで、USDCへの依存度を減らすことを目指している。

しかし、問題は、そもそもPSM自体が「中央集権的なステーブルコインがデペッグすることはないだろう」という前提に立っていることにあるようだ。PSMには、USDCの他、USDPとGUSDという中央集権的なステーブルコインが入っている。昨年3月、Makerは「なぜDAIは安定するのか」というTwitterのスレッドの中で、「仮にDAIが1ドルを下回っても安いDAIを買って1:1でPSMを通して売ることで安定につながる」と解説していたが、DAIが1ドルを下回る原因がUSDCだったとは想定していなかったようだ。

中央集権的な外部組織に頼らず、分散化し、自己完結できるプロトコルとはいったい何か。Makerを始めするステーブルコイン、そしてDeFiは、今回の教訓から多くのことを学ぶことになりそうだ。

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