米インターコンチネンタル取引所(ICE)が保有するデジタル資産取引プラットフォームのバックト(Bakkt)がニューヨーク証券取引所上場に向け動いている。通常のIPOとは異なり、今流行りのSPAC(特別買収目的会社)を利用した上場だ。既に上場している「VPCインパクト・アクイジション・ホールディングス」社と合併する。2021年の第2四半期に完了する見込みだ。

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これまでの報道によるとバックトは2000億円強という評価額を見込む。また約550億円程度を調達して個人投資家向けのアプリ開発などを強化するという。

バックトはこれまで赤字で経営されており、現在も年間270億円という販管費を使う。個人投資家向けアプリもリリースしておらず、ユーザー数はゼロだ。

ビットコイン価格が史上最高値を更新した矢先とはいえ、強気のバリュエーションの根拠が気になるところだ。

バックトのギャビン・マイケルCEOはコインテレグラフに対し「デジタル資産市場は既に2兆ドル円(200兆円)規模であり更に成長していく。バックトとVPC社はデジタル資産のマーケットプレイス(市場)をつくることに大きなポテンシャルがあると確信している」とした。

バックトが米証券取引委員会に提出した資料によると、同社は仮想通貨市場が今後5年間年率26%で成長し、2025年には3倍になっていると見込む

bitFlyerの子会社bitFlyer USAのジョエル・エジャトンCOOは「コインベースとバックトにはIPOを通して一部株主にエグジット(出口)イベントを提供する意図があると見ている。また認知向上からくるブランド強化にもつながるだろう。

「仮想通貨を持たずに仮想通貨業界に投資したいというニーズは存在する。現状では買いやすい仮想通貨のETFやミューチャルファンドがないので、仮想通貨企業への投資がそのかわりになる。仮想通貨関連企業の株を買って業界の成長から利益を得るというのは魅力的な話だ。

「IPOは当然資金調達の主要な方法だ。IPOが成功すればユニコーン(評価額が1000億円以上の若い企業)への成長をもくろむ仮想通貨企業に対するベンチャーキャピタル投資も増えるだろう

仮想通貨投資顧問会社Quantum Economicsのマティ・グリーンスパン代表は「(バックト上場は)金融業界が仮想通貨をうけいれる準備ができつつあることを示している」とコメントした。

方でアジアを中心に展開する仮想通貨取引所AAXで調査部長を務めるベン・ケイスリン氏は「デジタル資産を保有したり仮想通貨の先物取引をするのと、仮想通貨取引所に投資するのとは異なることを理解する必要がある。仮想通貨業界に投資するという意味合いは多少あるが、コインベースやバックト株を買うということは、これらの取引所が今後もうまくいくことを想定しなくてはならない」。同分野における競争のし烈さを意識した辛口コメントだ。

とはいえあなどれないのがインターコンチネンタル取引所の創業者に宿る起業家精神だ。

同社はもともと無名の商品先物取引所だったが、複数の逆さ合併を通して証券取引所として世界トップに上り詰めた実績がある。本社は現在もジョージア州アトランタにある。また長年の献金を通して米政界とのつながりも強い。仮想通貨業界でも同様の手法でのし上がっていく可能性がある。