3月13日金曜日、ビットコインは50%以上暴落した。新型コロナウイルス蔓延によるパニックから伝統的なマーケットで売りが先行する中、「デジタルゴールド」と言われるビットコインも持ちこたえることができなかった。
仮想通貨の金融派生商品(デリバティブ)を扱う取引所も苦戦を強いられた。普段より多くの注文が殺到した結果、100倍レバレッジが有名なビットメックスは取引を一時的に停止。直後の14日に同取引所に対してサービス拒否攻撃(DDoS攻撃)があったと発表した。
名指しはされていないものの、「インフラの非効率性」を理由に営業停止に追い込まれた仮想通貨のヘッジファンドも出た。
過去に類を見ない仮想通貨市場の暴落によって多くの取引所が苦戦する中、安定した運営で投資家の信頼を勝ち取っている取引所もある。仮想通貨デリバティブを手がける取引所Bybitのベン・シュウCEOは、「我々はかなり安定しており、大きな問題も起きなかった」と明かした。
仮想通貨暴落の中で安定感
「多くのライバル取引所はオーダーマッチングが遅れるなど問題を抱えていたそうだが、我々の顧客からの反応はポジティブだった」
Bybitの取引高は3月13日に70億ドル(約7700億円)と過去最高を記録。以前の過去最高は40億ドルだったから、3月13日がいかに以上だったかが分かる。ちなみに平常時の1日平均取引高は10億ドル〜15億ドルだという。
「仮想通貨市場にはサーキットブレーカーがないし、規制もない。誰も価格下落を止めてくれないのが現状だ。ビットコインは行きたいところまで行くものさ。だからワイルドなんだ」
ビットコインといえばボラティリティ(変動幅の高さ)が元来の性質として有名だが、あまりの動きっぷりにシュウ氏も苦笑いを浮かべた。同氏によれば、今回1番の打撃を受けたのは流動性を供給する代わりに手数料を受け取るマーケットメーカーと呼ばれる機関投資家だ。
ただ同氏はビットコインの価値保存手段としての価値を信じおり、「ゼロにならない限り、私は希望を持っている」。
平時の7倍ほどに取引高が膨れ上がったBybitだが、ライバル社のようにシステム面で問題が起きなかったという。シュウ氏は、異常事態に対して常に準備をすることの必要性を話した。
「Bybitには私を含めて伝統的なセクターから来る人が多い。我々はリスク管理やシステムの安定性こそ取引所にとってカギとなることを知っている。すべての取引実行を円滑に行い、24時間ノンストップという仮想通貨の性質に備える」
例えば、シュウ氏は顧客というのはボラティリティがある時にだけ取引をするものと指摘。だから1人の顧客あたりの取引高が10倍も15倍も増加することを想定して、有事に備える重要性を説いた。
ちなみにBybitは昨年、「様々な理由から30分だけダウンした」ことを除いては1年間を通して正常に動いていた。
安定性の秘訣についてシュウ氏は、1)トレーダーがいつでも好きな時に入退場できること、2)流動性があること 3)UI/UXやスピード4)バスでもカフェでもどこからでもアクセス可能であることをあげた。
USDT無期限契約を発表
仮想通貨市場が激しく動く中で「大荒れの天気を避ける信頼できる方法」として注目されているのがステーブルコインだ。Bybitは、奇しくもこのタイミングで米ドルと連動するステーブルコインのテザー(USDT)関連のデリバティブ「USDT無期限契約」を発表した。すでに手がけているBTC/米ドル、ETH/米ドル、XRP/米ドル、EOS/米ドルに加えて4つ目の無期限契約商品だ。
相場が大荒れの中では、ビットコインよりUSDTを使って取引をしたいトレーダーが多いという。6ヶ月ほど準備をしてきたが、シュウ氏は図らずとも完璧なタイミングでの立ち上げとなったと笑顔を見せる。
BybitのUSDT無期限契約は、ベース通貨はビットコインでクオート通貨と決済通貨がUSDTだ。
シュウ氏は、無期限契約の人気が高まっている背景について、次のように解説した。
「1つ目は、名前の通り永遠であり、終わりがない。顧客はポジションを好きな期間だけ持つことができる。もちろん注文を維持できる間だけだがね。(中略)2つ目は価格操作がしにくい点だ。そして3つは流動性が最も高い点だ。今となっては多くの取引所が提供している」
無期限契約を提供した取引所の中でBybitは世界で3番目。現在は無期限契約を取り扱う取引所の数は、当時の2、3倍あるという。
Coinmarketcap.com (https://coinmarketcap.com/ja/derivatives/)
シュウ氏は、今年の第2四半期には仮想通貨のオプション取引を開始する予定を明かした。
早大生からBybit CEOに
シュウ氏は、早稲田大学に1年間交換留学をした経験を持つ。当時は取引所運営などを考えず「いつも高田馬場で酔っ払っていた」という普通の学生だった。
その後、XMでゼネラル・マネジャーを経験した後、2018年にBybitを立ち上げた。仮想通貨業界のトレーディング体験に改善の余地があると思ったことがあるほか、そのイノベーションの速度にも引かれた。
「仮想通貨業界にいれてラッキーだと思っている。新しいアイデアがある時は、とりあえずアイデアを採用し、青写真を描いて、すぐにマーケットにリリースし、反応を見ることができる。一方伝統的なセクターでは、イノベーションを起こそうとしても、規制やカウンターパーティー、みんなを参加させるなどで時間がかかる。立ち上がる時にはもう新しくなくなってしまっていることはよくある」
当然、シュウ氏にとって日本市場は重要なマーケットだ。「レバレッジやマージン取引の分野でベストなマーケットの1つ」と認識しており、Bybitでもすでに多くの日本人が取引していることを明かした。
歴史上稀に見る大暴落でも安定感を発揮したBybit。今後も新たなデリバティブ商品を発表して、日本市場にもアピールする予定だ。