非営利団体(NPO)ビットコイン・リーガル・ディフェンス・ファンドの最高法務責任者であるジェシカ・ジョナス氏は、5月18日にマイアミで開催されたビットコイン2023で、ビットコインコア開発者に対する訴訟の法的影響について議論した。この訴訟は、チューリップ・トレーディングのオーナー兼オペレーターであるクレイグ・ライト氏が英国で提起しているものだ。ライト氏はビットコインの創設者サトシ・ナカモトであると自称していることで有名だ。

チューリップ・トレーディングは、ビットコインコアのオープンソース開発に関与したとされる14人の個人をを相手取って訴訟を起こした。ライト氏はこれらの開発者が彼に受託者責任を負っていると主張している。

ジョナス氏は、この訴訟が「チューリップ・トレーディングが11万1000BTCを所有し、それがオーシャンズ11のようなハッキングされて失われたという主張」に関するものだと説明した。ライト氏は、損失の補償を求めて、ビットコイン開発者に「ビットコインコアのブロックチェーンにバックドアを作成し、チューリップ・トレーディングが失ったとされる資金を回収できるようにする」ことを求めているが、ジョナス氏はそれが実現不可能だと主張している。

「彼ら(チューリップ側)は、資金を流用するソフトウェアのパッチを開発者に書かせるよう裁判所に命じている。しかし、それはビットコインの仕組みでは不可能だ」とジョナス氏は語った。

彼女は、このような変更を実装するにはビットコインのブロックチェーンをハードフォークし、世界中の人々が既存のコアチェーンを使い続けるのではなく新しいフォークに移行することが期待されると説明した。

受託者責任に関する法律は「複雑」であると述べたジョナス氏は、技術的制約を超えた理由でこの訴訟が非常に危険であると語る。「この訴訟はすでに控訴審を経ており、控訴審はオープンソース開発者がコードを使用する人々に受託者責任を負うべきかどうかという問題が重要であると判断した」とジョナス氏は説明する。

さらに、ジョナス氏はオープンソースコミュニティに対する潜在的な脅威が存在すると言う。「オープンソースソフトウェアは世界のソフトウェアの97%を占めている」と彼女は指摘する。

ジョナス氏はまた、この訴訟を言論の自由の問題として位置づけた。訴訟で名指しされた被告の多くが米国市民であり、米国で活動しているにもかかわらず、この訴訟は英国で審理されている。これは、控訴審が英国の公共利益に関わる可能性のある結果を受けて、管轄権を持っていると判断したためだ。ジョナス氏によれば、ソフトウェア開発は米国では言論の自由とされており、「チューリップ・トレーディングは英国の裁判所で民事訴訟を起こし、多くのアメリカ人に発言を強制しようとしている」と彼女は評価した。

英国の裁判所が米国の言論の自由に関する法律を執行できないとしても、ジョナス氏は裁判所がライト氏の主張を支持することが非現実的ではないと主張した。ビットコインのオープンソース開発はマサチューセッツ工科大学(MIT)のオープンソースライセンスの下で行われている。オープンソースソフトウェアは一般に誰でも利用できるため、開発者に受託者責任を課すことは、ある国の人が別の国の人に対して損害賠償責任を負うことになる可能性がある。

ジョナス氏によれば、現行法はオープンソース開発者が見知らぬ人に訴えられるのを防ぐためにある。「彼らは自分たちの時間を割いて公共インフラの開発に取り組んでいる。無料でやっているし、MITライセンスの下で行っているため、このような事態から保護されるはずだ」と彼女は語った。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン