ビットコインキャッシュを巡る戦い:11月に迫るハードフォーク、対立の妥協はなるか

ビットコインABCとnChainとの間の熾烈な対立によって、11月に予定されたハードフォークを前にビットコインキャッシュ(BCH)が競合するチェーンへと分裂する恐れが出てきた。BCHコミュニティで物議を呼ぶ、謎の人物「コブラ・ビットコイン」が、ネットワークの救いとなるかもしれない。

Bitcoin.orgの匿名オーナーで、かつてビットコインキャッシュを批判していたコブラは、ミディアムの投稿の中で「コブラ クライアント ハードフォーク」を発表。コブラは、提案したアップグレードを「ビットコインキャッシュプロトコルの安全な実装」と呼んだ。このアップグレードは、コブラ曰く、ビットコインABCとnChainが提案した「大部分において重要ではなく、緊急性もない変更」への対応だという。

ビットコインABCとnChainの対立

ビットコインキャッシュ最大のクライアントであるビットコインABCは、8月20日にフルノードビットコインキャッシュ実装のバージョン0.18.0をリリース。BCHコミュニティに激震が走った。そのバージョンには、カノニカル・トランザクション・オーダリングや、新しい2つのオペレーション・コード(オペコード)といった主要なソフトウェア変更が含まれていた。

ビットコインABCの提案は、クレイグ・ライト氏のブロックチェーン開発会社nChainが8月16日に自社のBCHのフォークである「ビットコイン・サトシ・ビジョン(SV)」(ビットコインSV)を発表した数日後に行われた。nChainのアップグレードには、最大のBCHマイニングプールであるコインギークが支持を寄せている。

nChainのビットコインSVは、ブロックサイズを32MBから128MBへと増大させ、オリジナルのビットコインプロトコルを復活させるために4つの「サトシ・オペコード」を含む内容だ。ライト氏は新しいオペコードの追加やその他の恣意的なネットワークへの変更に反対し、nChainはBCHの長期的安定性を維持するために、バージョン0.1.0実装へと戻る、と述べた。

ビットメインの創設者であり、ビットコインABCによる昨年のビットコインのハードフォークを支持するジハン・ウー氏も論争に参戦した。ライト氏のフォークへの反対を根拠がないものだと批判し、ライト氏を「偽物のサトシ」と呼んだ

イーサリアムの創設者ヴィタリック・ブテリン氏もライト氏に対して強く反発。「BCHコミュニティは、『分裂を回避』するためにクレイグ・ライト氏と妥協するべきではなく、ライト氏を決定的に追放し、拒否するための機会として利用するべき」とツイートした。ブテリン氏は、4月に国際ブロックチェーンフォーラムのディコノミーでライト氏がスピーチするのを聞いた後、ライト氏が自身のことをビットコインの生みの親であると主張していることに触れ、同氏を「詐欺師」と呼んだ

コブラが提案した妥協案

コブラはかつて、サトシ・ナカモトのホワイトペーパーへの変更を提案してビットコインコミュニティに激しい怒りを引き起こしたことがある。さらなる分散化の必要性を主張して、オリジナルのビットコイン・プルーフ・オブ・ワーク(PoW)コンセンサスアルゴリズムへの変更も提案したのだ

現在、コブラはビットコインキャッシュの分裂を防ぐために、ネットワークのアップグレードに賢明なアプローチを強く提案してる。コブラは、BCHの評判と価値に取り返しのつかない損害を与えることになる、ユーザーへのサービス中断を回避する必要性を主張し、コンセンサスがないのならば、変更を全く行わないのが最善であると述べている

コブラ・クライアントは控えめのアプローチだ。ビットコインABCの提案する新しいオペコードやカノニカル・トランザクション・オーダリングに関するコンセンサスは含まれず、新しい変更を加えるものではないコブラのフォークはその代わりに、いまだに可能性の高いBCHの分裂の場合に備え、BCHトランザクションがオルタナティブなチェーンで複製されるのを防ぐためにリプレイ保護を実装する

コブラ・クライアントは、BCHの利害関係者の幅広い層から支持を集め、そのアップグレードがBCHプロトコルにとって実行可能なオプションであると主張している。コブラ・クライアントによれば、既存のBCHのハッシュパワーの約25%がアップグレードを支持しており、主要取引所が11月の変更の後もBCHのティッカーを利用し続けるという。コブラ・クライアントはさらに、アップグレードを試すことに合意する主要な企業との取引を確保することで、商業的に使われるBCHの利用減少にも対処したという。

BCHコミュニティ内のイデオロギー闘争

昨年のビットコインとビットコインキャッシュが分裂したハードフォーク。ビットコインABCとライト氏は、ビットコインキャッシュはサトシ・ナカモトがビットコインに対して持っていた「本当のビジョン」であるという点で意見が一致していた。しかし、新しいアップデートはBCHコミュニティに亀裂を生み、nChainとコインギークは、ビットコインABCの最近の動きはサトシのオリジナルのホワイトペーパーのビジョンから逸脱していると主張している。

ビットコインABCの変更の支持者たちは、新しい機能がプロトコルにスマートコントラクトのフレームワークを実装するのをより効率的にし、スケーラビリティを改善すると主張している。ノードオペレータの約3分の2がビットコインABCを利用しているが、近いうちに開発者の間で妥協が図られなければ、その数字は変化する可能性がある。

サトシ・ナカモトを自称するライト氏は、ミディアムへの最近の投稿で次のように述べている。

「ビットコインについて人々が理解できていないことは、それが故意に限定されているという点だ。(中略)これは意図的なものなのだ。(中略)安定したマネーであるようにデザインされており、そのためにセキュリティに基づいたわずかな代替の必要性以外には新しいオペコードを追加したり、変更されたりするようにはデザインされていないのだ」

先行きは依然として不透明

コインギークは最大のBCHマイニングプールであり、nChainの提案した変更を支持している。コインギークは、ビットコインSVが発表されたのと同時期にハッシュレートが28%まで上昇したBitcoin Cash Mining Distributionフルノードクライアント全体の約3分の1を占める開発チーム、ビットコイン・アンリミテッドの主任サイエンティストであるピーター・リズン氏は、この論争に対する自身の立場をツイッターで表明ビットコインABCはその利点を示すさらなる証拠を出すまでは計画を先送りにするべきだと述べた。

究極的にはマイナーがハッシュパワーを用いて意見を表明することから、今回の騒動に注目しているBCHコミュニティは、マイニングプールの動きに目を光らせている。BCHコミュニティ内の対立は、ディベロッパーのBCHの未来に向けたビジョンの分裂を象徴している。サトシのオリジナルのホワイトペーパーで表明された指針と一致しているかを巡る、イデオロギー的な対立だ。

コブラ・クライアントのアップグレードは安全策だが、ビットコインABCとnChainの立場は本質的な部分に根差している。BCHの分裂は避けられないようにみえる。