いまやブロックチェーンゲーム開発のグラウンドゼロ(爆心地)となったアジア。主要企業の戦略と勝ち筋についてのコインマーケットキャップリサーチの最新レポートをお届けする。

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目次

  • 第1節 ゲーム業界を牽引するアジア
  • 成長いちじるしい巨大市場
  • ゲーム産業をリードする東アジア3ヵ国
  • 第2節 百花繚乱のアジア・ブロックチェーンゲーム市場
  • RPG&カジュアルゲームはブロックチェーンと相性抜群
  • 戦略1 一気通貫のブロックチェーンエコシステムの構築
  • 1) Wemade:韓国ブロックチェーンゲーム業界の旗手
  • 2) Netmarble:ブロックチェーンゲームに主力IPを投入
  • 3) XPLA:Cosmosエコシステムにおけるキラーコンテンツの構築
  • 戦略2 厳選されたゲームIPのみをテスト的にブロックチェーン化
  • 1) NEXON:ブロックチェーンで『Maple Story』を30年遊べるゲームに
  • 2) BORA:虎の子IPの投入
  • 3) Square Enix:初のブロックチェーンゲーム『Symbiogenesis』 が近日公開
  • 大企業がブロックチェーンの採用をためらう理由
  • まとめ

本記事のまとめ

✔️ アジアのゲーム市場は「力強い成長」と「カジュアル/MMORPG志向」に特徴づけられ、その組み合わせはブロックチェーンゲームの未来を指し示す。
✔️ 老舗Web2ゲーム会社がブロックチェーン業界に参入する 2 つの理由:1) 新たな成長エンジンを確保したい、2) 仮想通貨とNFTを新たな資金源としたい。
✔️ 戦略1 『Mir 4 Global』で成功をおさめたWemixを嚆矢に、Com2usなどのゲーム会社が独自のブロックチェーンエコシステムをレイヤー1から構築し、エコシステム全体が生み出す付加価値の最大化を模索している。
✔️ 戦略2 ゲーム業界における大手プレイヤーは、トリプルAクラスの知的財産(以下、IP:Intellectual Property) を保有するため、若い技術であるブロックチェーンの採用に対して保守的である。現時点では、アイテムをNFTに変換するなど、ゲームの構成要素のトークン化にとどまる。
✔️ 2023年は、Web2ゲーム会社のリリース予定から推測すると、ブロックチェーンゲームのルネッサンス(文芸復興)が起きる可能性が高い。これにより、ブロックチェーンゲームの普及は急激に加速するだろう。


第1節 ゲーム業界を牽引するアジア

成長いちじるしい巨大市場

アジアのゲーム市場の未来は明るい。すでに世界最大のシェアを誇るだけでなく、いまだに成長性も高い。アジア地域の17億人のプレイヤーは、世界の総ゲーマーの55%を占め、2019年には世界のゲーム市場における収益の52%に相当する720億ドルを生み出した(出所:Newzoo, IDC)。一人当たりGDPの驚くべき伸びは、ゲーム内での購買力を加速的に高め、世界のゲーム市場における存在感をさらに高めるだろう。アジアが今後数十年にわたって、世界のゲーム市場を牽引する原動力であると考えられるシンプルな理由がこれだ。

ゲーム産業をリードする東アジア3ヵ国

アジアのゲーム市場は、中国、日本、韓国の3ヵ国が独占する。世界のゲーム会社の時価総額上位100社のうち、62社がこの3ヵ国の企業である。中国のゲーム業界はテンセントなどの巨大プラットフォーマーが支配しているが、韓国や日本のゲーム業界は自社でゲーム開発を行う開発会社が力を持つ。同3ヵ国においてブロックチェーン技術への関心は非常に高く、仮想通貨が禁止されている中国を除いて、両国のゲーム会社はブロックチェーンプロジェクトに積極的に取り組んでいる。各社がブロックチェーンを自社のIPにどのように活用しているかは、後の節で詳述する。

かつてゲーム業界における進歩は、ハードウェアが司っていた。アジアのゲーム市場のリーダーである韓国と日本は、1980年代にアーケードゲームという新産業の種を蒔いた。その後、2000年代のPCゲームやコンソールゲームの繁栄を経て、2010年代にはモバイルゲームが一世を風靡し、今日の勢力図の原型となった。後に東南アジアがこの市場に合流している。当初アジアでは、PCゲームより手軽なモバイルゲームが歓迎されていた。だが、最近ではPCゲームがモバイルゲームを追い越すなど、シェアの逆転現象が起きている。

アジア市場では、RPG (ロールプレイングゲーム)が特に好まれる。この点、ストラテジーゲームやアクションゲームが主流の米国市場とは対照的である。RPGはブロックチェーン技術と滅法相性がよい。そのことは、アジアがブロックチェーンゲーム市場を成長とイノベーションの面で牽引する理由でもあるのだが、詳しくは次の第2節で具体例を挙げて説明しよう。

第2節 百花繚乱のアジア・ブロックチェーンゲーム市場

RPG&カジュアルゲームはブロックチェーンと相性抜群

1) ブロックチェーンが実現するMMORPGの所有権

MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)では、ユーザーは自らの分身となるキャラクターを育成し、多数のアイテムを所有する。デジタル資産の所有を可能にすることは、ブロックチェーンのコンセプトに照らしてもまさに本質的であり、NFTによってゲーム内の資産・アイテム・キャラクターは、ユーザーに所有権が完全に認められるようになる。MMORPGは、ユーザーが仮想世界で他のプレイヤーと対戦したり対話したりすることで、はじめてコンテンツを完成させることができる永遠に未完成なゲームである。この点、ゲーム会社から一方的に与えられたコンテンツを、ユーザーがただただ消費する他のゲームジャンルと一線を画している。ブロックチェーン技術とWeb3の哲学は、エコシステムへの貢献度に応じてユーザーに報酬が与えられる「ゲーム内報酬システム」にもぴったりだ。

たとえば、Kakao GamesのMMORPG『 ArcheWorld』を例にとろう。ブロックチェーン技術を使用することで、NFTはユーザーが資産・アイテム・キャラクターを所有することを可能にする。ユーザーは開拓・建設・交易を通じてコンテンツを「生産」し、他のユーザーと交流し、ゲームを拡張することで報酬を得る。これは、ユーザーを単なる消費者ではなく、公平な報酬の分配を受けるに値するエコシステムのメンバーとして認めていることの証拠に他ならない。このように『ArcheWorld』は、ユーザーのエコシステムへの参加をうながすことで、ゲーム体験の質的向上を実現している。

2) カジュアルゲームならブロックチェーンでも軽快な動作

カジュアルゲームは、1回のプレイ時間が短く、操作がシンプルなジャンルである。『Candy Crush』や『Anipang』を思い浮かべていただけば、手っ取り早いだろう。総じてユーザーが所有するハードウェアのスペックが低いアジアでは、歴史的にみてもカジュアルゲームが好まれてきた。2021年に韓国でP2Eが流行するきっかけとなった『Hero Blaze:Three Kingdoms』もカジュアルRPGだ。カジュアルゲームの要求スペックの低さは、スケーラビリティの問題が残るブロックチェーン環境と相性がいい。現在のスケーラビリティのレベルだと、L1およびL2のブロックチェーンの場合、数千万のトランザクションが必要なオンチェーンブロックチェーンゲームは完全には動作させることができない。一方、カジュアルゲームであれば、他のジャンルに比べて設計がシンプルなため、トランザクションが比較的少なく、ブロックチェーン上でも動作させることができる。

カジュアルゲームは、マネタイズの手段としてアプリ内広告の割合が高いことも、ブロックチェーンとの相性の良さを説明する理由として見逃せない。アプリ内広告は、アプリの起動時やゲーム中に、画面の上部または下部にバナー形式で表示される広告である。RPGはゲーム内課金による収益を目的とするが、カジュアルゲームではできるだけ多くのユーザーを集めて広告を見せ、広告主から料金を徴収することを目的としている。そのため、ユーザーがゲームをプレイすればするほど広告収入が増える。『Axie Infinity』『Hero Blaze:Three Kingdoms』『MIR 4 Global』などが実践しているように、アプリ内広告とブロックチェーンゲームを組み合わせることで、アジアでは、すぐに強力なシナジー効果を生み出すユーザーベースを構築することができるだろう。

新たな成長エンジンとトークンによる資金調達

ゲーム会社がブロックチェーンゲーム市場に参入する現実的な理由は、以下の2つである。

  1. 新たな成長エンジンを確保するため
  2. トークンを新たな資金調達元にするため。(ブロックチェーンゲームとの相性の良さは、第1節で述べたとおり)

すでに確立したIPから着実に収益を行える大手ブランドゲーム会社とは異なり、中小ゲーム会社がブロックチェーンゲームという新興市場に打って出ることは、新たな成長エンジンを探すうえできわめて魅力的な選択肢だったといえる。さらに、これらの中小企業にとっては、1億米ドルを超えるような莫大なリソース・時間・コストを要するトリプルAクラスの大作を制作するよりも、手持ちのIPにブロックチェーンの要素を加味して売り出した方が負担ははるかに少ないはずだ。

新たな資金調達元の観点から見ても、かつては主要な資金調達元として株式IPOに頼っていたWeb2ゲーム会社にとって、ブロックチェーンは追加出資を受けるための代替的な手段となる。ゲーム会社は公開市場でトークンを販売したり、一般投資家からの投資を募ったりして資金を調達することができる。実際、Wemade、Com2uS、Neowizは、それぞれ2億5,000万米ドル、2,500万米ドル、1,200万米ドルをトークン販売によって調達した。調達した資金は、ブロックチェーン開発者チームの結成、レイヤー1の構築、新しいコンテンツIPの確保などに投資された。

戦略1 一気通貫のブロックチェーンエコシステムの構築

『MIR 4 Global』で見出されたブロックチェーンゲームの可能性

多くのP2Eプロジェクトは、短期間のサイクルで消滅した。だが、彼らも一度は無数のユーザーを惹きつけることに成功し、ブロックチェーンゲームの未来を指し示してくれたスターだ。中小のWeb2ゲーム企業は当時、停滞する売上の現状を打破すべく新しい成長エンジンを探していたため、ブロックチェーンの要素を持つゲームの開発に着手する動機は十分すぎるほどあった。その代表例が韓国のWemadeである。Wemadeは2021年Q3に『MIR』の知的財産(IP)にP2E要素を加えた新作ゲーム『MIR 4 Global』を発売し、 WemadeのQ4の売上は前年Q4の2倍近くまで跳ね上がった。Wemadeのサクセスストーリーは、Netmarble、Com2uS、Neowizをはじめとする、他のWeb2ゲーム企業にとって大きな刺激となり、ブロックチェーンゲーム業界への参入を促した。


1) Wemade:韓国ブロックチェーンゲーム業界の旗手

2000年に設立されたWemadeは、人気ゲーム『The Legend of Mir』のIPを擁する、時価総額20億ドルの韓国のゲーム会社である。WeMadeは2015年から2020年まで、平均年間収益1億ドルを達成した。2021年には、ブロックチェーンプロジェクト『Wemix』をベースとしたブロックチェーンゲーム『Mir 4 Global』の大ヒットにより、同社の時価総額は3億ドルまで成長している。『Mir 4 Global』は、『Axie Infinity』と同様、P2E(Play-to-Earn)的な要素が強く、フィリピンやタイなどアジア新興国で幅広い人気を集めている。このゲームは同時接続ユーザー数140万人、MAU620万人という新記録を打ち立て、WeMadeの成長を決定づけた。

『Mir 4 Global』のヒットにはいくつかの要因が考えられる。

  • 人気ゲーム『The Legend of Mir』のIPを活用
  • 仮想通貨の上昇相場継続中にPlay-to-Earn(P2E)を導入
  • 安価な取引手数料で使いやすいサービスを提供

『Mir 4 Global』は、『The Legend of Mir』のIPを使用することで、他のWeb3ネイティブのブロックチェーンゲームにはない、ストーリーやグラフィックの優位性を獲得した。仮想通貨の上昇相場の最中にこのゲームがリリースされたことは、『Mir 4 Global』と『Wemix』にとって非常に幸運だったといえる。トークン価格の上昇 ⇒ P2E利益の増加 ⇒ ユーザー数の増加 ⇒ さらなるトークン価格の上昇という、Goodサイクルがもたらされた。さらに、Klaytnのサイドチェーンを利用することで、ユーザーがより低い料金でブロックチェーンインフラを利用できるようになったことは、高いガス代に辟易していたユーザーにとって朗報であった。Wemixは、Axieのユーザー達が辛く苦しい思いをした高い手数料を回避することに成功したのだ。

『Axie Infinity』などの他のP2Eゲームと同様、『Mir 4 Global』のバブル的人気は、ガバナンストークンであるWEMIXの価格がピークに達したあと、下落を始めたことで終わりを告げた。これを受けてWeMadeは、それまでのdAppゲーム開発一本鎗の戦略から、イーサリアムから分岐した独自のレイヤー1ブロックチェーンWEMIX Chainを立ち上げた。これはブロックチェーンのエコシステム全体を構築する戦略への転換に他ならない。同社は今後、『Anipang』『Mir M』『Icarus M』をはじめとした、自社の主力IPの自社チェーンへの実装を目指す。Klaytnレイヤー1上でサイドチェーン形式のブロックチェーンゲームを開発するのではなく、WEMIXブロックチェーンのエコシステム全体を構築することを計画していることは特筆に値するだろう。

WeMadeが独自のチェーンを立ち上げる理由はいくつかある。最も重要なのはブロックチェーン全体から生み出される付加価値を最大化することだ。Klaytn L 1インフラストラクチャを使用する場合、ブロックチェーンの使用料をKlaytnに支払う必要がある。また、トークン交換などのトランザクション中に発生する手数料収入の一部を、他のDEXおよびNFTマーケットプレイスに納める必要があった。だが、WEMIX Chain(レイヤー1)とWemix Play(ゲームプラットフォーム)の稼働開始により、Wemix.Fi(DeFiサービス)やWemix Dollar(ステーブルコイン)の提供が実現し、Wemixはブロックチェーンのエコシステム全体でバリューチェーンを運営・拡張できるようになった。


WeMix Playでは現在、『The Legend of Mir』をベースとした『Mir 4 Global』と『Mir M』を含む23タイトルのゲームを提供している。両ゲームの同時接続ユーザー数は現在、それぞれ30万人と15万人である。Web3ネイティブのゲームと比較するとかなり多い。リリース予定のタイトル数は34本で、当初の目標の100本には届かなかったが、『Anipang』『Mu Legends』『Icarus M』などWeb2の人気作品のIPをWeMixからリリースする準備を進めている。これらのゲームのリリースは、ブロックチェーンゲームプラットフォームとしてのWeMixの地位をさらに高めるだろう。

2) Netmarble:ブロックチェーンゲームに主力IPを投入

Netmarbleは2000年に設立された韓国の大手ゲーム会社である。時価総額は40億ドル。『Seven Knights』や『Let’s Get Rich』をはじめとする人気ゲームのIPを保有する。Netmarbleは新たな成長戦略として、ブロックチェーンを新たな成長エンジンとして選択した。Klaytnベース(BNBチェーンを皮切りにまもなく複数のチェーンに拡大予定)のGameFi向けプラットフォーム「Marblex」と、BSCベースのエンターテイメント向けプラットフォーム「FNCY」による二重のアプローチで、ブロックチェーン市場に参入した。Marblexは2022年にはブロックチェーンゲームを3本リリースし、1,300万ユーザー / 2,250万ダウンロードという驚異的な記録を打ち立てた。2023年には主力IPである 『Let's Get Rich』を題材にしたゲームがリリースされ、プラットフォームはさらなる飛躍を遂げる見込みである。


2022年、Netmarbleは同社のIPを利用したブロックチェーンゲーム『A3: Still Alive』『Ni no Kuni: Cross Worlds』『The King of Fighters: Arena』を発表した。『A3』はMMORPGで、ブロックチェーンを導入したことで収益が7倍、DAUが6倍、リテンションが2倍以上に増加した。この驚異的な数字は、ゲームプレイを通じてMBXトークンをマイニングするインセンティブをユーザーに与えることで達成された。ブロックチェーンゲームならではのユニークな機能といえるだろう。

同じくMMORPGの 『Ni no Kuni』は、米国を含む27ヵ国でアプリランキング・トップ10入りを果たした。これはモバイルブロックチェーンゲームでは昨年度最高の売上で、『Mir 4 Global』 をも上回る。30日間の継続率は4%向上し、トークン価格は安定した水準を維持、マイニングされたゲームトークンはゲーム内で95%が消化された。『Ni no Kuni』 は、第一世代のブロックチェーンゲームの限界とされてきた、トケノミクスのサステナビリティの問題にも解決をもたらした。これは、しっかりしたゲーム内容と、ブロックチェーンゲームのみが実装しうるトークン供給量の絞り込みの合わせ技が実現した快挙だ。

Netmarbleは、今年Q2には『Meta World: My City』をリリースする。同作は全世界での累積ダウンロード数が1億5,000万を記録した『Let’s Get Rich』のIPを利用している。ボードゲームと不動産メタバースを組み合わせることで、プレイヤーは土地や建物のNFTを取引し、『Blue Marble』と同様、不動産投資を通じてゲームトークンで配当を受け取ることができる。『Meta World』 は、世界的に認知度の高いIPを利用することで、既存のWeb3不動産ゲームにはない付加価値を提供している。大ヒットの兆しは十分である。

他の大手ゲーム会社の中には、自社IPの毀損を恐れて、ブロックチェーン技術の導入に二の足を踏んでいるところもある。だが、Netmarbleは主力IPを積極的に活用するという方針を明確に打ち出した。実際、Netmarbleは昨年リリースした3つのブロックチェーンゲームで大きな成果をあげている。Netmarbleは、サードパーティのゲームをリリースすることで、ブロックチェーンゲーム開発会社としての存在感を高めようとしている。Netmarbleは、強力なパブリッシング能力が評価され、同社のブロックチェーン事業には多大な期待が寄せられている。さらにNetmarbleは、独自のブロックチェーンゲーム設計のノウハウと成功の方程式を入手すべく、大胆な試行錯誤を繰り返している。ブロックチェーンゲーム市場におけるリーディングカンパニーの片鱗を早くも見せ始めた格好だ。

3) XPLA:Cosmosエコシステムにおけるキラーコンテンツの構築

XPLAは、韓国の中堅ゲーム会社Com 2 uS社が開発したPoSブロックチェーンである。Cosmos SDKを利用する。2007年に設立されたCom2uSは、もともとカジュアルなモバイルゲームを開発していたが、2010年にスマートフォンの登場後は、モバイルゲーム業界の急成長と歩調を同じくして、中堅のゲーム会社へとのし上がった。特に2014年にリリースしたモバイルゲーム 『Summer's War』は全世界で大ヒットし、売上高5億ドル、時価総額10億ドルを記録した。

Com2usは、ゲーム業界においてモバイルデバイスへの歴史的な移行が始まったとき、移行を「すでに終わらせていた」伝説を持つ。同社は現在のブロックチェーンとWeb3への移行をとっくに予見していたのだ。ブロックチェーンの数ある要素のうち、Com2usはユーザーへの「所有権」 の移転に焦点を当ててきた。そのような経緯から、ブロックチェーン導入が進んでいるジャンルの上位を、i) ユーザーがゲーム内のアイテムを所有するRPG、ii) ゲーム経済が構築しやすいカジュアルゲーム、が占めているのは、ある意味当然といえるだろう。

Com2usのWeb3戦略の特徴は、Cosmosベースのレイヤー1エコシステムの成長を促進することと、自社コンテンツをXPLAに組み込むことの2つがある。前者の戦略については、昨年のTerraとFTXの不祥事を受けて全体的なロードマップのスケジュールに大幅な遅れが生じたが、開発者向けのインフラ(例:EVM互換、Solidity-CosmWasm統合、レイヤー2ソリューション開発など)は今年末までに完成する予定である。


後者の戦略については、今年XPLAに実装されるdAppsのラインナップについて、概要がすでに発表されている。ラインナップを見る限り、コンテンツ不足が深刻なCosmosエコシステムにおいて、キラーゲームの地位を奪取できる可能性がありそうだ。特に『Summoners War』のIPのひとつである『Chronicle』は、過去8年間で30億ドルの累積収益を上げているが、そのブロックチェーン版が今年のQ3に発売される。『Minigame Heaven』のようなカジュアルゲームも、今年の前半に3-4タイトルの発売が予定されている。激化するレイヤー1競争の生き残りを賭け、自社IPコンテンツからの収益最大化を図るとともに、外部dAppの実装に必要なインフラ(例:XATPの導入、EVM互換性の強化、IPFSストレージノード、レイヤー2対応など)のロードマップを策定中とのことだ。

イーサリアムL2が開発の主流になった現在、Cosmosエコシステムを選択することは困難を伴う。Cosmosエコシステムは、イーサリアムエコシステムよりもはるかに多くのインフラストラクチャ開発を必要とする可能性があり、社内リソースの分散のリスクを招く。さらにXPLAは、ネイティブロールアップまたはチェーン上でサービスを開発したい開発者のニーズを満たすことが困難になる可能性があり、インフラストラクチャのセキュリティの要求水準はさらに高くなるおそれがある。そして、現時点でブロックチェーン技術の採用による具体的な成果が得られていないことも、ネットワーク上で展開されるプロジェクトにとっては急を要する課題だろう。

戦略2 厳選されたゲームIPのみをテスト的にブロックチェーン化

韓国におけるブロックチェーンゲームのエコシステム形成は、中堅から大手まで、各ゲーム会社が積極的に主導している。だが、最大手のWeb2ゲーム会社はというと、ブロックチェーン技術の採用に慎重な姿勢を取っている。これには2つの理由が指摘されている。i) ブロックチェーン市場の規模は大手ゲーム会社の売上から見れば些少であり、ii) ブロックチェーン技術の実装によって主要なゲームのIPが侵害される可能性がある。


1) NEXON:ブロックチェーンで『Maple Story』を30年遊べるゲームに

昨年夏、Xangle Adoptionカンファレンスの第1セッションで講演したNEXONのCOO、カン・デヒョン(Kang Dae-hyun)氏は、プレゼンテーション冒頭でNEXONを 「持続不可能なゲームを持続可能なゲームにした企業」 と表現した。実際、年間売上高30億ドルの50%近くを占めるNEXONのゲームIP『Dungeon & Fighter』と『MapleStory』は、それぞれ17年前と20年前にリリースされた作品であるが、今なお着実に売上を伸ばしている。NEXONは長期的に持続可能なゲームの開発に特化した、ゲーム業界の重鎮といえるだろう。

NEXONのブロックチェーン戦略は、企業全体に影響を与えない範囲で、ブロックチェーン技術をサービスに組み込む実験を積極的に行うことである。これによってユーザー数が増えるのか、ゲーム寿命が長くなるのかをテストを行う。特にNEXONがブロックチェーンの要素を取り入れることを計画している『Maple Story N World』には、 「成功したゲームをさらに持続可能なものにする」 という明確な目標がある。その代償として、同社はかつては支配下に置こうとしていた領域を一部を除いて手放すことにした。最も注目すべきは 、「クエスト」 をはじめとするゲーム要素を開放し分散化させることで、ゲームクリエイターのエコシステムを再構築する計画だ。これによりユーザーはブロックチェーンのエコシステム内で独自に生成されたコンテンツで遊べる環境を与えられたことになる。

この自立したエコシステムの形成を支援する手段が、ブロックチェーン技術(特にNFT)やトケノミクスに他ならない。『MapleStory N』は2023年中のローンチを目指していると報じられた。『MapleStory』がブロックチェーンを採用することで、ゲーム内にクリエイターのエコシステムが構築される。そのことがゲームの寿命と収益を増加させるのであれば、これまでブロックチェーンをゲームに採用することをためらってきたゲーム会社にとっても、呼び水となるのはまちがいない。

2) BORA:虎の子IPの投入

Kakao Gamesは、韓国の大手IT企業Kakaoのゲーム部門である。Kakao Gamesは、i) 当初は95%という圧倒的な市場シェアを誇るKakaoのモバイルメッセージアプリKakaoTalkをプラットフォームとして、ii) 後にはKakao Friendsの人気キャラクターを使用したカジュアルモバイルゲームをプラットフォームとすることで、爆発的な成長を遂げた。現在ではMMORPGやシミュレーションなど複数のジャンルに進出し、年間9億ドルの収益を上げている。


新しい事業ポートフォリオの一環として、Kakao GamesはクロスチェーンベースのブロックチェーンゲームプラットフォームであるBORAの運営を始めた。BORAは2022年、ArcheAge IPを使ったMMORPG『ArcheWorld』 と、Kakao FriendsのIPを使ったカジュアルスポーツゲーム『Birdie Shot』 をリリースした。BORAは、ブロックチェーン技術を2つのまったく異なるゲームジャンルに適用した結果を分析したところ、ゲーム経済の設計と修正が容易なカジュアルゲームの方がブロックチェーンとの相乗効果が高いことがわかった。2023年Q2のハイパーカジュアルゲームの発売を皮切りに、BORAは2023年Q2から2024年Q1にかけてパズル、スポーツ、ソーシャルカジノなど、さまざまなタイプのカジュアルゲームを展開する予定である。

Kakao Gamesにとって2023年は、最終的に生き残るトケノミクスモデルを模索する勝負の年になるだろう。カジュアルゲームに様々なトケノミクスを導入し、厳しいテストが実施される。独自の道を見つけ、持続可能なモデルであることを証明することによってのみ、Kakao Gamesは主力IPにブロックチェーン技術をより積極的かつ大胆なかたちで導入することができるだろう。


3) Square Enix初のブロックチェーンゲーム『Symbiogenesis』 が近日公開

Square Enixは、 『ファイナルファンタジー』と『ドラゴンクエスト』の二大RPGを主力IPとする、日本を代表するゲーム会社である。主力IPを活用した家庭用ゲームシリーズでヒットを飛ばしていたのは過去の話。すでにモバイルへの移行に成功しており、モバイルゲームからの収益がゲーム事業の収益の半分以上を占める。Square Enixはモバイルへの移行に成功した後、最近では、中長期的な成長戦略としてブロックチェーンゲームを打ち出している。Square Enixの松田洋祐CEOは、2023年の新年の挨拶の中で、 ゲーム会社が一方的にゲームを提供する構図はもう古い。旧弊からの脱却を可能とする、ユーザー主導型のブロックチェーンゲームにこそ成長可能性があるということを強調した。
現在開発中の 『Symbiogenesis』はこのビジョンを反映したものである。同作はSquare Enixがリリースする初のブロックチェーンゲームの新作となる。詳細はまだ明らかになっていないが、『Symbiogenesis』はPolygonブロックチェーン上で運営され、10,000のNFTをベースとした独自の世界観を持つNFTゲームとなる予定である。同社の主力IPである 『ファイナルファンタジー』と 『ドラゴンクエスト』へのブロックチェーン導入はまだ確定していないが、松田CEOの新年のメッセージを考察すると、『Symbiogenesis』を皮切りにブロックチェーンゲームの開発とリリースが進む可能性を示唆しているように思える。

首位の韓国を日本のゲーム会社が猛追

世界のゲーム会社トップ100のうち、約70%がアジアに本社を置いている。ブロックチェーンゲームの未来を占う意味で、これらのトップ企業を分析してみよう。結論から言えば、現時点で韓国のゲーム会社は、世界のブロックチェーンゲームの開発競争において先頭を走っているといえる。(下表を参照)

日本のゲーム会社はスタートこそ出遅れたものの、ブロックチェーン技術を取り入れる積極的な姿勢では韓国企業に遅れをとらない。セガやバンダイナムコなど日本のゲーム業界の主要ブランドの多くは、レイヤー1ビジネスが専門というわけではないが、Oasysのバリデーターとして参加することで、すでに間接的にはレイヤー1ビジネスに参入しているといえる。また、バンダイナムコは、ブロックチェーン関連のスタートアップ企業に投資することで、自社のIPとファンを結びつける計画を明らかにした。その第一歩が、バンダイナムコによるブロックチェーンゲーム開発会社,Gangbusters Ltd.への出資というわけだ。

大企業がブロックチェーンの採用をためらう理由

市場がまだ小さすぎることとIPへのダメージの懸念

ブロックチェーンゲーム市場が生み出す収益は、大手ゲーム会社の年間収益から見れば微々たるものである。Newzooによると、世界のゲーム市場は2021年に1,750億米ドルに達した。任天堂(149億米ドル)、Activision Blizzard(88億米ドル)、Electronic Arts(56億米ドル)、Nexon(25億米ドル)といった大手ゲームメーカーの多くは、COVID-19のパンデミック中に過去最高の業績を上げたと報告している。これに比較すれば、ブロックチェーン市場が生み出す収益はいかにも小さい。ブロックチェーンゲーム業界を代表するゲームである『Axie Infinity』の2021年と2022年の累計売上ですら13億米ドルに届かず、現在の月間売上は約100万米ドルまで落ち込んでいる。Wemadeの『MIR 4 Global』も同様で、同時期に1億4,000万米ドルの累計売上を記録したが、これは大手ゲーム会社が見慣れている数字と比較すると何とも頼りない。大局的に見て、ブロックチェーンゲーム市場は大手Web2ゲーム企業のレーダーには写らないレベルだ。

大規模なゲーム企業にとって、もう1つの懸念がある。それはブロックチェーンとトケノミクスの結合が、大切な自社IPに与える潜在的な悪影響である。これは特にゲームIPが主要な収益源であり、ドル箱として長期にわたって大きな利益を生み出してきた場合には致命的となる。『Axie Infinity』や『STEPN』のような非常に短命なP2Eゲームの事例を目の当たりにすれば、看板ゲームにP2Eの要素を導入することは躊躇して当然だろう。たとえば、時価総額70億米ドルの韓国のゲーム会社であるKraftonは、売上のほとんどを大ヒットしたシューティングゲーム『PUBG:BATTLEGROUNDS』に依存しているが、そのIPにブロックチェーン技術を導入する計画はまったくない。

ブロックチェーンの部分的な採用

一部の大手Web2ゲームメーカーは、このようなリスクにも関わらず、ブロックチェーンの導入を慎重に検討している。日本で上場している韓国のゲーム会社であるNEXONは、同社の収益の約25%を占める『Maple Story 』のIPに、NFTなどのブロックチェーンの要素を導入した『Maple Story N World』をリリースする予定である。同じ韓国のNCSOFTも、代表作『Lineage』のIPにブロックチェーンの要素を導入し、北米や欧州市場への進出を計画している。これらの企業に共通しているのは、あくまで企業の屋台骨には影響を与えない範囲でブロックチェーン技術を実験し、市場の反応を見るという戦略である。導入されたブロックチェーン要素によってユーザー数やゲーム寿命は、はたして本当に伸びるのか?検証結果が楽しみだ。


NEXONの『Maple Story N』は、 「成功したゲームをさらに持続可能なものにする」 というコンセプトを持つプロジェクトであるため、とりわけ期待が大きい。NEXONは20年以上にわたってサービスを提供しているこのゲームを、さらに「長持ち」させるためにブロックチェーンを導入するという。同社は、ユーザー自身がエコシステム内にコミュニティ主導のゲームを立ち上げることを可能にした。さらに、Web3の要素はこれらのコミュニティ主導のゲームをサポートするための『Maplestory』のIPの分散化である、と定義している。これらをサポートする具体的な手段が、ブロックチェーン技術 (NFTを含む)やトケノミクスである。ゲームにブロックチェーンを導入することで、クリエイターはエコシステムの構築に貢献することができ、究極的にはゲームの寿命と売上の増加につながるという。これらのプロセスに再現性があるとすれば、これまでブロックチェーンをゲームに採用することに消極的だったゲーム会社にとっては、一大センセーションとなるにちがいない。

まとめ

2023年には、ブロックチェーンゲーム分野はさらにパワフルな成長を遂げると予想される。2023年1月にリリースされたWemadeの『MIR M』を皮切りに、Web2分野からの参入者が相次ぎ、多くのWeb3ゲームがリリースされるだろう。Netmarbleの『Meta World』とCom 2 uSの『Summoners War』はそれぞれ2023年Q2と2023年Q3にリリースされる予定である。Nexonの『Maple Story N』とSquare Enixの『Symbiogenesis』も年内にリリースされる見込みだ。ブロックチェーンゲームは、不完全な成功に終わった過去のP2Eゲームと異なり、ゲームの品質を異次元まで高めることで、Web3ゲームの大衆的な普及を促進することが期待されている。
アジアの多くのゲームメーカーは、さまざまな戦略やアプローチを駆使してブロックチェーンゲームを開発している。彼らは、ユーザーにデータの所有権を与えることで、データの売買を可能にするブロックチェーン技術とゲームの潜在的な相乗効果に気づいた。そして、急速に競争力を高めていた中国のゲームメーカーが、規制のためにブロックチェーン市場に参入できなくなったことも、日韓の追い風となるだろう。2022年上半期に『STEPN』が退場してからというもの、ブロックチェーンゲームはその普及が足踏みしていたが、高い開発力と豊富なリソースを持つ老舗Web2ゲーム会社がブロックチェーンゲームの開発に着手したとすれば、仮想通貨業界の新たな起爆剤となるのはまちがいない。

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