ビットコイン(BTC)は12,000ドルを下回り、ここ数日では11,400ドルのレベルにまで値を戻している。このため、2020年のはじめ以来の力強い成長をしたアルトコインも勢いを失っているようだ。しかし、「アルトコインの季節(アルトシーズン)」はいまだ健在だと考える声も根強い。アルトシーズンを信じる人々は、チェインリンク(LINK)などのトークンが100%以上の成長を見せた後でも、まだ仮想通貨(暗号資産)には成長の余地があると信じている。

最近のビットコイン価格下落の主な要因はドルの高騰である可能性がある。実際、金などのほかの安全資産も下落している。しかし、多くの人々は、米国の株式市場が非常に過大評価されているため、ドルの引き下げが起こりそうだとも考えている。そうなれば、ビットコインが勢いを取り戻すとともに、アルトシーズンが再開する可能性があるだろう。

アルトシーズンの特徴は、アルトコインがビットコインよりも高いパフォーマンスを示すことだが、通常ビットコイン自体の価格も上昇しているときにアルトシーズンは発生する。ほとんどの主要なアルトコインはビットコインと相関関係があり、BTCが上昇すると、一部のアルトコインがさらに大きく高騰する(そして逆もまた同様だ)。”The Crypto Portfolio”の著者で、仮想通貨ファンドマネージャーの経験を持つジョナサン・ホッブス氏は、アルトコインのブームは3つのファクターが関係すると、コインテレグラフに語っている。

「第1に、イーサリアムが主導する形で、アルトコインのチャートは素晴らしい形となっていた。7月に、トップ100のアルトコインのドミナンスの対ビットコインチャートは、2年間の下降チャネルから抜け出した。第2に、チェインリンク、Aave、SNXなどのDeFiプロジェクトには多くのハイプがあった。第3に、ビットコインは3月の暴落以降、上昇また一定のレンジ内で取引されていた。これは通常、ドル換算でのアルトコインにとってもポジティブだ。しかし、ビットコインがここから急落した場合、パラボリックに進んだアルトコインの方がはるかに厳しい状況になるだろう」

さて、最近の急騰を引き起こしたものでは一体何だろうか?それは特定の特性を持つトークンもしくは特定の資産のグループのみに影響するのか? ここでは、ビットコインのドミナンスが段々と落ち込むに伴ってはっきりとしてきたアルトコインの季節について、より深く見ていきたい。

2017年の再現か?

2017年、ビットコインの価格が史上最高値を記録したことで、ほかのいくつかの仮想通貨も牽引力を獲得し始めた。その多くは、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)といった資金調達手法とも関連していた。これらの資産の一部は、ビットコインを大幅に上回るパフォーマンスを示し、BTCが下落し始めた後でも利益を獲得していた。

BTCは2017年2月に時価総額でのドミナンスを失い始めた。2017年の上昇過程で、ビットコインのドミナンスは86%から50~60%にまで低下した。BTC価格の暴落の後、2018年1月にはビットコインのドミナンスは35%にまで低下した。その後、2018年~19年にかけてドミナンスは回復していった。

ビットコインのドミナンスは、2020年のはじめから再び低下し始めた。現在は58%となっているが、2018年の35%に比べればまだ高い。またマーケットの状況も2017年とは大きく違う。取引所では基準を引き上げている一方で、認められたアルトコイン投資のオプションは多様化している。

メサーリのリサーチアナリスト、ライアン・ワトキンス氏は、プロジェクト自体にも大きな改善がみられていると、コインテレグラフに語っている。

「今回の強気市場と、前回の強気市場(2017年)の最大の違いは、価値を生むプロダクトに対して、市場が正当な評価を与えていることだ。多くのプロトコルは、実際にユーザーにキャッシュフローを生み出している。ホワイトペーパー以外に何もないようなベイパーウェアのプロジェクトに馬鹿げたほど資金が集まったような、2017年の状況と大きく違う点だ」

2017年には、誇大宣伝と強欲が上昇ラリーに多くの燃料を供給した。ICOが投資家に見事な利益をもたらしたため、より多くのマネーがアルトコイン市場に流れ込んだ。儲ける機会を逃すことを恐れる気持ちが、この期間に多くの投資を集めた。多くの価値のないトークンが札束の詰まったバッグのようになった。そのほとんどはイーサリアムブロックチェーンでのプロダクトだった。ビットコインのウオレットよりも、イーサ(ETH)ウォレットの方がこの時期に高い利益を上げていた

分析プラットフォームのDappRaderのオープンデータ分析リーダーのイリヤ・アブゴフ氏によると、ハイプで作られていた前回のアルトシーズンと、現在のアルトシーズンとの間にはいくつかの類似点があるという。

「私たちは多くの類似したネガティブなダイナミクスを見ていると思う。プロジェクトはキャッチ―な機能を集め始めている。品質の観点からの調査はますます少なくなってきている。さらに規制のアングルはほとんど無視されているようだ」

アルトシーズンか、DeFiシーズンか

2017年のアルトシーズンでは仮想通貨の世界のいくつかのデジタル資産の分野に影響を与えたが、現在の上昇ラリーでは分散型金融(DeFi)の分野に注目が集まっている。特にコンパウンド(Compound)のCOMPトークンが取引開始で価格が倍になったことで、イールドファーミングが取り沙汰されるようになった。

DeFiに関連するほかのガバナンストークンもビットコインのパフォーマンスを上回っている。これは今年に5000%の上昇となったAaveのLENDや、1トークンあたりの価格がビットコインを超えたヤーン・ファイナンス(yearn.finance)のYFIトークンなどだ。YFIトークンは過去1ヶ月で300%以上の高騰となった。

ガバナンストークンや報酬トークkンだけではない。DeFiアプリケーションに必要な価格オラクルネットワークkを提供するチェインリンクのLINKトークンなど、インフラストラクチャプロジェクトも勢いを増している。DeFiのクロスチェーンプロジェクトであるNeutrino USD(NUSD)も成長している。これはDeFiエコシステムに安定性と相互運用性をもたらすことを目的としている。

メサーリのワトキンス氏によれば、現在のアルトシーズンは主に分散型金融の成長によって推進されている。「DeFiはアルトシーズンのトリガーとなった。誰もが仮想通貨のすべてのカテゴリーをもう1度見直すようになっている。これはもちろん、DeFiがリードしていったものだ」。

そのため、DeFiが2017年のアルトシーズンにおけるICOと同じようなものだと指摘する声もある。ただし、2017年と比較すると、価格の急騰は依然としてかなり小さいものであることには注意する必要があるだろう。また、DeFiが指数関数的に増加している一方で、DeFiでロックされている資金の量は、2017年後半にICOによって生み出された資金の量と比較してまだ小さい規模であることにも注意するべきだ。現在、70億ドル相当のトークンがDeFiでロックされているが、ICOのブームの時にはEOS単独で41億ドルを調達している

DeFiはICOのような誇大宣伝とはなっていないかもしれないが、何も対処しなければDeFiの終焉につながる可能性がある懸念はいくつかある。DeFiエコシステム内には依然として多くのセキュリティ問題があり、その結果、いくつかのプロジェクトではプロトコルの欠陥や悪意のある攻撃が発生している。またガバナンス問題への懸念も高まっている。さらにブロックチェーンネットワークへの負荷が高まっているため、イーサリアムの持続可能性の問題もある。

現在においても誇大宣伝の問題への懸念はある。特にドージコイン(DOGE)の事例が示したように、ソーシャルメディアでそれが行われる点や、ミームが実際のプロジェクトのように振舞うといった問題だ。現在のアルトシーズンのかなりの部分が、無分別な投機であることは疑いの余地がないだろう。

仮想通貨取引プラットフォームのバイビット(Bybit)の共同創設者兼CEOのベン・ゾウ氏は、DeFiトークンがまさにアルトシーズンを牽引していると、コインテレグラフに語っている。

「2017年のアルトシーズンは、誇大宣伝の後に崩壊してしまった。今回も同じことが起こるかどうかはまだわからない。しかし、また厳しい試練が訪れたとしても、それを乗り越えたアルトコインは、ジュニアパートナーという形であれ、偉大なる兄貴たるビットコインの隣で正当な地位を獲得することになるだろう」

機関投資家はアルトシーズンを作るか?

アルトコインへの機関投資家の関心と、投資オプションも増加している。機関投資家の資金が流入すれば、持続性のあるアルトシーズンが起こる可能性があるだろう。たとえば、ETHオプション契約の建玉は過去3ヶ月で5倍以上になり、約4億5000万ドルに達した

今年7月、仮想通貨ファンドのグレースケール(Grayscale)は、ビットコインキャッシュ(BCH)とライトコイン(LTC)の投資信託が、米金融規制当局からの承認を受け、店頭(OTC)取引で利用できるようになったと発表した

さらにグレイスケールは、同社の仮想通貨投資信託の顧客の90%を占める機関投資によるアルトコインに対する需要があるとも指摘している。機関投資家は、複数のアルトコインを含グレースケール・デジタル・ラージキャップファンドを購入することで、仮想通貨投資におけるポジションを多様化することを目指している。

デジタル通貨のプライムブローカーのジェネシス(Genesis)は、アルトシーズンの触媒としてDeFiをさらにサポートしている。ジェネシスによれば、機関投資家においてもイールドファーミング現象に注目し、より高い利ザヤを求める需要があることを明らかにしている

ただし、DeFi分野をはじめとするアルトコイン分野に関してはさらに規制が行われる可能性がある。もしそうなれば、米証券取引委員会(SEC)によるICO取締りと同じように、ハイプが抑制され、市場が縮小する可能性もあるだろう。

「アルトシーズンは終わる」という意見

DeFiの分野に注目すれば、アルトコインは有望なように思えるかもしれないが、「アルトシーズンはもう終わった」もしくは「間もなく終わる」と考えている人々もいる。

仮想通貨分析企業のサンチメント(Santiment)による最近のブログ投稿では、アルトコインの急落により、ビットコインはすぐにそのドミナンスを回復させると述べている

同社によると、アルトシーズンからの利益は、ステーブルコインや法定通貨、もしくはビットコインに逆流する可能性があり、ビットコインの上昇に拍車をかけるかもしれない。

「アルトコインはパーティを楽しむだろう。段々とクレイジーなマネーがあちこちに流入していくだろう。高騰するアルトコインはまだいくつかあるだろう(ただ、その数は減っているが)。…プロセスが終わった後、すべてが下落するか、ビットコインだけが上昇するかのどちらかになるだろう」

アルトコインが終わるとみているのは、サンチメントだけではない。強いドルが復活することでビットコインの上昇が終わり、アルトコインも終わらせると予測する分析もある

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン