Move-and-earn(動いて稼ぐ)を支える心理学
人間には運動が必要だ。定期的に体を動かすことが人々の心身の健康に結びつき、感情面や精神面、さらには心理面といった幅広い側面からもメリットをもたらすことを無数の研究が示している。
一方で、この話を訴えるのは我々だけでない:
・アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の調査では、運動が2型糖尿病から心臓病、がん、認知症に至るまで、様々な慢性疾患のリスクを抑えることが示された。
・神経認知機能を重視する人向け:ハーバード大学の精神科医らは、エクササイズの刺激によって、脳内で新たな細胞や連結が生み出されることを立証した。
・その他、精神疾患に苦しむ人々向け:体を動かすことは、メンタルヘルスを良好に保ち、ストレスや心配を解消し、創造性や自己肯定感を高めるための基礎となる。
さらに言えば、エクササイズは我々を分子レベルで変化させる。スタンフォード大学医学部の科学者らが行った研究では、代謝から免疫、ストレスや心血管機能にいたるまでの様々なプロセスについてバイオマーカーの記録を行った。その結果、「最も基礎体力のある層は、その他の層と比べて明らかに異なる結果を示す」と突き止めた。
残念ながら、人口全体で見た我々のエクササイズ量は単純に不足している。運動がもたらす無数のメリットについてあらゆるエビデンスが示されているにも関わらず、WHOの調査では、世界中の成人4人に1人(あるいは約14億人)が十分な身体運動を行っていないことが示された。
膨らむ課題
これは我々の健康にとって大問題だ。必要とされる運動が確保されていないということは、人口全体みた幸福度(=ウェルビーイング)も低迷しているということなのだ。
アメリカ国立生物工学情報センターでは、2030年までに世界人口の約20%が肥満になると予測している。このことが医療や健康に及ぼす影響は多岐にわたる。なぜなら肥満は、高血圧やコレステロール異常、心臓発作、胆嚢疾患、胆石といった消耗性疾患や致死性疾患のリスクを高めるからだ。
経済への影響も甚大だ。専門家の指摘では、アメリカ単体でみても、特に肥満や太り過ぎの人口が増えたことによる慢性疾患のコストは、合計1.72兆米ドル(アメリカのGDPの約9.3%)にも上る。さらに、CDCによれば、運動不足は他のリスク因子を持たない人々に対しても、将来的な心疾患のリスク増加など深刻な影響を与えるという。
身体的な病気から視点を離してみよう。実は、この領域以外にもエピデミックが存在する–––世界的なメンタルヘルス危機だ。新型コロナウイルスの感染が始まる以前から、世界中で精神的な苦痛に悩む人の割合が急増していた。ところがパンデミックの発生後、アメリカにおける鬱の割合は3倍に膨れ上がった。
孤独や孤立の急拡大が決定打となり、我々のストレス状態はかつてないレベルにまで悪化した。経済不安は様々な年代の人々に影を落とし、また、職場における燃え尽き症候群の数は過去最高に達した。89%という衝撃的な割合の被雇用者が「過去1年間に仕事が手に負えないと感じたり、無気力になったり、過度のストレスを感じたりした」と回答した。
この問題をどう解消すれば良いだろうか?多くの場合、運動を妨げる環境要因はない。ほとんどの人が外を歩いたり、ランニングシューズを手に体を動かしたりすることができる。それなら、欠けているのは「テクノロジーと機会」だろうか?我々はそうは考えない。世界の健康・フィットネス業界は数億ドル規模の大勢力となっている。なおかつ、あらゆる最新テクノロジーが目の前に提供されても、我々は十分に活動していないのだ。
問題の根本を理解するために、人間の行動と心理について掘り下げてみよう。
トレーニングの背景にある心理
「我々はハードな運動をしないように進化した」(ダニエル・E・リーバーマン(Dr. Daniel E. Lieberman)氏)
リーバーマン氏は、ハーバード大学の人類進化生物学科教授であり、『Exercised: Why Something We Never Evolved to Do is Healthy and Rewarding』の著者だ。彼は、「今日、我々は身体的な活動性を必要としない世界を創り上げた。その結果、選択する必要が生まれた。」と説明する。
要約すると、人類はエネルギーを温存するようにできているのだ。我々は知識の上で「運動するのは良いこと」だと知っていても、生物レベルでは「余分なエネルギーを消費するのは単純に無駄」だと感じる。生き延びるために全く必要ないことを、なぜ必死にしなければならないのか?というわけだ。
さらにハードルを上げるのが、エクササイズによるメリットの多くはその場で実感できず、定量化できないということだ。例えば、自分の心臓病罹患リスクがいつ下がったかを特定するのは難しい。即時的な満足を求めるこの時代に、目の前に存在せず、容易に内容を把握できない物に対して繰り返し努力するよう脳を使うのは、たいへんな努力を要することだと考えられる。
報酬を活用する
この課題に立ち向かうため、現在多くの研究者がエクササイズにおける報酬の有効性を検証している。特に、金銭的報酬が運動習慣の構築や継続を支える効果について、様々な研究が行われている。
・あるプログラムでは、トレーニングを欠席した人がその後ジムに足を運んだ際に報酬を与えた。その結果、ジム利用が16%増加した。
・損失回避を用いた別の分析実験では、「参加者が歩数目標を達成しなかった場合に2ドル失う」という条件のグループが、対照グループの歩数記録を上回った。
一方で、すべての研究結果が同じ現象を示すわけではない。全米経済研究所(NBER)の実験では逆の結果となり、科学者らは次のような発見をした。ジム利用の報酬としてアマゾンギフト券の提供を約束されたグループが実際にジムを訪れた回数は、報酬の約束を受けていないグループと比べて、わずか0.14倍しか増えなかった。
なぜこうしたバラつきが見られるのだろうか?
我々の進化的直感を「騙す」ための適切なステップ構築は、どうやら一筋縄ではいかないらしい。何が有効で、何が無効かを知るために、「習慣化」の裏側にある心理を知ることが重要だ。単体の行動を、自動的で継続的なルーティンに変えるからくりとは、どのようなものだろうか。
習慣化の裏側にある科学
ニューヨークタイムズのベストセラー『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』(原題:Atomic Habits)の著者であるジェームズ・クリアー(James Clear)氏は、人の行動変化を知るためのシンプルな枠組みを提示している。クリアー氏によれば、習慣化サイクルを構成する4つのステップは、以下の通りだ:
1.きっかけ:脳がある行動を起こすよう促すもの
2.欲求:反応を促す思考や感覚、感情
3.反応:実際の行動
4.報酬:最終目標
これを運動習慣に当てはめると、普通の人がエクササイズを実践するには壁が多そうだと感じるかもしれない。定期的な運動習慣を持たない人なら、走り出す「きっかけ」が見つかっていない可能性がある。あるいは、運動したご褒美に「クッキーを1枚食べる」ことにして、やり遂げたばかりのエクササイズを台無しにしている可能性もある!
幸い、習慣化をより簡単するためのステップもある:
きっかけ:わかりやすくする
欲求:魅力的にする
反応:簡単にする
報酬:満足を得られるものにする
習慣形成ツール「STEPN」
現代においては、ほとんど全ての人がカレンダーやTo-doリストにいっぱいの用事を抱えて多忙な日々を送っている。習慣を身につけるための法則は決して難しいものではないが、我々の多くは健康習慣を構築するための理想的な環境づくりに費やす時間やエネルギーを持たない。
STEPNのようなスタートアップ企業が一肌脱いだのは、そのためだ。ホーム画面にSTEPNアプリを追加すれば、それがトレーニングのわかりやすい開始点になる。このことが習慣化の科学とどのように合致するか検証してみよう。
きっかけ:「わかりやすくする。」人が仮想通貨を稼ぐために使えるエネルギーは、毎日補充される。そのため、ユーザーはエネルギーを無駄にしないために外へ出て体を動かそうと自然と背中を押される。ポイントは、稼ぎを最大化するためにユーザーがエネルギーを使い切る必要があるという点が「わかりやすい」ことだ。これは、先に紹介した実験で、参加者にトレーニングを促す効果が実証された「損失回避」の心理を想起させるものでもある。
欲求:「魅力的にする。」多くの人は、外に出てウォーキングやランニングをすることに時折退屈さを覚えるだろう。目の前の区画を一周するというのは、健康効果云々の問題でなく、手元のTikTokやツイッター、インスタグラムから得られるドーパミンの大放出に太刀打ちできるものではない。STEPNはそこで、ゲーム化要素の内蔵により、複合システムに楽しさを加えたのだ。
その上、Web3.0の世界に触れながら、自身が所有するNFTを活用できるという点も魅力だ。ユーザーに自分だけのNFTスニーカーのカラフルなポートフォリオを見せることで、感情や興奮の要素がある複合システムを実現した。
反応:「簡単にする。」ウォーキングやランニングのいいところは、健康な人ならいつでも簡単に実行できる点だ。人口の大部分が、外に出て目の前の区画を数周することができるのだから、話は実にシンプルだ。STEPNを入手し、ひとたびエコシステムに身をおけば準備完了。サイクリングジムまで車を走らせて、利用手続きをし、着替えて、マシンに乗る必要もない。
STEPNは将来的に、より簡単にエコシステムに参加できるよう、スニーカーのレンタルプラットフォームを活用する計画だ。
報酬:「満足を得られるものにする。」これは一番わかりやすい部分だ。STEPNは、ウォーキング後やランニング後に仮想通貨のインセンティブを提供し、ユーザーのトレーニング実施を報いる。多くの人にとって、これが「健康的な習慣にワクワクを感じる」環境へと踏み出すための決定打となるだろう。
まとめ
Move-to-earnの分野はまだ極初期段階にある。しかし、STEPNユーザーの行動からは、こういったシステムが多大な可能性と影響力を持つことがすでに示されている。何千という人々が健康習慣を改善し、継続的なトレーニングサイクルを日々の生活に取り入れている。STEPNは心理学を活用し、エクササイズを「ハマる」行動にすることで、世界中の何百万という人々の健康を改善するミッションを進める。