Web3は、「分散性」「開放性」「共有性」「平等性」「コンセンサスベース」を掲げる未来型ネットワークの具体的ビジョンとして、ブロックチェーン界でも特に人気が高い。DIDやゼロ知識証明、その他の技術がアプリケーションレイヤーにまで拡大し、クロスチェーン、プロトコル、スマートコントラクト等の技術が成熟するにつれて、Web3はインターネット界の新しいパラダイムとなりつつある。ユーザーのアイデンティティ・バリュー・権利を取り巻く経済モデルとエコシステムには、もはやWeb3は必須の技術といってよい。ところが、Web3市場の発展にともない、スタートアップが抱えるユーザーエクスペリエンスと市場認知の問題が浮上してきた。これらは、Web3分野の持続的な成長の阻害要因とみられる。今後、Web3が大衆的に受容されるには、ユーザーのニーズやペインポイント(悩みの種)をいかに吸い上げて、ユーザーシナジーやユーザーフレンドリーを発揮したアプリケーションレイヤーを開発するかが、避けては通れない課題となっている。
6月16日、Blocklikeは「Web3:ユーザーニーズを吸い上げるには?より良いUX構築への道標」をテーマにしたパネル討論会を開催した。ユーザーニーズ、ユーザビリティの長期的要素、シナリオと機能構築、Web3におけるユーザー成長をサポートする、エコロジカルなスケーラビリティに焦点が当てられた。Flow、Kava、MultiverseDAO、FootEarn、MetaFinanceのWeb3指向プロジェクトのリーダーたちがライブ中継に招待され、熱い討論が行われた。パネル討論会はBinance LiveとMars Finance Liveの両方で中継され、3.6万人もの視聴者を集めた。以下は討論会の議事録からの抜粋である。
ユーザーエクスペリエンス:Web3の大衆的受容のカギ
プラットフォーマーがデータの所有権を独占するWeb2と比較して、Web3はユーザー志向である。そこではユーザーの自己決定権と利益追求権が強化される。現在、Web3の技術基盤とインフラは継続的に改善されており、エコシステムの全面的かつ多元的な成長の可能性が高まっている。だが、ブロックチェーン業界は、ユーザーエクスペリエンスのフィードバックが十分ではなく、旧市場を打破するプロジェクトの誕生は期待できないという緊急の問題に直面している。ユーザーエクスペリエンスこそは、Web3の普及と主流化のためのプロセスのカギなのだ。
ユーザーエクスペリエンスは、 Web2と同様、Web3の開発においても重要な役割を果たしている。ユーザー数維持のための決定的な要因であるのはもちろん、ユーザーエンゲージメントとトラフィックのコンバージョン化のための長期的な手段ともなる。dApp、DAOコミュニティ、インフラストラクチャサービスのいずれであっても、優れたユーザーエクスペリエンスは肯定的なフィードバックをもたらし、プロジェクトの計画進行をスムーズにする。Web3の世界に初めて足を踏み入れた一般ユーザーにとって、使いやすいインターフェースと簡単な操作は、以後も使用してみたいと思わせるための決め手となる。
Flow Chinaのパートナーシップリーダー セブルス(Severus)氏:「Web2からWeb3への移行において、ユーザーエクスペリエンスは、ユーザーオンボーディングに必要なシームレスな体験を提供する。ユーザーの挑戦心をかき立てるシンプルかつ便利な操作系の開発には、ユーザーエクスペリエンスが不可欠である。分散化技術を採用しつつある従来のブランドだけでなく、消費者規模のパブリックブロックチェーンを構築するには、ユーザーエクスペリエンスが決定的な役割を果たす」
KavaのリードUXデザイナー ビル・ディングウォール(Bill Dingwall)氏:「Web2とWeb3の間には、大きな溝があると考えている。たとえば、業界全体で、特にDeFi分野の新規参入者が学習したり理解したりするためのさまざまなコンセプトが考案されている。ユーザー理解の糸口を広げるためには、方法論は抽象的にならざるをえない。単にステーキングプロトコルやクロスチェーン機能の役立ちを説明するだけでは足りず、その必要性と背景をあわせて説明する必要がある。Web2とWeb3の溝を埋めるために活用できる方法はまだまだ他にもある」
ボトムレイヤーのイノベーション、アプリケーションレイヤーの繁栄
Web3技術はいまだ開発初期の段階にあるが、そのアプリケーションはすでに分散化のさまざまな分野で採用されている。Web3アプリケーションの操作系やインターフェースは、一見Web2のものと似ているが、ボトムレイヤーには本質的な違いがある。プロトコル、オラクルマシン、パブリックチェーン、サイドチェーンなどの機能を実現するため、トランザクション、プライバシー保護、データストレージの技術スタックは急速に洗練さを増している。そして、DID(Decentralized Identifier)やゼロ知識証明(zero-knowledge proof)など、大規模なアプリケーションには組み込まれていない新技術も残されている。
これらのさまざまなインフラストラクチャには、ブロックチェーンの性質と構造を反映することができる。TPS、動作速度、取引手数料、コストの観点から、アプリケーションレイヤーのプロジェクトの将来のエコシステム開発スペースにも影響してくる要素だ。分散型コンセンサスに基づいて、開発者はパブリックチェーンの相互運用性とスケーラビリティを利用することで、より安全で普遍的かつ効率的なネットワークを構築し、最終的に繁栄するエコシステムを構築することができる。
MetaFinanceのマーケティングリーダー ロドリゴ(Rodrigo)氏:「P2Pやその他のさまざまな技術を活用することで、Web3はWeb2に比べて劇的な進化を遂げた。特定のアプリケーションやプラットフォームが所有権を主張することはなくなった。たとえば、ドメインシステムの構造のもとで、第三者の許可なしに情報を交換したり、URLを入力せずにバリューネットワークに入ることができる。イーサリアム(Ethereum)やBSCのようなクロスチェーンとレイヤー2/レイヤー3の革新により、あらゆるチェーン間で相互運用性が実現された。ユーザーはトランザクションを実行するチェーンをわざわざ選択する必要はなくなった」
セブルス氏は、ボトムレイヤーの構築から始まって、ブロックチェーン構築、dApp開発など、強力なオンチェーンエコシステムを構築するには、まだ多くの時間がかかると指摘する。なかでも、CPU設計、情報処理のパフォーマンス、取引手数料のコストは重要な判断基準となるという。検証ノードの応答速度やスケーラビリティの面でも、開発パイプラインの取り組み次第で、生産性は飛躍的に向上する。これらの各部の強化は、ユーザーのアカウントを使用する際の安全性、効率性、取引コストの面で、ユーザーに大きな利益をもたらすだろう。
Web3におけるユーザーシナジーと機能シナリオの構築
ここ数年、Web3ブームを背景に、GameFi、SocialFi、NFT、DeFiなどの分野の需要が急増している。現在、オンチェーンアプリケーションは、インフラやツールなどのユースケースに限定されない。金融取引やサービス、通信、ゲーム、コンテンツ制作、エンターテインメント消費など、一般ユーザーが参加できる多くのビジネス分野が含まれている。ブロックチェーンの発展により、これらのビジネス分野が統合され、拡張されることで、完全に循環型の経済モデルが形成され、オンチェーンでの価値移転とユーザーの利益追求権が強化・促進される。
Web3プロダクトを構築する際には、分散化の本質的な利点を認識するのはもちろん、ユーザーシナジーも考慮する必要がある。長期的にみて、Web2プラットフォームモデルはWeb 3dAppの分散モードと共存し、ユーザーID、価値体系、操作メカニズムには共通点が生じる可能性が高い。一方で、プロダクトの代表選手としてのdAppは、プロダクトビジネス全体におけるほとんどのシーンと機能を網羅し、インターフェース操作、画質、実行速度などの完成度を高めてくれる。そのため、Web3アプリケーションの初期段階でこのトピックを掘り下げておくことは有益だろう。
MultiverseDAOのCMO サラ(Sarah)氏:「Web3に初めて飛び込むユーザーにとって理想的な環境は、エントリーポイントを含むWeb3エコシステムが従来のインターネットとあまりにも似ているため、“Web3に入門したことすら気づかない状態”だといえる。言い換えれば、UIのシンプルさによって、ユーザーは分散型アプリケーションにいつのまにかアクセスし、Web3の世界全体に参加している。実際、オンチェーンプロジェクトのユーザーは学習曲線の効果が大きいため、モバイルプラットフォームやその他のエンドデバイスの登場が切望されており、ほとんどのプロジェクトはその実現を目指している」
FootEarnのCMO エマ・ファム(Emma Pham)氏:「Web3には多数の利点があるが、とりわけデジタル資産の自己管理と金融の自由化のメリットが大きい。しかしながら、ブロックチェーンを使用していないほとんどのユーザーにとっては、ウォレットアカウントの作成をはじめ、Web3の世界で最も簡単な操作でさえ行うのは難しい。DAO標準と分散型システムを適用するプロジェクトであれば、Web2ユーザーは実用的なアプリケーションの助けで簡単にWeb3に乗りかえることができるだろう」
Web3:セキュリティで保護されたエクスペリエンスが生むユーザーからの信頼
昨今、クロスチェーン/スマートコントラクトの広範な応用と、dApps/Web3プラットフォームの人気上昇により、オンチェーンのセキュリティ侵害事件が頻発している。業界の一般ユーザーと投資家の不信は深まるばかりだ。本プロジェクトでは、ユーザーエクスペリエンスを設計するうえで、チェーンの内外を問わず、コミュニティとデジタル資産の安全性を最重要視している。複数の手段を組み合わせて戦略的に行使することで、効率的かつ高品質な操作を実現し、ユーザーの信頼を勝ち取る必要があるだろう。
サラ氏:「セキュリティと分散化のバランスを取るのは難しい。プロジェクトの開発段階によってバランスは異なるからだ。たとえば、DAO開発の初期段階では、セキュリティは誰にとっても最優先事項であり、完全に分散化することは不可能であることがわかった。初期の目的をいち早く達成し、計画した軌道に沿ってプロジェクトを推進するには、コミュニティを組織化する必要がある。いったんコミュニティが成功したプロジェクトとして確立されれば、メンバーはコミュニティの利益のために、こんどは完全な分散化への移行に着手し、最終的にはWeb3で万人のためのセキュリティを獲得するだろう。私はそう信じている」
ホスト:
アーサー(Arthur):Candaqの投資マネージャー
スピーカー:
セブルス(Severus):Flow Chinaのパートナーシップリーダー
ビル・ディングウォール(Bill Dingwall):KavaのリードUXデザイナー
サラ(Sarah):MultiverseDAOのCMO
エマ・ファム(Emma Pham):FootEarnのCMO
ロドリゴ(Rodrigo):MetaFinanceのマーケティングリーダー