安倍晋三首相が1人当たり一律10万円の現金給付を実施する方針を固めた。まだいつ給付されるかは決まっていないが、日本でも10万円給付後に来る第2弾、第3弾の支援策に向けて頭の体操をしておくのも悪くないだろう。

というのも米国では、新型コロナウイルス感染者の発覚が日本より遅かったにも関わらず、すでにほとんどの国民に1200ドルを給付。ニューヨークに住む筆者の友人も銀行に1200ドルが振り込まれことを確認した。

トランプ大統領のコロナ対応に関しては賛否両論は分かれているものの、日本よりはスピードがあるのは確かだ。そして米国では追加支援策の1つとして、「人々のための緊急資金法(the Emergency Money to the People Act)」なるものが提案されており、物議を醸している。「人々のための緊急資金法」は、以下のような内容となっている。

「年収13万ドル(約1390万円)以下で16歳以上のすべてのアメリカ人は、経済が完全に回復して失業率が新型コロナ以前の水準に戻るまで毎月2000ドル(約21万円)を受け取れる」

一見、素晴らしい提案の要因思える救済策だが、慎重な意見も出ている。新型コロナウイルスを契機に世の中が社会主義を無意識で受け入れてしまう可能性があるからだ。

米国にとって「究極の決断」

仮想通貨業界のご意見番でモルガン・クリーク・デジタル創業者アンソニー・ポンプリアーノ氏は、「人々のための緊急資金法」を懸念する一人だ。4月17日付のニュースレターの中で同氏は、ベーシック・インカム導入にも見える今回の提案について「政府の人々の生活に対する介入のあり方が変わるかもしれない」と警鐘を鳴らした。

「このプログラムが開始されたら、私の意見では後戻りはできないことを意味する。もしこの提案が受けいれられて実行されたら(実現までにはまだ遠いが)、米国はユニバーサル・ベーシック・インカムを始めることになる。その時我々は、資本主義社会から社会主義社会への移行を完成することになる」

新型コロナの影響で人々が普段通りに仕事や生活ができない中、政府が支援策に乗り出すのは当然と考えられる。新型コロナの被害から守ってくれるのは、今のところ政府であってマーケットではない。しかし、ポンプリアーノ氏が指摘したいのは、政府の支援策拡大を受け入れることで国民がどんな代償を支払わなければならないのか考える必要があるという点だろう。

「米国はついに究極の決断に迫られたようだ。今日の米国を築き上げた資本主義的・民主主義的な精神を継続して世界を支配し続けるか?それとも国民の短期の問題を解決するためにそれらの理想を破棄して社会主義的なセーフティーネットを敷くのか?」

ちなみに同氏は以下の2つの理由から一度「人々のための緊急資金法」を施行してしまうと元に戻れなくなるとみている。

(1)新型コロナウイルス以前の失業率は歴史的に低い3.5%だったため、元に戻すには10年ほどかかる。
(2)政治家にとって長期間国民に給付し続けたお金を取り上げるのは自殺行為。

今回の提案として並行して注目なのは、トランプ大統領と民主党系の州知事の足並みが揃うかだろう。

生粋のキャピタリストでかつて不動産王とも言われたトランプ大統領は、経済活動停止による犠牲を懸念し、経済活動再開に向けた話を始めている。一方、ニューヨーク州やカリフォルニア州の民主党系の知事は、経済活動の再開は時期尚早とみており、政府による外出禁止令や支援体制を継続する構えだ。

現在は、どちらが正しいとは一概には言えない状況だ。しかし、たとえ有事の際の一時的な手段であっても、政府による国民生活の大規模コントロールを何の線引きもなく許容してしまえば、その後に待っている社会は理想としていた社会ではなくなっている可能性がある。大切なことは、自分たちが今どのような選択をしているか自覚することであろう。

奇しくも、2020年米大統領戦の民主党候補者争いで撤退を表明したバーニー・サンダース氏が掲げる社会が実現しつつあるようだ。

米国の1200ドルと同じように日本の10万円一律給付は家賃などを考えれば2ヶ月と持たない支援策だ。それまでに新型コロナが収束する気配がない現状では、日本も上記のような選択を直面することになるかもしれない。