「ビットコインは新⼤陸を発⾒しちゃった、みたいな⾯⽩さがあるという表現をされることがあって。今だと⽕星を⽬指している⼈達もいますけど、それに近い」

 2014 年からビットコインに注⼒し始めたというビットコイナーの東晃慈⽒は⾔う。

「⼀番重要なのが、この技術を使って新しい市場が⽣まれるかどうか。インターネットの時みたいに、アマゾンとか、今まで出来なかったタイプのものが出てきたり。既存の⽂脈、価値の移転にはあまり興味がなくて」

「インターネットに関わった⼈達も今みたいな世界が来るとは思っていなかった。ビットコインも同じで、ポテンシャルを感じているし、⾊んな全く新しいものがこの上に出て来ると思っている。[…] ⼈によってはインターネットよりビットコインの⽅が、⾰新性が⾼いという⼈もいるくらい。それはやればやるほど、理解できるところがあって」

 2015 年にIndie Square社を共同創業し、ブロックチェーン上のトークンを利用したアプリケーションの考案や開発のパイオニアである同氏は、ビットコインにのめり込んでから4年経った今も、⾼い熱量を保っている。ビットコインに出会った時の感動や社会システムに対する違和感がそうさせているという。

 東⽒はビットコインに興味を持った理由を「技術で今まで意識していなかったことが課題として変わるのに衝撃を受けたから」と説明する。

「普段⽣きている中で、価値の移転やお⾦を疑って⽣きている⼈はそんなに多くはない。政治的な問題なので、政治家になりましょう、正しい⼈に投票しましょうとか、そういう積み重ねで変えられない部分もあって。そこを技術で、良い意味で⼀気に破壊していく。既存のモデル、今まで常識だったものを変えていくってとこに衝撃を受けて。新しいもので、既存の業界だったりとか、常識を形かえるというのを⻑い視点では推進して⾏きたくて。そこにビジネスの⽬があったりポテンシャルもある。単純に本当はお⾦じゃなくて」

 仮想通貨に対し投機⾯で注⽬が集まる昨今は、「メディアもユーザーも、どうでも良いことに集中しちゃっている」状態だ。仮想通貨の⾰新的技術が、正しい⽅向に進化していないという懸念を共有する⼈は多いだろう。技術者不⾜で⽇本発のプロジェクトがあまり出てこなかったり、そもそも規制が問題で開発ができなかったりと課題は多い。

 東⽒は、問題に対処するための⼀歩として、⾃⾝をCEO とするHashHub(ハッシュハブ )株式会社を今年5⽉に⽴ち上げた。東⽒、平野淳也⽒(14 年にビットコインを知ったのをきっかけに、経営していた貿易事業を16 年に譲渡。各種メディアを通じ、仮想通貨に関する情報を発信。エンジェル投資も⾏う)、ビール依⼦⽒(取引所の⽴ち上げに関わり、仮想通貨メディアで編集⻑を務めた経験がある)の3⼈をコアメンバーとして、まずは、ブロックチェーン特化型コワーキングスペースを8⽉に東京・⽂京区に開所する。

 「コワーキングスペースの運営」「⾃社スタジオでのプロダクト開発」「オープンソース開発⽀援」の3つの事業を実施するほか、海外のトレンドや先端技術を⼊居者が共有できるよう、海外プロジェクトとの接点を作っていく。以前から仮想通貨業界で積極的に活動している3⼈が、ハッシュハブ設⽴で達成したいものは何か。

取引所以外のブロックチェーン事業を育てる

 2008 年、サトシ・ナカモトが論⽂でビットコインの構想を発表し、翌年には運⽤が開始された。東⽒によると、12年には海外企業が事業としてビットコインに取り組み出したが、⽇本企業が参⼊したのは14年頃からだった。当時、⽇本でビットコインの事業といえば取引所であり、それ以外のプロジェクトは乏しく、取引所を中⼼としたエコシステムは2年後の16年も⼤して変わらなかった。

「⾮取引の事業をサポートできるシステムがないと、ずっとこのままだろうなという意識があった(東⽒)」

 海外の事情を探る有料の動画チャンネル「コインストリート」を東⽒と平野⽒で昨年10⽉頃に開始し、海外の仮想通貨事情を以前より意識的に調査し始めると、⽇本の業界には問題があるという感覚が改めて強くなっていった。海外では最先端のことに取り組む⼈達が集まり、⼀緒に開発したり議論したりする物理的な場があるが、⽇本にはない。

 「⽇本にも優秀な⼈、⾯⽩い⼈はいるんですけど、あぶれちゃっているのが⾒える(東⽒)」

 仮想通貨で新しい市場を作っていこうとする個⼈やチームが関わり合い、知識やリソースを共有できる場を⽤意するのは「業界に必要なこと(東⽒)」であり、ハッシュハブは、スタートアップスタジオと呼ばれるモデルを採⽤し、⼊居者のプロジェクト⽴ち上げのフェーズを⽀援して⾏く。

 「⼊居者の1⼈が、こういうものを作りたいというアイデアを持っていて、でもチームがいない(という場合)、ブートストラップの時期を⼿伝って、ある程度需要がある、いけそうだなとなったら、会社として切り離して。普通の起業とは違う、効率良く、新規性のあるプロジェクトを⽴ち上げて、回していこう⽣産していこうとしている(東⽒)」

 「ユーザーをゼロから1万⼈にする最初のフェーズを効率良く回せれば、もっと⾯⽩いものがぽんぽん伸びて⾏く。そこまでいかないプロジェクトが多い。特に新規性が⾼ければ⾼いものであるほど、みんな理解できない。だから儲からない。あと1年待てば良い(受け⼊れられる)のに(プロジェクトが)死ぬ。 そのフェーズを⾃分たちがリソースを持っていけば、サポートができるところはある(東⽒)」

 ⼊居者は「業界の健全な発展、似たような⽅向に向かっている⼈達(ビール⽒)」を選んでいる。「外れているとシナジーがない(ビール⽒)」からだ。

「基本的に世界中のビットコインの開発者は、ビットコインが作って⾏く未来を実現したくてやっている⼈ばかりなわけですよね、彼らの後押しをしたい(ビール⽒)」

 また、ブロックチェーンに特化した翻訳者や税理⼠といった、開発者以外の⼊居も決まっている。東⽒は、業界の発展には、技術者だけでなく、周りの⼈間による底上げが必要と強調する。

「技術で何かを変えていくっていう発想、それを利⽤して新しいものを作るっていう発想は、技術者以外も持つべきだと思っていて。ハッシュハブは技術者を育成したいというのも当然あるんですけど、そこだけではないんですよね。技術を育成したとしても、それだけでは⾜りなくて。それをサポートするビジネスマンだったりデザイナーもそうかもしれないですし、そういう⼈もある程度リテラシーやビジョンを共有していないと、中々上⼿く⾏かない。⽇本を⾒ていて思うのは、開発者が少ないっていうのがもしかしたら主要な問題点ではないかもしれない。どちらかというと、周りにいる⼈たちの理解度だったり意思決定が良くないんじゃないかっていう意識はありますよね、それはメディアも当然含むわけで」

「ハッシュハブではオープンソース開発者を⽀援しつつも、それをいかに他のところから、収益や持続的なモデルに変換できるかっていうことをやろうとしている(東⽒)」

⾃社開発と⽇本の規制

 取引所以外の事業を⽇本からも出したい。今年に⼊り、構想を⾏動に移した。これまでのところ、ハッシュハブはコワーキングスペースとして注⽬されているが、次第にプロダクト開発に⽐重を置いていくという。現在は、ライトニングネットワーク(LN)の開発者向けのツールや、LN の利⽤を促進するようなユースケース作りに取り組んでいる。⾃社でのプロダクト開発を重視するのは「率先して⾃分達で結果を出して、プロダクトを出して、初めて、⾊んな⼈が集まる場所になると思う(東⽒)」ためで、プロダクトを「⼊居者達と⼀緒に作っていく流れに追っていけたら理想(東⽒)」という。

 ハッシュハブが⽬指すように、システマチックにプロジェクトを⽀援する体制が構築され、⽇本からも仮想通貨のプロジェクトが多く⽣まれていくことには期待したいが、⽇本の現在の規制の枠組みでは、そもそも開発ができない場合もあれば、サービスインのコストや⾼税率を嫌って海外に拠点を移す⼈もいる。この状況の中で、⽇本でやる必要はあるのか。

 東⽒は、海外展開の計画に触れながら、⽇本で事業をするメリットについて述べた。

 「⽇本で⾊々やってきて現状を⾒ているので、良くしたいという使命感みたいなものもあるし、⽇本は市場が⼤きいので、うまくやれば世界的にも魅⼒的な市場になりうる。そこである程度の存在感を出してプロダクトを作ってユーザーを作れれば、それを原資に海外に攻めていけるかもしれないし、そういう点で⽇本でできるというのは、戦略的にもビジネスとしても意味のあること(東⽒)」

 平野⽒は、プロダクト開発における規制の問題点に⾔及し、「最初から海外でハッシュハブをやることも議論した」と振り返る。

「昨年の12⽉(コインチェックのNEM流出事件が起き、規制が強化される前)は、⽇本いけるかなっていう感覚もあった。投機マネーがバックにあるからという事情もあるんですけど、世界中のプロジェクトが⽇本に興味を⽰していた。TOKYOと⾔うと、各国のプロジェクト、みんなに会えた。昨年12⽉の状況は、正直ICOトークンを売りたい⼈とか来ていたけど、それでも、そういった⼈たちとの交流だったりとか、開発者の⼟壌とか、コミュニティとかも少しずつ出来て、雰囲気が割と良くなっているなと。もうちょっと(⽇本の)プレゼンスを⾼められると思っていた(平野⽒)」

 現規制下でのプロダクト開発は、「簡単なアトミックスワップであったりとか、イーサリアム系のものを作って、バックエンドでトークンの交換機能が⼊っているもの、それは交換業登録が必要となるってことに適⽤される可能性が⾮常に⾼いので、それを避けながらやるしかない(平野⽒)」状況にある。

「取引所の交換事業者は⾦融業なので、厳しいコンプライアンスと顧客管理が必要。そこが免許制になるのは適切だと思うんですね。⼀⽅、暗号通貨は単なる⾦融業ではないじゃないですか。それを使って何かしらのサービスやDApps、⾊々新しい概念的な使い⽅がされていくものですと。それと取引所の⾦融業的な規制が⼀緒くたになっていることがまず⼤きな問題ですよね。アプリを作る⼈たちが⾦融業と同じ免許が要求されると、スタートアップは事業できないし、現実できなくなってきた(平野⽒)」

 プロダクト開発に⼒を⼊れて⾏くハッシュハブとして、この問題に取り組む可能性はあるのか。平野⽒は「可能性は、将来的にはあり得ると思います。ただ、すぐにアプローチするのは早いと思っています」と述べる。

「ハッシュハブは、アプリケーションを開発している⼈が、⾦融業と同じライセンスを求められるのは、しんどいよねってことを話していて。開発者達は作りたいものはあるけど、作れないからまだアプリケーションを作っていないので、レギュレーター側は⾒られないわけですよね。この規制をどう変えたら、どのようなアプリケーションを作るんで、どうマネタイズができるのかっていうのを。これは鶏と卵のような問題だと思っていて。そういった観点から⾒ると、⽇本国内のプレーヤーが、⽇本国外で暗号通貨のアプリケーションを作って、しっかり成功する必要があるなと。国内ではこういうアプリが作れないけど、国外では⼤成功しているといった事例があると、規制は変わるのかなという気はしている。そういったプロジェクトをハッシュハブでは作りたいなと思っていますね(平野⽒)」

 平野⽒はまた、早い段階で規制を作るのは良くないと指摘する。例として、アマゾンやグーグル、フェイスブックを⽣み、インターネットの⽂脈で成功した⽶国をあげる。⽶国はインターネットの規制を早い段階で決めず、曖昧なまま運⽤して来た。

「アメリカは暗号通貨に関しても似たようなことをしていて。コインベースはまだSEC(証券取引委員会)に監督されていない取引所で、それでもまだしっかり運営している。それをやりながら、ステップバイステップで、ビットコインはコモディティと決めて、そこから半年後、イーサリアムもコモディティと決めて。⽇本は線引きするのが早すぎたなと思いますね」

 「(業界の発展に重要なのは)プロダクトをしっかりデリバリすること。起業家と開発者がしっかりプロダクトを出して、暗号通貨・ブロックチェーンを通して、今まで出来なかった体験が出来ると提⽰して⾏かないといけない(平野⽒)」。

ブロックチェーンの⽂脈を超えて

「1年後、ハッシュハブは海外も含めてプレゼンスを上げていたいと思っていて。海外で⾯⽩いことをやっていて、⽇本の市場に興味のある⼈たちが、まずはあそこに⾏けば良いよねっていうタイプの⼊り⼝、顔的な存在にはなりたい。逆に⽇本だけじゃなくて、海外でもある程度知名度を⾼めて、ライトニングやセカンドレイヤーで⾯⽩いことをやっている⼈たちが、東京のハッシュハブにいるよねっていうくらいのポジショニングは取りたいですよね。特定のドメイン、セカンドレイヤー、ライトニングとか、もしくは⽇本市場とかいうドメインで、世界的に⾒ても、⼤きな存在感を持っている、企業というか、空間になりたい(東⽒)」

 仮想通貨・ブロックチェーン業界の1年後は、現在と全く違ったものになっているだろうと東⽒は予想する。5年後には、投資ではなく仮想通貨の⽇常使いが進み、例えばLNを使ったオープンな双⽅向のマイクロペイメントが⼀般的になれば、従来とは全く異なったwebサービスやアプリ、メディアの集⾦⽅法、ユーザーや企業間の新しい関係や価値のやり取り、起業の形が現れてくるのを予⾒しているという。「ビットコインみたいに、お⾦の⽂脈が変わるほかに、別の分野でも影響を与えていく(東⽒)」。

「今から2014 年15 年を振り返ると楽しかった。ビットコインのフォーク問題もあるし、みんな投機のことしか考えていない去年はつまらなかった時期があって(東⽒)」

「10 年後、ブロックチェーンというドメインでやっているものが他の業界にもそのまま活きてくると思っていて。また10年後にビットコインのような破壊的なものが出てくる。そこにぱっと⾶びついて、ゼロのところから、今の仮想通貨があるレベルまで持って⾏くのを⽀援できる、新しいものに積極的に関わっていける技術⼒・プレゼンス・リソースがある状態にしていたいですね。最先端のものを⾒つけて⾶びついていける。そこにリソースを⼊れていけるってタイプの機能を持っていたいと思う。そこが⼀番⾯⽩いんで。[…] 全く新しい領域に⾯⽩いねって⾔っていける、そういう⼈たちを育てるとか、そういう環境を作るのが重要だと思う(東⽒)」

 (東⽒とビール⽒は同⽇、平野⽒は別⽇に取材)


HasuHubのコワーキングスペースは、8月初旬にオープン予定。