ポーランド中銀が仕掛けた仮想通貨ネガキャンの裏側に迫る

 これまで、仮想通貨に敵対的な国々の中でも、ポーランドは決して目立つ国ではなかった。事実、この東欧の国がビットコインとブロックチェーン技術の受け入れに傾いていることを示唆する十分な徴候はあった。

 しかし、最近明るみになったNBP(国立ポーランド銀行、すなわちポーランド中央銀行)による中傷キャンペーンは、そのイメージを変えてしまった。NBPが、ポーランド市民による仮想通貨購入を思いとどまらせることを目的として、多くのユーチューバーに対して約2万1千ドル(224万円)を支払ったことを認めたのだ。

 参照記事:「ポーランド中銀 反・仮想通貨動画のスポンサーになっていた」2018年2月19日

 NBPはこれを「啓蒙キャンペーン」と呼び仮想通貨の危険性を理解してもらおうと試みているが、むしろ中傷キャンペーンという印象を与え、ポーランド政府の仮想通貨に対する見解への疑念を引き起こしている。

仮想通貨「中立国」と思えたが・・・

 ポーランドは今回のネガティブキャンペーン以前、多くのEU諸国と同様、仮想通貨に対して何ら本物の不満を示してこなかった。遡ること2013年には、ポーランド財務省の役人が「禁止されていないものは許されている。しかし私たちはビットコインを法定通貨と見なすことはできない」と言ったという報道があった。

 15年、ポーランド財務省は仮想通貨の影響について声明を発表している。「仮想通貨取引に関する諸問題に対処するための何らかの規制行動(が必要だ)。それは、仮想通貨ビジネスの越境的性質を考慮したEUレベルでのイニシアチブか、あるいは仮想通貨市場が問題を引き起こす恐れを鑑みてなされるべきだ」。

 15年2月頃のインタビューで、ポーランドの主要な仮想通貨取引所であるBitcurexのCCOフィリップ・ゴデッキ氏は、政府の立場は中立的なものだと説明した。「我々の観点からすると、ネガティブな動向について語ることは難しい。ポーランドのビットコインに対する考え方は中立的なもので、ほとんどのEU諸国の動向に収斂している。諸機関は仮想通貨プロジェクトを一定の距離から眺めており、次に起きることを待っている。状況は銀行も似たようなものだ」。

 17年2月、ビットコインやその他の仮想通貨の取引がポーランドで公式的に認められた。政府のサイト上で、16年12月1日から「電子通貨の発行、およびインターネットを経由しての電子通貨の購入と売却は、ポーランドの公式統計事業によって分類されている」と声明されたのだ。ビットコインや仮想通貨に対するポーランドの決定的なスタンスは何ら示されていないと言える一方で、どうやらポーランド政府は、ビットコインが存在し機能し続けることは許したようだった。

仮想通貨に友好的な動きもあった

 ポーランド政府がビットコインに対してフレンドリーな方向へ傾いていたことを示す大きな徴候のひとつが17年3月に起きている。ポーランド政府が、国内仮想通貨市場のデジタル化の推進と新規事業の市場での地位確立に役立つよう、ベストプラクティスを示す文書を発表したのである。

 これらのガイドラインに加え、デジタル化省による『ブロックチェーン/DLTストリームおよびデジタル通貨』プログラムのような、仮想通貨技術を推進することを目的としたその他いくつかのプログラムが続いた。

 よりいっそう強く物語っているのは、多くの人々によく知られている仮想通貨企業らが、この数年間のうちにポーランドに店を立ち上げたという事実であり、これは、金融システムがとても快適で、他の多くのヨーロッパ諸国のそれよりも遥かに自由だったからである。イギリスの証券取引所や悪名高いマウントゴックスですら、ポーランドに財政的支援を配置していた。

意外だった「ネガティブキャンペーン」

 ポーランドはビットコインやブロックチェーン、仮想通貨市場全体への認識に関する最終的な結論を出していないが、そこにポテンシャルと可能性を見出しているという徴候はある。したがって、ポーランドの中央銀行が、部分的には隠されたものの、恥ずかしげもなく行われた今回の中傷キャンペーンを実行したことは、とても驚くべきことだった。

 ポーランドのジャーナリストでユーチューブブロガーのカロル・パシオレク氏はコインテレグラフに対し、今回の動きを解説した。

 「NBPと3つの大きなユーチューブチャンネルとの間には、プロダクト・プレイスメント契約が結ばれた。マルチン・デュビエルには93万7千人、ウィスニアには81万8千人、プラネタ・ファクトウには100万人の登録者がいる。これは政府系機関が支出を行う啓蒙キャンペーンだ。ある人がNBPに対し、このキャンペーンにいくら支出したのかを訊ねたところ、2万1千ドルという答えが返ってきたそうだ」。

 問題は、これらの動画がビットコインを大きく中傷しており、その言葉の印象からすれば、とても啓蒙的とは呼べないということだ。さらに、それが有償の、すなわちスポンサー付きの動画だという事実はまったく示されていなかった。

 また、「メディアファン・ブログ」を運営するマチエク・ブツィチ氏もまた、奇妙なスポンサー付き動画とそれがポーランドにおける仮想通貨への認識に与える影響について書いている。ブツィチ氏は、このキャンペーンについてNBPに質問して得た回答レターを公開しており、それは使われた額を含む情報を詳細に述べている。ポーランドでは、情報公開に対するアクセスの一部として、政府当局に対してお金や政府支出に関する質問を行う権利をすべての市民が持っているのだ。

ポーランド中央銀行の回答は

 ブツィチは中銀からの書状における内容の信頼性については確信していないが、当局から何らかの反応があるまでは真実として捉えると述べている。

 今回、ユーチューブネットワークパートナー企業であるガメロン社が政府資金の受取人だったことが明らかになった。ガメロンはNBPと協力したことは認めたがさらに詳細なことを話すことは拒み、そしてその契約の規定を明らかにするつもりはないとした。

NBP

 中央銀行がこれらのユーチューブチャンネル上で仮想通貨を中傷する方向に動いていたことにより、ポーランドでデジタル通貨を規制するとなった際のポーランドの取るスタンスへの疑念を引き起こしている。

 さらに、デジタル通貨に対するNBPの思想を表す疑う余地のない証拠が「仮想通貨はお金ではない」と銘打たれたその情報ポータルにある。そのフロントページは、以下のように述べている。

 「これは、2人の利用者の間の契約上の価値のデジタルな実装なのであり、ポーランド国立銀行が発行するポーランド・ズロチのような、世界のどんな中央銀行が発行しているものでも保証しているものでもない。もうひとつのリスクは、そのような仮想通貨の普遍的な受け入れ先が不足していることだ。仮想通貨は、すべての小売店やサービスで受け入れられているわけではない。仮想通貨は、法貨でも通貨でもない」。

仮想通貨積極派の大臣が罷免されていた

 ツイッター上で「クリプト・ポリッシュ・グールー」の名で通っている現地のポーランド人仮想通貨トレーダーは、今回の事件についてコインテレグラフに語った。

 「若い人はこの行動に対して怒っているか、無視している。高齢の人々はユーチューブを見ない! 私の国では、とにかく市民は政府のことを好きではないのだ」。

 同氏によると、ポーランドにおけるブロックチェーンとフィンテックの振興は、停止と起動を繰り返しているような状況でもあるという。

 「この国にはデジタル化省があるが、大臣のアンナ・ストレチンスカは2〜3カ月前に罷免された。彼女はブロックチェーングループを創設して、仮想通貨に良い環境をポーランドに築き上げる試みを進めた。私にとって、彼女は最高の大臣の一人だった。いまや政府はブロックチェーン推進グループを解散するだろうと思っている」。

秘密裡に行われるネガティブキャンペーンに疑問符

 ビットコインの危険性に基づいた偏向していて入り組んだ「啓蒙」キャンペーンを実行するというNBPの決断に疑問が向けられている。仮想通貨は何であって何ではないかについて声明を発表するというのならば、理解できるし賛成もできる。しかし、奇妙に思われるのが、彼らが警告を理解してもらうべく取り組んでいることが、恐怖心を利用しているように感じられたことだ。

 ユーチューバーのサイトや動画からは中銀サイトへのリンクはなかった。キャンペーンに対して資金援助をしていたのか否かについてNBPが問い質されたとき、事実がやっと明らかになった。このことが疑問を投げかけるのは、中央銀行の戦術と、そのような方法で真意を理解してもらおうとするその動機に対してだ。そのことは将来ポーランドが仮想通貨をどのように規制するかについての疑問をも引き起こす。

ポーランド中銀の回答は

 doradca.tvに執筆するトマツ・ヤロツェク氏は、ポーランド中銀に対し今回の事件について質問している。NBPのいくぶん長い返答は、ポーランド国民に対して仮想通貨の危険性について啓蒙しようとする彼らの試みを擁護するものである。NBPは、自分たちは「ポーランドの貨幣の価値、そしてポーランドの金融システムの安定」のため、自分たちの「憲法上かつ法令上の仕事」を実行していたのだと述べて、このキャンペーンを主導する彼らの権威を脈絡に置くことによって口火を切っている。

 仮想通貨が危険である理由の列挙のあと、NBPは続けて昨年6月に発表した警告に注意を向けてから、12月のキャンペーンを説明している。

 「17年12月に行われた情報キャンペーンの目的は、なるべく広い聴衆、すなわちリスキーな投資を経験したことのない人々も含んだ、仮想通貨を使用することに潜在的に関心を持っている人々に対して、仮想通貨投資に関わるリスクに関する基礎知識を伝えることだ。このキャンペーンは、仮想通貨投資に関心を持つ人々に対して、大きな損失を抱える可能性のある行動を控えるようにさせること、あるいは彼らがそのような行動を意識的に行うのならば、それによるリスクを彼ら自身に引き受けさせることを願ったものだ。NBPは、デジタルなものと伝統的なもの、両方のメディアを経由してキャンペーンを行った」。

 さらにNBPはブロックチェーン技術については反対していないとした。

 「私たちは同時に、NBPはブロックチェーン技術とその利用の発展に反対していないということを強調する。しかし、この技術の金融市場への応用は、その他の技術と同じくらい安全かつ証明されたものでなければならない」。

ポーランド中銀  過去の詐欺事件で対応批判されていた

 このようなやり方でネガティブキャンペーンを張ることを決めたポーランド中銀には、過去のトラウマがあるようだ。

 既出のポーランド人仮想通貨トレーダーは次のように指摘している。

 「数年前この国では、アンバーゴールドという会社にまつわる大きな事件が起きた。アンバーゴールドは、預金に対して高率の利益を提供していた(実質的に、ねずみ講だった)。最終的に破綻して、すべての投資家がすべてのお金を失った。そのとき、NBPやその他の組織は全く対応せず、強く批判されたのだ」。