イーサリアムエコシステムは、2024年初頭にネットワークの3つのテストネットに「デンクン(Dencun)アップグレード」が導入されることで、ロールアップのガス料金と取引速度が大幅に低下する見通しとなった。

デンクンアップグレードは1月17日にGoerliテストネットでアクティブ化され、いくつかのイーサリアム改善提案(EIP)を導入した。特に注目されているのは、プロトダンクシャーディングと呼ばれるEIP-4844を有効にすることだ。プロトダンクシャーディングは、レイヤー2(L2)トランザクションの料金を削減すると期待されている重要な改善策だ。

既報のように、Goerliへのデンクンの展開では4時間の遅延が発生した。コインテレグラフの取材に応じた、イーサリアム開発プラットフォームTenderlyの共同創設者であるネボイシャ・ウロセビッチ氏は、この遅延の原因となったバグの詳細を説明した。

「Prysmというイーサリアムのプルーフ・オブ・ステーククライアントのバグにより、ネットワークがノードと同期できなかった」とウロセビッチ氏は述べた。

Tenderlyの共同創設者であり、同社のエンジニアリングチームのシニア・バイスプレジデントでもあるウロセビッチ氏は、クライアントの同期遅延は一般的であり、このバグも迅速に特定して修正できたと強調した。

「これが複数のクライアントが存在し、テストネットが存在する理由の1つだ」

イーサリアム財団のプロトコル責任者であるティム・ベイコ氏も、1月18日の最新のAll Core Developers Execution Callからの要約を共有し、「ヒストリカル・ルート」の問題を概説した。ヒストリカル・ルートとは、イーサリアムのビーコンチェーンがブロックチェーンの状態の計算負荷を管理するために使用するレガシーメカニズムだ。

ベイコ氏の要約によると、このバグは、イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーククライアントであるPrysmがヒストリカル・ルート値を0に設定したことに起因するもので、Goerliテストネットがデンクンアップグレードを完了できなくなった原因となった。

デンクン・ロードマップ

公式のイーサリアムブログによると、デンクンには9つのEIPが組み込まれている。ウロセビッチ氏は、プロトダンクシャーディングとブロブ(blob)トランザクションを、最も期待されているEIPとして挙げた。

「プロトダンクシャーディングは、コールデータではなくブロブを運ぶトランザクションの使用により、イーサリアムのスケーラビリティを改善する大きな一歩だ」

ウロセビッチ氏は、ブロブデータは、トランザクションデータを一時的に圧縮された形式で利用できるようにすることで、ストレージ効率を向上させると説明する。また、コールデータよりもコスト効率が高く、80~90%のコスト削減が期待できると付け加えた。

Goerliでの実装に続いて、SepoliaとHoleskyテストネットは、デンクンアップグレードを実施する次の段階にある。ウロセビッチ氏は、すべてのテストネットが無事に展開された後に、イーサリアムのメインネットをアップグレードする計画が立てられると話した。

デンクンのストレージの改善

イーサリアムサイドチェーンGnosisのインフラストラクチャディレクターであるフィリップ・ショモア氏は、デンクンによってL2により多くのブロックスペースとより低いコストが提供され、以前はオンチェーンで無期限に保存されていたデータは2週間後に破棄されるようになることを強調する。

「これは、最終的な目標と整合性のあるスケーラビリティであり、分散性を犠牲にするものではない」

ウロセビッチ氏もこれらの意見に賛同し、ストレージの改善はデンクンアップグレードの大きな影響の1つであると指摘する。

「L2ネットワークはL1のデータをより効率的に保存できるようになる。ブロブは約2週間ごとに削除されるが、これはL2がデータを管理、検索、検証するのに十分な量だ。このため、無期限に保存される一般的なトランザクション・コールデータよりもブロブの方が安価になる」とウロセビッチ氏は説明する。

その結果、デンクンはガス料金とトランザクション速度の両方を削減し、新たな複雑なアプリケーションの開発を促進する可能性がある。

デンクンは、ブロブスペースの需要に応じて、ロールアップトランザクションのコストを最大10倍削減する可能性がある

この新しいアップグレードの最大の受益者はロールアップになるだろう。運用コストが削減され、経済的実現性とスケーラビリティが向上する。

データ可用性ブロックチェーンAvailの共同創設者であるアヌラグ・アルジュン氏は、2023年にロールアップからのブロックスペース需要が大幅に増加したことを指摘し、今後L2からのデータ可用性のためのブロックスペース需要はさらに増えると予測している。

「プロトダンクシャーディングは一定の緩和効果があるが、ロールアップはデータ可用性のためにより多くのブロックスペースを必要としていることは明らかだ。分散性、スケーラビリティ、安全性を維持しつつ、これを達成する方法を検討する必要がある」とアルジュン氏はコインテレグラフに明らかにした。

イーサリアムネットワークの体系的なアップグレードは、ガス料金の削減とトランザクション速度の向上を目指している。Availのようなプロトコルは、一時的にロールアップのブロックスペース需要に対処するのに役立つという。

アルジュン氏は、AvailのzkEVMであるValidiumの最近のベンチマークでは、トランザクションデータをイーサリアムではなくAvailに投稿することでトランザクション手数料を90%削減できたことを指摘した。

「依然としてイーサリアムで決済され、分散化された安全なデータ可用性保証を提供する。これは、イーサリアムエコシステムに参入しようとしているブロックチェーンにとって魅力的な選択肢になりつつある」

ウロセビッチ氏は、デンクンアップグレードの最終目標はメインネットへの実装であり、これがメインネット上で直接スケーラビリティの問題に取り組む初めての試みになると述べている。

「複数のEIPにより、ストレージ効率の向上、ガス料金の削減、開発者にとって全体的なエクスペリエンスの改善が実現され、ロールアップもさらにコスト効率が高くなる」とウロセビッチ氏は語った。