コインテレグラフは先日、非中央集権型のブロックチェーン企業エニグマのCEOであり、マサチューセッツ工科大学(MIT)出身であるガイ・ジースキンド氏にインタビューを行い、ブロックチェーンのプロトコルの未来やエニグマの将来的なポジションについて尋ねた。

 スイスのツークで先日開催されたテッククランチによるイーサリアムのミートアップで、ジースキンド氏は自身がMITで担当しているブロックチェーンに関するコースでの成功体験や、2010年の時点で仮想通貨に関心を持たなかったことへの後悔などについて語った。

 モリー・ジェーン: まず始めに、エニグマのプロトコルとは何なのか、どのようにブロックチェーンのビジネスを始めたのか?

 ガイ・ジースキンド: 私はガイ・ジースキンド。エニグマの共同創設者でありCEOを務めている。エニグマはプライバシーを保ちながらスマートなコントラクトを行うことができるプラットフォームを開発している。どのインターネットのネットワークも演算しているデータを実際に見られないことから、私たちはこれを「シークレットコントラクト」と呼んでいる。これは現在あるイーサリアムやその他大勢のパブリックなブロックチェーンとは対照をなすものだ。

 私はイスラエルで生まれ育った。5年前にアメリカへと移住し、MITの大学院に通った。そこで私はブロックチェーンとプライバシーの交差について大きな関心を持つようになった。私はいくつか論文を発表しており、そのうちの1枚はエニグマのホワイトペーパーとなっている。私たちがこれまで開発してきたプラットフォームの原型となるものだ。

 MJ: エニグマとMITはどれほど緊密に共同で作業しているのか?

 GZ: 私はエニグマにフルタイムで携わっている。私たちはMITと提携しており、MIT E14ファンド(MITメディアラボの一部)とエンジンファンドから投資を受けている。
私の教授であり、MITのアドバイザーであるサンディ・ペントランド氏はエニグマの共同創設者かつアドバイザーだ。今でも私たちはよくMITを訪ねるし、そのエコシステムと深く関係しているが、現在エニグマは直接的にMITと提携をしているわけではない。

 MJ: 革新的技術であるシークレットコントラクトとエニグマとの間にはどのような関係があるか?

 GZ: 私たちの知る限り、私たちが初めてシークレットコントラクトを実現させた事業者だ。15年に創業したとき、私たちが考えたプライバシーを保持するスマートコントラクトというアイデアは間違いなくまだ存在していなかった。世界で初めてこれを実装したのは私たちが最初だと思う。 

 MJ: ビットコインについて初めて聞いたのはいつごろか?仮想通貨が自身にとって初めてリアルなコンセプトとなったのはいつか?

 GZ: ビットコインに関して私は運がなかったようだ。2010年のことだ。私にはオタクっぽい少人数の閉鎖的な友人グループがいた。友人の1人は「ビットコインというクールなものがある。ダウンロードしてマイニングを始めた方がいい」とよく言っていた。だが私たちは聞く耳を持たなかった。10年の出来事だ。もしビットコインを始めていたらもっと面白いことになっていただろう。

 私が仮想通貨に本格的に興味を持ったのは13年のことだ。12年の時点で既に仮想通貨を取り扱うようになっていた。13年に真剣に取り組み始めて、それ以来私はフルタイムでそうした技術に関する仕事をするようになった。

 MJ: 10年の時点ではビットコインをマイニングしていなかったあなたが、今ではそれに投資をするようになったのか?

 GZ: ビットコインやイーサリアムを多少は所有している。もちろん、エニグマも所有している。だが私は大量の仮想通貨を持っているわけではない。

 MJ: それでは市場での投資ゲームには興味がないということか?

 GZ: 正直に言って、私は大きな投資には興味がない。私に興味があるのはテクノロジーだ。投資よりも開発の方に関心がある。投資家としての私は大したことはない。

 MJ: ウェブサイトのプロフィールにはあなたをビットコインの伝道師として紹介する記述がある。今日開かれるイーサリアムのミートアップでは何をする予定か?

 GZ: 基本的に、私はビットコインの過激主義者ではなく、非中央集権の支持者だ。私がビットコインに関心を持ったのは、大規模、すなわちインターネットの規模でコンセンサスを行うことが初めて可能になるというアイデアに惹かれたからだ。だから私はビットコインに関心を抱いた。私はイーサリアムや、こうしたアイデアに即したブロックチェーン全般を支持している。

 MJ: イーサリアムのブロックチェーンとビットコインのブロックチェーンの違いについて、詳しくない方でもわかるように説明してもらえるか?

 GZ: イーサリアムが始まったとき、ビットコインはどんなタイプの演算も活用もさせてくれないと人々は嘆いていた。それは部分的には正しいだけだ。イーサリアムのおかげで、支払いのみならず様々な活用法が生み出されるようになった。ビットコインとイーサリアムはインターネット規模でのコンセンサスを可能にしていると今でも私は考えている。様々な人や機器が同じ問題に関して同じ結論に到達することのできるシステムを持っていること。ビットコインにとっての問題とは、誰もが同意できるようなやり方で台帳を作ることだ。たとえ人々が不誠実で悪意があるとしても。

 私にとってイーサリアムとビットコインの大きな違いはそのエコシステムだ。イーサリアムは1つの場所だけでなく複数の場所で同時に動作するアプリケーションをデベロッパーたちが開発することを可能にしてみせた。

 MJ: あなたがMITでコースを教えていたと記事で読んだ。コースはどのような内容だったのか?

 GZ: 数年前のことだ。MITのデジタル・カレンシー・イニシアティブ(DCI)が作られた頃で、素晴らしい才能をもった学生が多くいた。一方で教員はそんなに多くなかった。その中の何人かがMITでブロックチェーンを教える必要性について話していた。それから、クラスを開講しようという流れになった。

 私は主に知り合いの優れたデベロッパーとDCIから引き連れたもう1人の人物と共にクラスを教えた。先ほども言ったように、クラスは成功に終わり、ブロックチェーンのプライバシーに関する論文をいくつか発表することになった。

 MJ: 学生はクラスを気に入っていたか?ブロックチェーンへの関心は高かったか?

 GZ: もちろん。学生は全部で40人ほどいた。学期の始まる2週間前に開講が決まったクラスにしては、悪くない数字だ。クラス内でのプロジェクトも素晴らしかった。ブロックチェーンやコンセンサスついて私たちは学生に教えた。イーサリアムはまだ始まったばかりだったから、ビットコインほどイーサリアムに関しては教えなかった。それでも私たちは学生たちにプログラム言語であるサーペントについて少し実際に学んでもらった。別の言語であるソリディティが出る前のことだ。

 学期末には学生たちが自身のプロジェクトを発表した。とても素晴らしいものだった。どのプロジェクトも見事な出来だった。あるプロジェクトは独自の論文へと発展して、DCIの最初のプロジェクトとなった。医療業界におけるブロックチェーンについてだったと思う。

 MJ: ブロックチェーンについてクラスで教えた時、この技術のコンセプトについてどのように紹介したか?

 GZ: ただビットコインについて説明しただけだ。「私たちは新しい種類の金を管理している」という新しい企業があったとしよう。その金は完全にデータベース上に存在しているというわけではない。それでも取引を行うことはできる。世界中の人すべてに1ドルを与えれば取引を始めることができるのだ。

 取引を開始してから、もっとコイン購入をしたくなったら、あなたはお金をその企業に預けるようになる。だがこれは信頼できる企業ではないし、銀行でもないし、国との関わりもない。そこでクラスの学生に聞いてみる。「このようなシステムを信頼して、お金を注ぎ続けることができるか」と。学生たちの答えは決まって「ノー」だ。

 それから私はビットコインがどれほど高度なレベルで機能するのかについて説明する。あなたはその企業自体は信頼していないが、企業が発行するコインを多く所有しているとする。あなた個人はコインを信頼していない。しかし、集団になるとなぜか信頼できるようになるのだ。そして、コインを使って取引をしたり他の人への送金を承認したりできるようになる。こうして基本を理解してもらってから、より技術的な話を始める。

 MJ: MITがこのクラスを将来的にも開講すると思うか?

 GZ: 私たちがこのクラスを教えて以来、しばらく中断となっているのは知っている。最近聞いた話では、このクラスが再開される予定で、より多くの人や研究者が携わるようになっているという。MITにおけるブロックチェーン研究はそうした領域で大きく発展した。素晴らしいことだ。

 MJ: エニグマが最近発表したインテルとのパートナシップについて詳しく教えてもらえるか?

 GZ: 基本的に、拡張性があり、プライバシー保持ができるスマートコントラクトを生み出すことは私たちにしかできない。現時点のブロックチェーンの開発法では、イーサリアムも含めて、計算と認証があり、これらを1つの場所で行う。イーサリアムではブロックチェーン上でアプリケーションがスマートコントラクトとして機能している。基本的に、ネットワーク上のすべてのノードはあらゆる計算を行い、その計算を検証しなければならない。それは非常にコストがかかる。

 私たちはこのプロセスを分割しようとしている。各ノードからはデータが見えないようにして、計算が行われるようにするのだ。これには様々な方法がある。ハードウェアで補助する方法や、仮想ネットワークのみを用いた方法もある。エニグマでは両方の方法を開発している。そうすることでデベロッパーに選択肢を与えるのだ。

 これはハードウェアシステムに関するテクニックで、トラステッド・エグゼキューション・エンバイロンメント(TEE)として知られている。インテルはTEEを用いた最新技術を開発してきた。その1つがインテルSGXと呼ばれるものだ。私たちはインテルSGXを用いてテスト用の最初のシチュエーションを作成した。私たちはインテルとパートナシップを結び、開発をさらに進め、この技術がどこまで行けるのか、エニグマやブロックチェーン全般にとってどれほど役に立つのかについて見極めようとしている。そして、システムの研究と改善を引き続き行い、さらにトラストレス性とパーミッションレス性を高めようと考えている。

 MJ: 将来的に、例えば10年後において、生き残っているのはどのブロックチェーンのプロトコルか?

 GZ: ほとんどのプロトコルは残っていないだろう。トークンのほとんども残っていないだろう。勝ち残るのは1つか2つくらいだろう。10、20、いや50ほどのプロトコルが現在あると思うが、私が関心を抱いているのはプロトコルやプロジェクトがどのように統合を始めるのかということだ。

 なぜなら2000ものプロジェクトを進行させることは不可能だからだ。14年にはビットコインによって様々な形で結果がもたらされたが、そのほとんどが現在は存在していない。だが残っているものもある。将来的に生き残るのは、信頼される仕事をして、技術とその活用法を実際に前進させるものだろうと私は考えている。

 MJ: ありがとうございました。