ドイツ銀行の首席ストラテジストであるジム・リード氏は、現在の法定通貨システムは終焉しつつあるとの考えを示した。
法定通貨とは、金銀のような物理的商品ではなく、政府の信頼による保証によってなりたっている通貨を指す。
同氏によると、法定通貨システムが「本質的に不安定でインフレになりやすい」にもかかわらずもちこたえているのは、80年代におこった「激しいディス・インフレーション」という経済現象が原因で、今日この巻き戻しが起きているとしている。
リード氏のいう「80年代に起きた激しいディス・インフレーション」とは、お金の価値が目減りするインフレが外的要因に抑えられた状態のことをさす。特に、中国の台頭と労働人口の爆発的な増大によってもたされた人件費の低下がこの外的要因にあたる。
外的要因におさえこまれたインフレは、政府や中央銀行によるクレジット創出を容易にしてきた。いくら経済を刺激してもインフレが起きないからだ。結果的に、現行の法定通貨システムはこの「政府がいくらお金をすってもインフレが起きにくい環境」に救われてきたといえる。
しかし今後人口分布に大きな変化がおき、労働人口が減ってくると法定通貨はどうなるだろうか。世界的に労働者の賃金が上がり、お金の価値が目減りするインフレが進んでいく。
35年間の構造的なインフレ低下を「食い物」にしてきた中央銀行と政府は、今度はインフレ率が上がっていくことを止められないだろう。国家がかかえる巨大な負債を前に、(インフレをコントロールするために)必要なレベルまで金利をあげることは、経済の縮小をもたらすことになりかねないからだ。
だから中央銀行と政府はインフレのコントロールよりも低金利と名目成長率を優先せざるをえない。このことは、1971年にブレトン・ウッズ体制が破棄されて始まった現行のグローバル法定通貨システムの「終わりの始まり」をもたらすかもしれない。
さらにリード氏は仮想通貨に言及して、次のように述べている。
直近の仮想通貨ブームは紙幣への信頼喪失というよりブロックチェーンへの関心が原因であろうが、いずれ紙幣よりも広い範囲で価値の交換ができる方法がでてくる。そしてそれは紙幣の競合相手となるだろう。