10月16日、米司法省は世界最大規模の児童ポルノサイト「Welcome to Video」を摘発した。18ヵ国による世界規模の捜査で、サイトを運営していた韓国人をはじめ、世界12ヵ国、337人が逮捕された。
暴かれた世界最大規模の闇サイト
このサイトはダークウェブ上のサイトであり、ユーザーは仮想通貨ビットコインで支払いを行っていた。捜査には、仮想通貨分析企業チェイナリシスが協力したことも明らかになっている。
ダークウェブ上での仮想通貨の利用状況はどうなっているのか。『ダークウェブの教科書』の著者で、コインチェックの不正流出事件でもホワイトハッカーとして脚光を浴びたCheena(ちーな)氏に、ダークウェブでの仮想通貨事情について聞いた。
人気高いのは匿名通貨モネロ
Cheena氏によれば、ダークウェブでは匿名通貨のモネロが支持を集めている状況にある。
「既にダークウェブではMoneroが支持されており、多くのダークウェブの闇市場サイトではMoneroが採用されています(DASH/Zcashはあまり見ないです)。最近閉鎖しましたが、Monero専用の闇市場もありました」
今回の児童ポルノサイトの捜査では、主にビットコインが使われていた。ビットコインアドレスを追跡されて、容疑者らの逮捕につながった。しかし今回の大規模摘発で犯罪者がビットコインを使わなくなるかというと、必ずしもそうとは限らないと、Cheena氏は指摘する。
「取引履歴追跡のリスクはあれど、流通量の多さなどからBitcoinは使われ続けると思います」
ミキシングサービスの効果は?
捜査に協力した仮想通貨分析企業のチェイナリシスは、ビットコインアドレスの動きを追跡することで、サイト利用者の身元を割り出した。逮捕者の身元を割り出すきっかけとなったのは、取引所での個人確認データによるものだ。
しかしビットコインをダークウェブで使う際には、「ミキシング」と言われる、追跡を困難にさせるツールも存在する。Cheena氏は、ミキシングサービスの現状について、次のように説明している。
「ミキシングサービスについては、そのサービスごとに独自の資金洗浄の方法があり、その方法が非公開なこともあるため、『ミキシングサービスを使えば追跡を逃れることができる』と一概には言えません」
Cheena氏の著作の説明によれば、サービスによっては全くミキシングを行わず、手数料だけをせしめるサービスも存在する恐れがあると指摘している。また警察などによる取締りでミキシングサービス自体が減少している実態もあるという。
モネロやBTC以外の仮想通貨は?
また匿名通貨としてはダッシュやジーキャッシュなどもあるが、モネロが選ばれることが多いという。
「DASHやZcashなどほかのメジャーな秘匿性の高い通貨はプライバシー保護がオプションとして用意されていますが、Moneroはそれがデフォルトで提供されている点が大きいと思います」
また匿名性をうたった新しい仮想通貨も出現しているが、本当に秘匿性の効果があるのかどうか疑わしいこともあり、実際に使われるかは疑問だという。
「新しい通貨については、その秘匿性が十分に確認されていることや、入手のしやすさなどの点から、わざわざ自分からリスクを取りに行くユーザーはいないと考えられるので、今後も基本的にMoneroが使われていくと思います」
今後はFATFルールも影響か
仮想通貨分析企業サイファートレースのデイビッド・ジェバンズCEOは10月、FATFのトラベルルールの影響で「犯罪行為で使われる仮想通貨はビットコインから匿名通貨に移行する」と指摘している。
ジェバンズ氏も、Cheena氏と同じく認知度の高さや現金化が容易なことから、ビットコインが犯罪者の間で人気があると指摘。過去にサイファートレースで犯罪関連の分析したケースでは、95%がビットコインやイーサといった主要通貨だったと強調している。
ただFATFが仮想通貨のマネーロンダリグ防止のトラベルルールを導入したことで、匿名通貨への移行がより一層加速すると予測する。トラベルルールは、仮想通貨事業者に対してユーザーデータの収集を求めるものだ。今後、ダークウェブの仮想通貨勢力図にも変化が起こるかもしれない。