暗号資産の取引高ベースで世界トップ5の指にはいるクーコイン(KuCoin)。日本人には馴染みがない名前かもしれないが、仮想通貨ファンの間ではよく知られた名前だ。

一方でその素性はあまり語られることがなく、ミステリアスな印象をもつ人も多い。

今回コインテレグラフジャパンはクーコインを創業したジョニー・リューCEOに直接接触することに成功。波あり谷ありの暗号資産業界において力強く生き残り、トップ5の座を維持し続けるその底力に迫った。

暗号資産取引所バイナンスが米司法省と和解した。この事件をどう見るか。

「悪材料が出尽くしたとの見方が主流だ。また暗号通貨規制の確実性は業界にとってプラスとみている。実際11月下旬以降、相場が強気相場の様相を呈している。」

同じくグローバル取引所であるコインの今後の展開や戦略は。

「設立から6年たったが創業当初と比べて暗号資産業界を取り巻く状況は一変した。当社はそもそも『グローバル化』と『ユーザー中心主義』を掲げてきたが、特に規制対応を強化している。例えば(口座開設時の)本人確認審査を義務付けた。世界的なコンプライアンス重視の流れに沿って、セキュリティやマネロン対策を強化する。」

長引いた弱気相場のあおりをうけて、クーコインで大量解雇があったとの噂がある。真相は。

「噂されるようなレイオフは実施していない。半期に一度実施される考課の一環で人員調整が行われる可能性は常にあるが、通常の組織開発の一部にすぎない。

「そもそもクーコインは堅実性を重視しているので、例え強気相場であっても急激に事業拡大することはない。現在1000人のスタッフを抱えているが、弱気相場も同規模の陣容で乗り切った。」

あらためて、クーコインがこれまでトップ5取引所として生き残れた強さの理由は。

「ずばり技術力だ。創業チームが開発者によって構成されていたため『テクノロジーが世界を変える』という信念のもとやってきた。技術力が我々のDNAだ。だからこそ資金の大部分を開発スタッフの採用や開発インフラの整備に使い、安全かつ安定した取引所づくりに努めてきた。クーコインの取引所が使いやすいといわれる所以(ゆえん)だ。

ユーザーが好むプロダクトを常に投入してきたのも強みだ。相場がそう強くない時は利回り商品等を重視する一方、強気市場では今後上がりそうな暗号資産をユーザーが簡単に発掘できるようにした。

「また企業としてのバリューや経営戦略も関係していると思う。我々の経営スタイルは『堅実』重視だ。暗号資産は波が激しい業界だ。強気相場の時にあまり極端に事業拡大せずに、弱気相場でも乗り切れる体制を築いてきた。」

KuCoinの今後のビジネスモデルは。取引所以外のビジネスモデルも展開していくのか。

「まずより使いやすく安全な取引プラットフォームの構築に引き続き取り組んでいく。短中期的に暗号資産取引所(CEX)をメイン事業としていくことに変わりはない。色々な事業に手を出すのは簡単だが、一つのことをしっかりやり遂げることが大事だと考えている。

「そもそも取引所の使いやすさ、安全性等がしっかりしていることが、暗号資産が世の中に広まっていくカギになる。クーコインとしてそういった取引所を引き続き作っていくことが暗号資産業界の発展につながるはずだ。

「とはいえユーザーのニーズに答えることが我々の仕事だ。取引所事業に加えて、クーコインの投資部門であるクーコインラボ、クーコインベンチャーズ等を通して(Web3プロジェクト等に)投資をしたり事業拡大の手助けをしていく。」

香港のデジタル資産業界についてどういった見方をしているか。

「アジアのWeb3ハブとしての地位を徐々に確立している。香港は地理的な優位性に加え、かつての金融・経済センターとしての歴史的背景や地位がある。さらに香港政府の後押しのもと、暗号資産関連の規制や政策が段階的に実施されている。これらはすべてデジタル資産業界の発展を推進しようとする香港の決意を示している。

「実際に世界の暗号資産取引所大手、プロジェクト、投資会社の一部が香港に支店を設立したりスタッフを駐在させている。人材と資本の流入に伴い、香港のデジタル資産業界はより発展していくだろう。」

<終>

ジョニー・リュー クーコインの共同創業者兼CEO。同取引所を2017年に創業して以来、業務全般を統括。グローバル取引所として育て上げた。クーコイン創業以前はeコマースや自動車、テクノロジー業界で経験を積んだ。好きな和食はお任せ鮨と焼肉。

編集後記:意外にも気さくに、少し際どい質問にも答えてくれたリュー氏。また経営方針も至ってシンプルで、堅実な経営を求めているという。グローバル取引所としての存在感を発揮し、さらなる発信を期待したいところだ。

取材・編集:コインテレグラフジャパン