WEBにかわる次世代の分散型ネットワークシステムとして期待されるイーサリアムの創始者であるビタリック・ビューテリン(23)が11月2日、イーサリアムを今後大規模に拡張していくための向上案を提案した。メキシコのリゾート地カンクンで開催されたイーサリアム開発者イベントで聴衆を前に語った。

 イーサリアムはブロックチェーン技術を使った新たなネットワークの仕組みで、ビューテリン氏等が13年より開発。価値の送受信が主な目的であるビットコイン・ネットワークとは違い、ブロックチェーン上で実装されたプログラミング言語を使って様々な分散型アプリを開発することが可能な「チューリング完全」なネットワークとされる。また、従来のWEBネットワークに比べセキュリティと匿名性を高める上、自動化された手続きを実行するスマートコントラクト機能を実装するなど、現実社会での様々な応用が期待されている次世代のネットワークシステムだ。

 いわば、スマホのOSのように使えるブロックチェーンの普及を狙った壮大な取り組みだ。

 ところがイーサリアムの大規模な拡張のためには、ネットワークの処理速度や取引コストが問題となっており、ビューテリン氏本人も「今一番大きな問題」とするほど成長の壁にぶつかっている。

 今回ビューテリン氏が自身のプレゼンで提案した解決策は、データベース用語を用いて「シャーディング」と呼ばれる。ブロックチェーンで発生する取引記録のデータを分散させて各ノードの負担を軽減させる方法だ。この手法をめぐっては、ノード間における認証が課題だったが、同氏は今回、電子台帳上の全てのデータを記録する「フル・ノード」と、分散されたデータのパーツを記録する一般ノードに分ける方法を提案してる。

 ビューテリン氏はまた、同プレゼンの中で、①イーサリアム・バーチャル・マシン(EVM)のアップデート、②eWASMと呼ばれるノード化されたウェブ・ブラウザ、③「ステートレス(無状態)・クライアント」と呼ばれるネットワーク上のクライアント同期化するプロセス等、今後イーサリアムに追加予定の機能を紹介している。

 

イーサリアム上で分散型アプリを動かすブラウザもお披露目

 同イベントでは、イーサリアム上で分散型アプリを動かすブラウザの最新版の「MOON」もお披露目された。

 既存の「MIST」ブラウザとは違い、「MOON」はウェブ・ブラウザ上で動作。また、分散型アプリの閲覧や使用に加え、開発者はブラウザ上でアプリのコードを編集し安全に分岐させることもできるという。ジャバスクリプトではなくMOON-LANGと呼ばれる独自コンパイラ経由で動作するため、コードを改編しても問題が発生するリスクがない仕組みだ。ブロックチェーン業界が分岐問題で揺れる中、「オープンなプラットフォーム」を自称するイーサリアムならではの機能だ。

 

プライバシーを高める「Zk-Snarks」にも向上案

 また、イーサリアム上で匿名投票などを実現するために不可欠と考えられているプライバシー保護機能である「Zk-Snarks」のアップグレードにも道すじが示された。同機能は、匿名性に重点をおいたZCashとよばれる仮想通貨の技術を使っており、プライバシーの観点からイーサリアムの成長性を高めると期待されてきたが、いくつかの課題をかかえていた。

  ちなみに、ビットコインに批判的なジェームス・ダイモン氏が代表をつとめるJPモルガンチェースも、ZCashと連携して同行が開発中のスマートコントラクトのプラットフォームにプライバシー機能を付与している。

 

次の大規模アップグレードのスケジュールは出ず

 今後の規模化を狙い、イーサリアムは現在、「メトロポリス」と呼ばれるアップグレードを二段階で推進している。一段階目のハードフォークは「ビザンチウム」とよばれ17年10月に完了。 

  二段階目にあたる「コンスタンチノープル」や、イーサリアムをプルーフ・オブ・ステークに移行するためのキャスパーとよばれるプロトコルの実施スケジュールは今回の開発者会合では発表されなかった。