仮想通貨市場における安定通貨（ステーブルコイン）は、目覚ましい勢いで拡大を続けている。なかでも米ドルと連動するUSDT（テザー）は、発行残高および取引量において他のステーブルコインを大きく上回り、圧倒的な存在感を示す。そうした中、トロンがイーサリアムを抜き、USDT流通量で50％以上のシェアを獲得したことが市場関係者の関心を集めた。トロンの技術的優位性、戦略的な提携、そして創業者ジャスティン・サン氏の先見的な構想が、安定通貨を軸とした新たな金融インフラの構築を加速させている。

トロンの市場支配力を裏付ける実績

数字で見るトロンの存在感

2025年時点で、世界のステーブルコイン市場は総発行残高が2,200億ドルを超え、仮想通貨経済における基盤インフラとして急速に存在感を高めている。なかでもUSDT（テザー）は時価総額が1,430億ドルを上回り、全体の約6割を占める最大のステーブルコインとして流通している。

このUSDT市場において、トロンは最大の発行・流通基盤として明確な地位を築いた。2025年5月時点で、トロン上でのUSDT発行残高は約738億ドル。対するイーサリアムは約719億ドルにとどまり、わずかに及ばない。全体の過半数がトロン上に存在する計算となり、単一チェーンとしては世界最大のUSDTインフラとなった格好だ。

ユーザー面でも優位が際立つ。USDT保有アドレスの8割超がTRC-20（トロン）版を利用しているとされ、取引件数やアカウント数で他チェーンを大きく引き離している。トロン上では1日あたり800万件を超える取引が処理され、日次取引高は25億ドル超に達する。累計アカウント数は3億700万（307M）、総取引件数は100億件超に上る。

そしてトロン上のUSDTは単なる保有にとどまらず、実需に根ざした用途で幅広く活用されている。例えば以下の通りだ。

・個人間送金や越境決済では、低コストと即時性が評価され、アジアや中南米を中心に日常的な利用が広がる。
・取引所間の資金移動やアービトラージでは、トランザクションの迅速さがプロ投資家に重宝されている。
・オンライン決済やゲーム、ギャンブル系アプリにおいては、ボラティリティのない決済手段として採用例が増えている。
・分散型金融（DeFi）分野では、JustLendなどのプロトコルを通じてUSDTの貸出・運用が進んでいる。
 

このように、トロンは「USDTを保管する場」ではなく、「USDTを日常的に使うネットワーク」として機能している。その点で、他のブロックチェーンとは一線を画す存在となった。

ステーブルコイン成長をけん引するトロンの拡大戦略

トロンの優位性は流通規模だけにとどまらない。成長速度と市場適応力の両面においても、競合チェーンを凌いでいる。

2023年中頃以降、トロン上のUSDTは月間10億ドル超のペースで拡大。2025年上半期には160億ドル以上の新規発行が確認されており、イーサリアムを上回る勢いを見せる。高騰するガス代を回避し、ユーザーがUSDTを活用しやすい環境を提供してきた結果といえる。

取引活動も活発だ。2025年4月、トロン上の分散型取引所（DEX）ではUSDTの月間取引高が前月比40％増の49億ドルに達した。ガス代がほぼゼロであり、ネットワークも安定していることから、個人・法人を問わずUSDTを高頻度で扱うユーザーに支持されている。

こうした実績を踏まえ、創業者のジャスティン・サン氏は「1000億ドル到達は既定路線」と語った。単なるビジョンではなく、実現可能な目標として受け止められつつある。USDTの事実上の“標準プラットフォーム”として、トロンはさらにその地位を固めている。

トロンが“USDTの主戦場”で優位に立った理由

技術面での優越性

トロンはガス代（手数料）が極めて低いことが特徴で、イーサリアムのように高額なガス代を敬遠するユーザーにとって魅力的な選択肢となっている。処理速度も高速であり、世界的に利用者が増加する背景にはこのコスト面・速度面での強みがある。

市場需要を的確につかむことによる普及

機関投資家や金融機関によるトロンの採用は、近年、着実に拡大している。代表例として、トランプ一族が関与するWorld Liberty Financialは、自社が発行する米ドル連動型ステーブルコイン「USD1」の発行基盤としてトロンを採用した。これにより、同社の決済ネットワークにおいてトロンが活用されるようになり、同ネットワークを通じたグローバルな安定通貨の送受信が可能となった。

また、経済インフラが整備途上にある新興国では、国際送金や日常決済において手数料の安さと処理速度の速さが評価され、USDTの利用先としてトロンが広く支持されている。

ユーザー中心の戦略

クロスボーダー送金やDeFi（分散型金融）のニーズに対応するため、トロンは利便性を第一に設計を重ねてきた。CryptoQuantのアナリストMaartunn氏は「トロンはユーザーからの信頼を獲得した、稀有なプロジェクトだ」と指摘しており、こうした評価は市場での地位確立にも寄与している。

ジャスティン・サン氏の先見性

グローバル金融決済インフラの構築

トロンの創業者ジャスティン・サン氏は、ブロックチェーンが世界規模の金融インフラとして機能するようになる未来を見据えている。なかでも、サン氏は特に中国のブロックチェーンイノベーションを世界に広める先導役として、国際社会での存在感をさらに高めている点が特徴的だ。

最先端の取り組み

2025年のCryptoFiフォーラムでは、サン氏がAIエージェントに対してトロンアドレスを割り当てる構想を明らかにし、人工知能とブロックチェーンの融合を具体的に示唆した。またT3 FCUとの連携により、1億5千万ドル超の不正資産を凍結するなど、セキュリティ強化にも注力している。サン氏は「ブロックチェーンはグローバル金融を再構築する」との考えを以前から語り、その理念を実行へ移す行動力が際立つ。

金融基盤としてのトロンの未来

エコシステム拡大への期待

今後、トロンは多様なパートナーシップの構築を通じて、エコシステムの拡充を加速させるとみられる。たとえば、トランプ一族が関与するWorld Liberty Financialとの提携では、ステーブルコイン「USD1」の流通を通じて流動性の確保が期待されている。加えて、安定通貨の選択肢が広がることで利用者基盤の多様化が進み、DeFiインフラの拡張とあわせて、トロンのエコシステムは一層強固なものとなるだろう。

規制対応とセキュリティ

トロンは、国際的な規制動向を見据え、各国の当局との対話を積極的に進めている。米証券取引委員会（SEC）へのETF申請に加え、不正取引の抑止を目的としたT3 FCUとの連携も進展。これらの動きは、技術基盤の透明性と法的安定性の両立を図る姿勢として市場から一定の評価を得ており、信頼性の高いブロックチェーン・プラットフォームとしての地位確立につながっている。

Web3の先を見据えて

ブロックチェーンの分散型金融（DeFi）やWeb3の拡大にあわせ、トロンは一段と多彩な金融サービスを提供する可能性を秘めている。今後はUSDT流通額1000億ドルを目指す取り組みや、AIとのシナジーを活かした新サービスなどが期待されており、革新的なロードマップが示唆される。

結論

トロンがイーサリアムを追い抜いてUSDT流通シェアの過半数を獲得したことは、技術力・リーダーシップ・市場ニーズの三位一体がもたらす成果だ。高速度かつ低コストを求めるユーザーや機関投資家にとって、トロンはグローバル金融インフラとしてますます存在感を高めるだろう。

「Web3時代の強靱かつ分散化された金融の未来を築く」──ジャスティン・サン氏が掲げる構想は現実のものとなりつつある。効率性と拡張性、そして革新性を兼ね備えたネットワークを求めるなら、トロンは最有力の選択肢となるに違いない。

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