ここに表示された見解および意見は、著者のものであり、必ずしもコインテレグラフの見解を反映するものではありません。すべての投資とトレーディングにはリスクが伴うため、意思決定の際に独自の調査を実施する必要があります

前回の記事で見事ビットコインの一旦のボトムとトップの予測を的中させたコインテレグラフのレギュラーコメンテーターである仮想通貨トレーダー、トシムリン氏が今後のビットコインの相場展望について寄稿した。

前回の記事投稿から半年が経ち、市場環境は大きく変化した。

筆者は過去2回の投稿で今年のビットコインの動向として以下のような予測をした。

「2022年は市場参加者が期待している3回~5回の利上げは過剰な期待だと考えており、米経済回復の鈍化や相場の乱高下を気にする形でFRBは徐々に緩慢な利上げ姿勢を示すと予測しているため、現段階では30,385~36,385ドル以下は売られすぎだと見ている。従って、特にデリバティブ市場で取引をしている方は、この価格帯以下での突っ込み売りは十分に注意した方が良さそうだ。万が一、この価格帯を下抜けたとしても23,420~27,750ドルではサポートされて一旦反転すると見込んでいるため、絶好の買い場となる可能性がありそうだ。ここ半年の動向予測をするのであれば、市場が期待しているほどの金利正常化の動きは時期尚早であることが判明にするにつれて利上げ懸念で価格が落ちた分、つまりは47,845~53,770ドルくらいまで落ち着きはあってもおかしくないが、今年の半ば以降にはコロナ禍が収束し、金利が上がっていくことは避けられないため、仮想通貨市場の反発があったとしても短命に終わり、既につけたトップである69,010ドル近辺を超えることはないだろう」

この予測に対してビットコインドルは6月の中旬頃まで筆者の予測通り、30,385~36,385ドルでサポートされて47,845~53,770ドルまで上昇したものの、再び23,420~27,750ドルまで下落した。

ここでも軽い反発が見られたものの、FRBが6月14・15日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)では1%の利上げ観測が取り沙汰されて売り圧力が強まり17,000ドル台まで下落したことから「23,420~27,750ドルが絶好の買い場」という予測は外してしまったが、大まかな動きとしては想定通りの展開だと言えるだろう(図1参照)。

 

(図1:前回予測に対しての現在の動向)

前回の投稿が2022年1月22日だが、2月24日に発生したロシアによるウクライナ侵攻は筆者にとっては想定外の出来事だった。これは戦争当事者であるウクライナにとっても予想外の出来事であり、誰にとってもこの予測は困難であった。

23,420~27,750ドルを割れた最も大きな原因の一つは露宇戦争を契機としたインフレだ。

ロシアがウクライナへ侵攻したことにより西側諸国は経済制裁として、国際的な決済ネットワークSWIFTからロシアの特定の銀行を除外、ロシア中央銀行の資産凍結、ロシアからの原油、天然ガス、石炭などのエネルギーの輸入も禁止したことから、供給の悪化によりエネルギー価格が高騰し、インフレに拍車がかかった。

この結果、米国では消費者が購入する商品について、物価の変化を総合的かつ客観的に表す5月の消費者物価指数は過去40年で最も高い水準を更新。3月に記録した伸び率8.5%を上回り、1981年12月以来最も高い水準を更新した。

当然ながらアメリカ金融当局にとっても、この戦争は想定外だった。その証拠としてFRBは去年末までインフレは「一時的」として金融引き締めに対してハト派姿勢示していたが、露宇戦争によりインフレが加速したため今年に入ってからは一気にタカ派へと切り替え、0.25%と0.5%の利上げを2回行ったうえで、更に0.75%の利上げを行った。なかでも6月のFOMCでは5月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比の上昇率が8.6%と約40年ぶりの水準を更新し、同日公表されたミシガン大調査でも消費者の長期的なインフレ予測が高まり、事前に示唆されていた0.5%よりも0.25%高い利上げが行われたことで市場に衝撃が走った。パウエル議長のメディアに対する事前のリークによりFOMC直前には0.75%の利上げは織り込まれていたものの、一部の市場参加者の間では1%の利上げも懸念されて、株式や仮想通貨の下落を加速させる要因となった。

恐らく、この戦争がなければビットコインの下落も23,420~27,750ドルくらいに留まっていたはずだろう。

6月1日からはバランスシートの縮小(QT)も決定されており、FRBが保有する国債に関して毎月の減額のキャップを当初は300億ドルに設定し、3ヵ月後の9月からは毎月600億ドルまで引き上げる予定で、これは2回~3回の利上げに相当するインパクトがあるといわれている。

7月のFOMCでも0.5%か0.75%の利上げが行われる予定で、市場では93%の確率で0.75%の利上げが織り込まれている。

2021年11月17日に投稿した記事では、「時間の経過とともにコロナ禍が収束し、各国がテーパリングを開始、そして金利が上昇していくのは避けられないため、反発があったとしても短期的な動きに留まる」、「今まで仮想通貨市場を支えてきた量的金融緩和という梯子が外されつつあることは念頭に入れておくべき」と警告してきたが、各国の金融引き締め開始によりビットコインは大幅に下落していることを見れば2021年年末までのビットコインの上昇は一重に、過剰流動性由来の安定だったと言えるだろう。

足元では悪材料を一旦織り込んだことに加えて、景気後退懸念が台頭し始めていることから金融引き締めの度合いが緩まることが期待されて、米株もやや反発が見られている。今年の1月中旬以降は米株(S&P500)とビットコインの相関性はほぼ90%以上を維持していることから、筆者は今後のビットコインの動向を予測する上では米株の動きを考えることも重要な要素だと見ている。

筆者が作成している「景気後退予測先行シグナル」の過去の動きから見れば0%に限りなく近づくか、それを超えてくると約1年~2年後には景気後退(図2の青のシャドー)が起こっており、今回も6月13日に0%を超えたため、景気後退は約1年後に発生する可能性は高まっていると言える(図2参照)。

(図2:景気後退予測先行シグナル)

しかし、それがもし起こるとしても過去の傾向から見れば、早くとも来年の夏頃(2023年6月以降)に発生することになるが、筆者が作成している主要17か国の鉱工業生産をまとめたグラフを見ても、現段階では世界景気がリセッションに向かっているようには見えない。

従って、まだ景気後退と考えるのは早いため、足元で起こっている米株の反発はあくまで「景気後退懸念」が先行しているだけであり、現段階では景気後退発生確率は50%程度だろう。

1960年以降で景気後退以外での米株(S&P500基準)の大幅な下落は6回ある。

1961年のキューバ危機(29%下落)、1966年のベトナム戦争泥沼化(24%下落)、1987年のブラックマンデー(36%)、1998年のロシア危機(22%)、2011年の米国債ショック(22%)、2018年の利上げ期(20%)だ。これらの下落率の平均を取ると約25%となる。

S&P500が6月17日3,640ドルまで下落して反発しているが、2021年1月4日の高値から約25%下落した地点がこの価格にあたる。

これを見る限りでは市場参加者は「景気後退になるかは不明だが、過去の景気後退期以外での平均下落率の約−25%に到達したため、とりあえず買い戻ししておこう」と考えているのだろう。一部では「底打ち」との考えを示す投資家もいるだろう。

インフレ統計も頭打ちを見せているため、確かにFRBがタカ派姿勢を緩めてうまく市場をコントロールし、景気後退を避けることができればS&P500も3500~3680ドルで底打ちする可能性は高いため、「妥当な買い場」だという考えも決して間違いではないだろう。

しかし、筆者は今後も米国はインフレに苦しめられ、FRBは非常に困難な舵取りが続くと考えているため、S&P500が3,500~3,680ドルで底打ちすることに関しては懐疑的である。

6月のFOMC後のSEP(Summary of Economic Projections )ではFOMCメンバーによる以下の見通しが発表されている(図3参照)。

(図3:SEP見通し)

今年のGDPは1.7まで減速し、来年も横ばいの1.7となっている。

赤枠で囲った失業率とインフレ率に関しては前回の3月の見通だが、利上げによる景気減速を考慮して失業率は今年から2024年にかけて増加、それに伴ってインフレ率も急低下する見通しとなっている。

これが材料となって、足元では景気後退によりFRBがタカ派姿勢を緩めるとの予測から、S&P500も過去のショック的な下落の平均値である約25%の下落で留まっているとも言える。

各国でインフレが進んでいる理由は以下の3つになる。

① エネルギー価格の高騰
② 世界的な生産・物流網の逼迫
③ 人手不足に伴う賃金の上昇

このうち①や②については、各国の輸入物価指数が過去最高もしくは数十年ぶりの伸びに達するなどしているが、コスト・プッシュ型のインフレは家計の購買力を圧迫し、ゆくゆくは需要の減退につながるため、一時的なものにとどまる公算が大きいと見ている。

従って、上記の①や②の要因が今後、徐々に剥落した後もインフレが持続するかどうかは③の賃金の動向次第だといえる。

米欧における賃金上昇の背景の一つには、飲食・宿泊といったコロナ禍で大きな打撃を受けた接客関連業種を中心に、求人がなかなか埋まらないという雇用のミスマッチがある。コロナ前の従来のアメリカであれば失業率が下がれば、求人率も下がるのが一般的だった。しかし、コロナ後は失業率が下がっているにも関わらず、求人率は増加している傾向が続いている(図4参照)。

(図4:米求人率と労働参加率)

雇用はコロナ感染が拡大する前の水準を回復し、失業率は歴史的な低水準が続いているため、アメリカ経済の回復は堅調に見えるものの求人数は増加する一方となっており、それに伴って賃金が上昇していることから企業利益を圧迫している。

これに関してFRBは「労働参加率の低迷は世界的大流行機の大量退職が理由である」と述べている。当然ながらこの理由もあるだろうが、筆者は別の大きな要因があると考えている。

コロナウィルス拡大後はリモートワークやハイブリッドワークが増加し、人々は転居することなく新しい仕事を見つけられるようになり、また、リモートワークやハイブリッドワークにより時間の余裕ができたことで人々の優先順位が変化したと考えている。さらには失業保険の上乗せなどにより守られる権利に気付き、より良い労働環境や福利厚生が充実している企業を求めて転職する動きが強まっていることも、大きな原因の一つだと見ている。

このような状況は労働者にとっては好機であり、選択肢が増えれば増えるほど大きな力を持つようになり、より自分に合った仕事を見つけることができるようになる。

その一方で雇用主にとっては競争力を維持するためには、これまでと違うやり方で組織を運営し、今後何年にもわたって高い給与と福利厚生を提供しなければならなくなるため苦境に陥ることになるだろう。

つまり、アメリカでは「新時代の労働者革命」という「ニューノーマル」な現象が起こっていると見ているため、①と②を契機としたインフレが景気後退懸念により、やや落ち着きを見せたとしても賃金上昇によるインフレ圧力が続き、インフレ率はFRBが予測しているほど急低下しないと予測している。

現在、債権市場では来年の4月頃に金利上昇は頭打ちとなり、それ以降は利下げに転じるシナリオが織り込まれている動きとなっているものの、「新時代の労働者革命」が起こっている可能性を考慮すれば、賃金コストの上昇を契機としたインフレが高止まりしそうなので、素直に利下げすることが難しく株価の重石となりそうだ。

そこで今後の米株の動向を予測する上では過去の利上げ期であり6カ月以上下落トレンドが続いた1968年、1973年、1980年、2000年の動きが参考になるであろう。

ちなみに、これらのすべての時期が景気後退となった。

以下のグラフはこれらの価格を指数化して並べたものだが、最後の下落トレンドの終わり方は違うものの、それまでの動きは似ている。つまり、まだ下落トレンドは継続する可能性が高いということが言える(図5参照)。

一つ違うのは過去に比べると今までよりも下落するペースが速いということであり、これは筆者のような統計データ分析を得意としたプロ市場参加者が先に織り込んで動いているからだと考えられるため、今回は過去よりも早めに下落が終わる可能性もあるだろう。

(図5 利上げによって6カ月以上ベアトレンドが続いた期間との価格動向比較)

これらの平均下落期間は約1年7カ月、平均下落率は約35%となる(図6参照)。

これを単純にS&P500の1月4日の最高値に当てはめると、来年の夏頃まではベアトレンドが続く可能性がありそうで、$2,935~3,250までの下落は見込んでおいた方が無難だということになる。クラッシュ的な動きがあれば2,700ドル付近まで下落する可能性もありえそうだ。

(図6 過去の利上げによるベアトレンドの平均下落率からボトムを予測)

S&P500がここまで下落するのであれば仮想通貨も株式の損失補填などにより売られやすいので、続落する可能性が高いと見ておくべきだろう。

逆を言えば、S&P500が$2,935~3,250まで下落したタイミングでは、仮想通貨も絶好の買い場となってくる可能性がありそうだ。

ビットコインがどこまで下落するかのヒントはファンド勢の動向を見ると、ある程度見えてくるが、それはまた別の機会にこちらの記事か筆者のブログで解説することにしよう。

著者 トシムリン

トレード歴16年の現役為替トレーダー。20歳の頃から専業トレーダーとなる。6年間はトレードが上手くいかず一時借金を背負ったが、研究と分析を積み重ねて独自手法を編み出し、7年目からプラス収益となり、そこからは安定的に利益を出し続けている。一般投資家が持ちえないマーケットの内部構造を多角的に分析して市場を予測していくことが得意分野。分析能力と育成能力に定評があり、トレード教育によって多くの常勝トレーダーを輩出している。

【PR】コインテレグラフのレギュラーコメンテーター「トシムリン」が運営する「仮想通貨研究所LINE」の登録はこちらから!トレードにおける情報や「ツボ」と「コツ」を手に入れよう。

トシムリン仮想通貨研究所