ステーブルコインの分析:将来実行可能な解決策は存在するか?

ここで述べられている見解や意見は著者個人のものであり、必ずしもコインテレグラフの見解を反映しているわけではありません。本記事は投資のアドバイス、もしくは推奨を行うものではありません。あらゆる投資や取引にはリスクが伴う以上、決断を下す際にはご自身による調査をお願いします。

 ニューヨーク大学財政学教授のデイビット・ヤーマック氏が2013年に発表した論文では、通貨が社会にとって有益であるためには、取引の媒介、価値の保存手段、そして価値の尺度として機能しなければならないとされた。当時、彼はこれらの3つの判断基準を用いた上で、ビットコインが日常的に使用が可能な通貨として成功するとは考えられないとした。この考えには幾つか評価すべき点がある。

 人気のある仮想通貨は小規模、かつ特定の環境であれば取引の媒介物として使用することができるが、価値の保存手段、もしくは尺度として機能させるのは難しい。その理由は仮想通貨特有の変動性の高さにある。あらゆる日付において20%以上の価格変動が起きる可能性があるために、有益な通貨が持つべき機能のうち後者2つに適合することができないのである。

 このような価格の変動性の高さに対する対策として、ステーブルコインと呼ばれる仮想通貨が一部で出現しつつある。スイスリアルコインのCEO、ブリジット・ルギンブールはその定義を以下のように定めている

「ビットコインのようなボラティリティの高い仮想通貨とは違い、ステーブルコインは現実の世界に基づいているため、人々を憂鬱な価格変動で悩ますこと無く、彼らに実用的で役立つ利益を提供する」

 ステーブルコインは一定期間、安定した価格もしくは価値を持つよう設計されており、ボラティリティが少ない。これらの通貨の目標は、法定通貨の価格が比較的安定していることを模倣する一方で、非中央集権化や安全性といった仮想通貨の中核的価値を維持することにある。

なぜステーブルコインが必要なのか?

 価格が安定しなければ、仮想通貨が大規模に採用され、広く流布し、最終的には日常的に使用されるようになるのは難しくなるだろう。ボラティリティが高いことは投機の面からは問題ないが、日常的な支払いに使う際にはあまり良い事ではない。そのようなリスクに日常的にさらされることなど、誰も望みはしない。あなたの給料が全て仮想通貨で支払われることを想像してみて欲しい。その仮想通貨の価格が一晩で20%下がった場合、次の朝に起きた時にはあらゆる物の価格が実質的に20%増しになってしまうのだ。

 トラストトークンのCEO、ラファエル・コズマン氏は以下のように語っている。

「ステーブルコインは価格の安定性、そして資本の非中央集権化の両方の面において、一般の人々に対し仮想通貨が持つ有益性を提供するための鍵となる手段の1つである」

 

 これは支払いに限った話ではない。価格の安定性はローンや信頼性のある貯蓄オプションといった、旧来の金融商品をブロックチェーンに組み込みたい場合の基礎的な要件となる。このため仮想通貨の持つ主要な特性を損なわない、実用的なステーブルコインの究極的な目標は、一般的なユーザーに広く採用されやすくなることである。

 市場ではステーブルコインを自称する幾つもの仮想通貨がこの目標を達成しようとしており、成功の度合いは各自によってまちまちである。それらのステーブルコインは全て、下記の3つの大区分に分類される。

  • 法定通貨担保型
  • 仮想通貨担保型
  • 無担保型

法定通貨担保型

 これは基本的なIOUシステムのように機能する、おそらく最も実装が簡単な方法である。各トークンはそれぞれ、(銀行のような)中央証券保管機関が保有する同額の法定通貨により担保される。所有者は保有するトークンをいつでも法定通貨建ての一定価格、例えば1ドルに換金することができる。

 テザーがおそらく最も有名な事例となるだろう。発行された全てのテザートークン(USDT)に対し、同額の米ドルが証券保管機関に預けられており、これはテザーが常に1:1で交換できるはずであることを意味している(1USDT=1米ドル)。価格が安定しているにも関わらず、テザーは多くの調査の対象となっている。多くの人はこのトークンが十分に担保されているとは考えておらず、また何億というトークンが新規発行される際に行われるはずの預金に対し正式な監査が行われていないために、このトークンの信頼性に対しては疑いが増すばかりだ。

 トゥルーUSDは、トークン化プラットフォームであるトラストトークンを基盤として構築された、テザーに似た(米ドルに対しペッグされた)別の法定通貨担保型トークンだ。テザー同様、こちらもまた仮想通貨コミュニティからいくらか疑いの眼差しを向けられている。しかし、透明化の向上への取り組みとして、預金は日毎の監査や所有者に対する法的保護を提供しているエスクロー口座に保管されている。それどころか基盤となるプラットフォームであるトラストトークンは、複数の法律事務所(クーリー及びウィルマーヘイル)と共同でトゥルーUSDのための法的枠組みを作り出そうとしている。

 同様のコンセプトを持つが、異なる資産で裏付けされているのがデジックスである。ステーブルコインを作り出すために、このトークンが担保としているのは金だ。全てのDGXトークンは、LMBAで承認された純度99.99%の金1グラムと同価値である。このため、この通貨は1グラムの金に対して安定していると言えるが、それでもなお、金の価値が変動する以上、米ドルまたはその他の法定通貨に対しては必ずしも安定しているとは言えない。

 また、金本位制は通貨のシステムとしては時代遅れであり、アメリカでは70年代初頭、政府が金の算出量は経済の発展速度に追いつけないと気づいたことにより廃止されている。また、初の国家による石油により裏付けされたトークン、ペトロがベネズエラ政府によりローンチされている。各ペトロはベネズエラ産の原油1バレルにより裏付けされており、総発行費用は60億ドル(約6668億円)になる。

 しかし、多くの人間はこのトークンは全くの詐欺であると考えている。ベネズエラの議会でさえペトロトークンを違法と宣言しており、議員の1人であるジョージ・ミラン氏は「これは仮想通貨ではなく、ベネズエラ産石油の先売りに過ぎず、汚職にはぴったりだ」とコメントした。

 法定通貨担保型トークン(ついでに言えば商品裏付け型トークン)はある程度の安定性をもたらしているものの、主に2つの理由から日常的に使用できるトークンとして選択される可能性は少ないと考えられる。

 第一に、このような通貨はスケールすることができず、大規模に導入されるために十分な量のトークンを発行したい場合、担保として大量の資金を用意しなければならなくなる(例えば、地球上にある通貨の総額はおよそ90兆ドルである)。

 第2に、中央当局、もしくは中央証券保管機関は、担保の保管を任せられる信用のおける所でなくてはならない(銀行など)。これはまさに仮想通貨が避けたがっている集権的な権威となる可能性があり、直感に反する物である。

仮想通貨担保型ステーブルコイン

 仮想通貨担保型ステーブルコインは、他の仮想通貨の預金により裏付けされている。これは法定通貨担保型トークンが持つ集権的な側面に対応するための物であり、価格安定性を完全に非中央集権化された環境で達成するための物である。

 この場合、最大の欠陥は明らかである。通貨を裏付けしているのが、同じぐらい不安定な可能性のある仮想通貨であることだ。この点を解消するため、仮想通貨担保型コインは往々にして価格の変動を吸収するために過剰な量の預金で過大な担保をかけている。

 このコンセプトでは、1ドルのステーブルコイン1つを発行する際、担保とするコインを2ドル分預金する。そのためステーブルコインは200%担保されていることになり、担保とするコインの価値が下がったとしても沢山の余裕が生まれていることになる。選択された担保の預金者に対する動機付けは通常、利払いにより行われる。

 このような形で担保保証を行った初の仮想通貨はビットシェアーズである。彼らは自分たちのネイティブネットワーク通貨(ビットシェアーズ)を担保として使用し、ビットUSD、ビットCNY、ビットGoldのような市場固定資産を作り出した。これらの市場固定資産は先物取引(デリバティブ契約)のように取引することができ、担保を効果的に増やすことができる。

 このメカニズムを使用している他のコインには、メーカーDAOにより開発されたダイがある。ダイは米ドルに対しペッグされているが、担保にしているのはイーサリアムである。このためダイのユーザーは、超過したETHをスマートコントラクトに固定することによりステーブルコインを生み出すことができた。スマートコントラクトは完全に自律化されており、管理者を必要としない環境になっている。これはつまり、ユーザーが自分たちの担保を利用したい場合、彼らは単にダイの負債を返済すれば良いのである(第三者機関に頼らなくて良い)。また、担保が指定された閾値を下回った場合、預金は自動的に売却される。

 一方、ハーベンは安定性を達成するために二重トークンシステムを使用している。ハーベンのトークンがハーベンのプラットフォームに対する担保として機能する一方で、担保の価値に対してステーブルコインであるnUSDが発行される。安定性の達成がユーザーに対するインセンティブ(ネットワーク取引費用)により行われることで、ハーベントークンをnUSDに対する担保とする。

 仮想通貨担保型ステーブルコインは、法定通貨担保型の対抗馬たちに比べて非中央集権化されており、流動性もより高い。しかしこれらもまた、安定的かつ日常的に使用できるトークンとなる可能性は低い。

 仮想通貨を担保とした場合、その信頼性ゆえに安定性は低まる。また必然的に発生する価格変動を吸収するために過剰な担保保証(そして大量の資金)が必要となる。しかしより重大だと思われるのは、安定性を保証するために大変複雑なメカニズムに頼るせいで、多くの潜在的なユーザーたちが怖がって離れてしまう可能性が高いことだ。

無担保型ステーブルコイン

 無担保型ステーブルコインは資産に裏付けされた担保を保有しないことで、法定通貨をできるだけ忠実に模倣することを目標としている。価格安定性はその代わり、シニョリッジ・シェアと呼ばれる手法により達成される。これはクリアマティックス・テクノロジーズ株式会社の創設者兼CEOであるロバート・サムスにより考案されたプロセスである。
この手法により、スマートコントラクトに準備銀行のような機能を持たせるようプログラムすることができ、これによりその通貨がペッグされた資産(米ドルなど)の価値に可能な限り近づくよう、その通貨の供給量を増減させることができる。

 これは基礎的な経済法則である需要と供給により機能している。コインの取引が高すぎる価格で行われている場合、スマートコントラクトはより多くのトークンを発行し、供給量を増やすことでコインの価値を減らす。

 スマートコントラクト内に存在する超過利潤はシニョリッジと呼称される。もしコインが市場固定資産以下の価格で取引されている場合、スマートコントラクトは流通している供給量の一部を超過利潤で購入し、供給量を減らすことで需要過剰を起こし、価格を上げる。
しかし、もしシニョリッジの量が適切なレベルにまで価格を引き上げるのに足りない場合、所有者に対し将来のシニョリッジ(スマートコントラクト内の超過利潤)に対する権利を与える株式を発行することができる。

 ここで最大の問題となるのが、もしトークンプラットフォームが新規ユーザーを獲得し、成長することが出来なかった場合、市場にペッグされた価格を維持することが不可能になることである。また、投資家がコインの株式(将来のシニョリッジに対する物)に対する支払い能力を信用しなくなる前に、このシステムが行使できる引き下げ圧力は限定されている。
いくつものステーブルコインがこのようなコンセプトを使用しているが、最も注目に値するのがベーシス(旧名はベースコイン)とサーガだ。

 ベーシスは短期的には米ドルに対してペッグされる予定だが、所有者がこのコインを商品やサービスの購入に使用するようになるにつれ、最終的には消費者物価指数(CPI)に対してペッグすることを目標にしている。

 一方でサーガは、国際通貨基金のSDR(特別引出金)にペッグされている変動部分準備金により裏付けされる予定である。無担保型ステーブルコインは「日常的に使用できるトークン」としては最も実現可能性の高い選択肢である。これは単に旧来の準備銀行が法定通貨に対し使用してきた安定性のメカニズムを模倣しており、かつ完全な非中央集権化と独立性を維持しているからである。

 しかしながらこれも完璧ではない。なぜなら安定性メカニズムを機能させるためにはプラットフォームの継続的な成長が不可欠となるからである。同様に、この仕組みは市場全体が暴落したり、投資家からの興味が減った場合に対して特に脆弱である。安定性の達成はまた複雑なプロセスであり、上昇圧力や引き下げ圧力のための安全パラメーターを合理的な確信を伴う形で決定することは難しい。

完璧な未来において、ステーブルコインはどのように機能するか?

 分析会社であるブレイブ・ニュー・コインの代表、フラン・ストラジナール氏は以下のように語っている。

「ステーブルコインは業界が成熟し、より組織化された参入者が市場に入ってくるにつれ、屈指の需要を誇る仮想通貨資産になりつつある」

 冒頭で指摘したように、価格安定性は仮想通貨が大規模に受け入れられ、日常的に使用されるためには不可欠である。なのでステーブルコインは仮想通貨の将来の姿であり、完璧なステーブルコインは何らかの無担保型トークンを使用すると見なされている。

 しかしこれを達成するためには、プラットフォームは世界規模にスケールすることができるポテンシャルを持ち、なおかつプライバシーを保証することができるトークンを開発しなければならない。完全に透明化されているブロックチェーン台帳は、事業利益や取引関係の安全を保つためには理想的とは言えない。

 真に非中央集権化されたステーブルコインが機能するためには、ステーブルコインとペッグされた資産の間の交換レートを、操作される可能性のある第三者機関に頼ることなく確実に取得することができるシステムが存在しなければならない。

 現在、ステーブルコインは非常に野心的、かつ実験的な物とみなされている。このため、実装が100%成功した完璧なステーブルコインは1つも存在しない。しかし、もしも破綻した金融政策を伴う法定通貨の置き換えが行われるなら、ステーブルコインは最善の選択肢となるだろう。あらゆる価格変動に対し効果的に対応し、旧来の法定通貨と同レベルで運用することのできる堅牢な安定性のメカニズムを持つ理想的なステーブルコインは、ほとんどの経済がある程度は被害を被っている、ハイパーインフレ、中央政府による干渉、詐欺そして誤った管理などの終わりを告げる兆しとなることは間違いない。

「安定した価値を持つ資産は必要不可欠か?主流の世界の多くの人間が「ブロックチェーン技術」に対する高い関心を持つ一方で「通貨としてのビットコイン」に対して無関心であることを考えれば、安定した通貨、もしくは複数通貨によるシステムに取って代わられる時が来たのかもしれない」

 これらはイーサリアムの創設者、ヴィタリック・ブテリン氏の発言である。