ブロックチェーンの分散型台帳技術(DLT)や暗号資産を活用して、IDとスコアリングを軸に個人の権利や自己実現をサポートしようとするプロジェクトがある。IFA株式会社が進める「AIre(アイレ)」だ。どんなプロジェクトか詳しく見てみよう。

信用の尺度を再発明

家族みんなが落ち着いてゆったりと過ごせるマイホームがほしい、会社を辞めて自分でビジネスを始めたい、など人はそれぞれ異なる夢を持っている。その夢を実現するにあたり、社会的信用を必要とされることもある。車や住宅のローンを組むにも、資金を借り入れするにも、銀行は勤め先や年収、過去の取引実績などを信用の尺度として見るであろう。

仮に、かつて有名企業に勤務し預貯金の多い人がいたとしよう。この人が会社を辞めてビジネスを始めたばかりの時に新たな賃貸住宅を探そうとしても、大家さんが賃借人の勤め先や年収、雇用形態といった信用のみを重視するのであれば、会社を退職してしまった今賃貸契約を結ぶのは難しいかもしれない。このような場面において従来は、国籍や年収、学歴、雇用形態などがその指標となってきた。

同社のプロジェクトAIreでは、信用評価に新たな尺度(属性)を導入してスコアリングすることで、既存の信用評価の枠組みにとらわれないスコアリングを行い、視覚化することができるとしている。

また、これにより従来は「信用がない」とされてきた人に向けた新たなマーケットが作り出される可能性も秘めている。先の例で言えば、賃借人の「お金の使い方」という属性を加えることで、支出が激しくない人であれば預貯金の額と照らし合わせて、将来家賃を支払う能力が低下しない、という評価がされるかもしれない。そうすれば、こういった層にも賃貸住宅のマーケットは開けてくるだろう。

FIN/SUMフィンサム2019COO桂城氏が登壇

このAIreを始めとした国内外の企業や政府機関、大学、スタートアップが参加するカンファレンスが、9月3日(火)から6日(金)の4日間、東京丸の内で開催された。金融庁と日本経済新聞が主催する日本最大級のフィンテック&レグテック・カンファレンス「FIN/SUMフィンサム2019」だ。

フィンテック(Fintech)はすでに知れ渡っているとおり、金融のファイナンス(Finance)と技術のテクノロジー(Technology)をかけ合わせた造語だが、一方のレグテック(Regtech)はあまり馴染みがないかもしれない。これは、規制を意味するレギュレーション(Regulation)と技術のテクノロジー(Technology)をかけ合わせた造語である。テクノロジーを駆使して規制の管理を進めよう、という動きの中で生まれた言葉だ。

このカンファレンスでは、世界にある環境問題や格差問題、高齢化問題などに対してフィンテックとレグテックを活用し、企業だけでなく政府や学術機関も巻き込んで有効なソリューションを模索するのが目的だ。このカンファレンスにて、IFA株式会社の取締役COO 桂城 漢大(かつらぎ くにひろ)氏が登壇し、AIreが目指す展望について語った。

 

AIreの考える理想のユースケースとは?

まず1つめは、身分証明書に有機的な情報を付加するということ。同氏はバーを例に挙げて説明する。

「バーは20歳以上しか入場できないため、身分証明書の提示が必要になるが、これは単に年齢を確認することしかできない。この年齢という情報に加え、好きなお酒のタイプや銘柄、本人の性格といった情報が身分証明書にあれば、年齢確認を行うと同時に、内気な性格だから店の奥に案内しよう、このタイプのお酒が好きだからこのカクテルを薦めてみよう、といった店側の提案が可能になる。免許証やパスポートなどの身分証明書には不可能な、ユーザーに寄り添った情報を共有できる。これはバーだけでなく、病院や予約などにも応用することが可能だ。」

従来の身分証明書は紙媒体で、情報の書き換えは難しく、フォーマット以上の情報を付加することは不可能だった。これをスマホアプリに移行し、ブロックチェーン上に記録することで改ざんの心配もなく真正性を担保することができる。一方で、ネットワーク参加者がすべてのデータを閲覧できてしまう、ということもあるため、表示させたい情報のみ暗号を解除して提供できる仕組みづくりを行うとしている。

2つめは個人の属性(年収や預貯金、勤め先、家族構成など)を使ったスコアリング(点数化)である。銀行で融資を受ける際、銀行は返済能力を確認するため内部審査を行う。年収や預貯金の残高、他の借入状況などから総合的に判断されているが、ユーザー側からすれば具体的にどのように判断されているかはブラックボックスになっている。

AIreはブロックチェーン技術を活用し、スマホなどで簡単にスコアを確認できるよう、可視化することを目標としている。これまで隠れて見えなかった信用力が見えてくるようになり、新しいマーケットが生まれる可能性も秘めている。

また、従来から判断の基準とされていた、年収や預貯金などの属性だけでなく、購入履歴やSNS、コミュニケーションの方法といった生活態度なども判断の属性として取り入れるという。ユーザーは信用を得るために生活態度を改善し、自己実現へ繋げることで、結果的に物質的や精神的な豊かさにつながるというサイクルが生まれることも期待できる。

AIreは次世代型銀行プラットフォームとなることも目標にしている。世界に銀行口座を保有しない人が17億人おり、そのうち携帯電話を持っている人は12億人いる。携帯電話などのモバイル端末をデジタル金融システムと接続することで、銀行から遠いところに居住する人や政治的理由などにより身分証明書を入手できない人などに対して金融サービスを提供し、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)につなげる狙いもある。

いずれもブロックチェーン技術を活用し、情報の信頼性と個人情報の保護を保証する形で運営するとしている。また、ユーザーには利便性の高いサービスになるとともに、情報を提供したユーザーにはトークンを用いたマイクロインセンティブを付与するなどメリットを享受することができる。そして、分散型台帳技術(DLT)により、運営企業がなくなっても持続できるとしている。 

 

まとめ

従来はユーザーの情報は企業やサービス毎に管理され、それがどのように活用されているのか、ユーザーによってはブラックボックスだった。それらの情報を集約し、ユーザー自身が提供しても良い情報か否かを自身でコントロールできるプラットフォームを構築しようとしている。ブロックチェーン技術とファイナンスや身分証明が融合して新たなビジネスが広がるとともに、個人情報保護や金融に関する規制の部分も最新テクノロジーで効率的に解決するAIreの今後に期待が高まる。