「世界各国のカンファレンスに参加して見えてきたのは、日本が持つポテンシャルだ」

IFA株式会社でブロックチェーン事業「Alre」の責任者を務める桂城漢大氏は、アジア・欧州のブロックチェーンカンファレンスに参加した中で、そう感じた。

今年秋、桂城氏は、韓国で開催されたD.FINEを皮切り、シンガポール、マルタ、ロシア、ロンドンのカンファレンスに登壇。AIreが構想するブロックチェーンプロジェクトを語った。

「日本から参加したプロジェクトがなかったため、珍しがれたの中、カンファレンスでは様々な意見交換ができた」

今回のカンファレンス出席は、AIreのプロジェクトにどんな反応があるのか探り、それと同時に現地のディベロッパーたちとの間のコネクションづくりも進める狙いだった。桂城氏は「十分な手応えを感じることができた」と語る。

アジアと欧州との温度差

世界各国のカンファレンスに参加した中で、アジアと欧州との仮想通貨・ブロックチェーンに対するスタンスの違いも見えてきた。

「韓国やシンガポールは、資金調達・ベンチャーキャピタル面から、コインやトークンの議論が多かった。その一方で、欧州はテクノロジーや社会的インパクトを重視する傾向が強い」

Alreが目指すデータバンク構想について、「欧州ではその理念に共感してくれ、活発な議論ができた」という。

AIreが目指すのは、ブロックチェーンを用いて、個人が自身の情報を管理する分散型情報銀行だ。従来プラットフォーマーが持っていた個人情報を、人々自身の手に取り戻すことにより、自身の価値を自らコントロールできる世界を目指している。

フェイスブックのケンブリッジアナリティカ事件などで、個人のデータ所有権に対する意識が欧米では高まっている。EUの一般データ保護規則(GDPR)の成立、そしてアイルランドでは今年10月、GDPRの初適用に向けた動きが出るなど、個人情報を巡る意識は欧州で大きく変わろうとしている。

特にケンブリッジアナリティカ事件の発信源ともなった英ロンドンでは、AIreのプロジェクトへの関心が特に高かったという。カンファレンス参加者から「どのように技術的にクリアするのか」「ユーザーの持つ情報というアセットをどのように還元していくのか」など、熱心な議論が展開できた。

一方のアジアでのカンファレンスでは。「コインはどこにリスティングされるのか」「プロジェクトへの投資はどうするのか」といったマネーや投資と紐づいた議論が多かった印象だ。

マルタとスイスを日本のモデルに

その中でマルタは独特の雰囲気だったと、桂城氏は振り返る。マルタは「ブロックチェーン・アイランド」を標ぼうし、仮想通貨・ブロックチェーンの国ぐるみで振興しようとしている。マルタの構想に賛同する形で、バイナンスやOKExといった大手取引所が拠点を置いている。

「マルタでは技術と投資の議論が、いい棲み分けができている印象を持った」

さらに面白い発見があったのがスイスだ。「スイスと日本では似たような雰囲気を感じた」と、桂城氏は語る。

スイスのツーク市が「クリプトバレー」と呼ばれる仮想通貨産業の集積地があることも手伝って、スイスの中では仮想通貨・ブロックチェーンが広く議論されている素地が生まれていた。

「日本では仮想通貨・ブロックチェーンといえば、まだまだ一般の人が具体的な知識があるわけではない状況。しかしスイスでは違っていた。滞在中にふと会話をする人であっても、自分が『ブロックチェーンの仕事をしている』といえば、相手は『知ってるよ』と議論することができた」

日本でどのように仮想通貨・ブロックチェーンの議論を展開するか。「そのヒントがマルタやスイスを見る中で見えてきた」と、桂城氏は強調する。

経済・投資の面を意識するアジア的要素、テクノロジーや社会のインパクトに注目する欧州の要素、そしてスイスのように国民が広くブロックチェーン技術の理解ができる素地。これらの要素をミックスさせることこそが重要だと、桂城氏は考える。

国民の教育が高い日本であれば、マルタやスイスのような世界を創れるのではないか。世界のカンファレンスを巡る中で、桂城氏は日本が舵を取るべき進路が明確になったという。

桂城氏が率いるAIreでは、日本でのインキュベーション事業を始めようと準備している。「ブロックチェーンを誰もがフラットに議論できるように」。日本でのイノベーション推進に向けて、AIreの新たな取り組みが始まる。

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