SBIバーチャル・カーレンシーズが運営する仮想通貨取引所VCTRADEが、6月にサービス提供を開始した。現在はビットコイン(BTC)、ビットコイン・キャッシュ(BCH)、XRPと日本円ペアを扱う販売所形式の取引を提供している。今年12月には仮想通貨の入出金と、イーサリアム(ETH)の取り扱いを開始する計画で、板取引やレバレッジ取引は来年3月を予定している。証券の大手プレイヤーSBIが仮想通貨取引所を開始したと注目されているが、本格始動は仮想通貨業界団体の仮想通貨交換業協会(JVCEA)が金融庁から自主規制団体として認定され、規制が明確になってからとなる。SBIのほか、楽天やマネックス、ヤフーなど大手資本が取引所を全面開始するのもこれからだ。今後の規制の動向は取引所ビジネスにどう影響するのか、JVCEAの理事も務めるSBIホールディングスの北尾吉孝社長に話を聞いた。
仮想通貨取引所競争は証券プレーヤーが中心に
北尾社長によると、JVCEAは、年内に自主規制団体として認定される見通しであるものの、取引所ザイフ(Zaif)が9月14日にハッキングされ、67億円相当の仮想通貨が流出した事件を受けて、金融庁から今一度ルールを見直し、より厳しいものにするよう求められているという。JVCEAは、レバレッジ上限を現在の25倍から4倍に引き下げるなどの制限を適用する方針を9月12日に明らかにしていた。
取引所コインチェックがマネックスに、みんなのビットコインが楽天に、ビットトレードがフォビに買収され、また、ザイフを運営するテックビューロはフィスコに取引所事業を譲渡する。自主規制が徐々に形になりつつあり、取引所ビジネスに大手資本の参入が相次いでいる市場の今後を、北尾社長はどう見ているのか。
「厳しいルールの中で、ちゃんと収益を出していける所は限られてくると思う。資本力があって…金商法のルールに準拠するような形で様々なルールが決まっていく。そういう意味では、楽天やマネックスもそうだろうし、プレーヤーがガラッと変わってくると思う。証券業界で競争しているようなプレイヤーが一緒になってやっていくだろうと思いますね。そこに海外勢も、中国勢を中心に加わる可能性もあると思います」
「そういうプレーヤーが競争し始めると、利益水準が下がって行かざるをえないと思います。今のような高いレバレッジで儲けていたようなところは、4倍になったら全く儲からなくなる可能性があります。そういうルール変更の中で、商売が成り立たなくなり自廃していくと考えています」
今後の取引所ビジネスは証券プレーヤーが中心になるというが、初期の仮想通貨業界を盛り上げてきたベンチャー企業は退出せざるをえないのだろうか。北尾社長は、マウントゴックス、コインチェック、ザイフがハッキングされた例をあげ、「それはしょうがないでしょうね。自分たちが潰していっているわけだから。資本力がない企業は、技術者の確保も金融業に必要な安全対策の構築も難しい」と述べた。
一方で、「イノベーションは、一般的に言えば、資本力の小さいところで生まれてきているわけですね。必ずしも資本力が大きいところで、莫大な研究開発費をかけたからといって生まれるわけではない」と認めた。
「これまでの技術進歩の歴史、イノベーションの歴史を見ていると、特にIT業界だとかヘルスケア、バイオテックの世界ではベンチャー企業から技術が進化していっている。…こういう領域(仮想通貨・ブロックチェーン)もまたベンチャーなんだけど、最終的にはそう言ったところが大企業になり、そういうところが今度はベンチャーの技術をどんどん吸収していっている」。
ベンチャー企業が生き残るのは難しいが、例えば仮想通貨マイニング事業大手ビットメインのように、資本力を拡大し、IPO申請をするなど次の展開をしていく余裕を持ったベンチャー企業が台頭してきているとも指摘。ただし、特に規制業種と言われる取引所のようなビジネスでは、「生き残っていくのは中々難しい」と繰り返した。
ビットコイン・キャッシュの分裂は不可避か
北尾社長は、送金通貨としてXRPに、決済通貨としてビットコイン・キャッシュ(BCH)に注目していると以前より表明していた。特にビットコイン・キャッシュに力を入れていきたいと述べており、SBIはすでに、マイニングを一部始めている。
そのビットコイン・キャッシュは、11月15日に予定されているハードフォークで変更する仕様を巡り、クライアントが対立している状態だ。ビットコインがスケーリング問題をどう解決するかで合意が得られず分裂し、昨年8月にビットコイン・キャッシュが誕生したように、今度はビットコイン・キャッシュが分裂する可能性がある。(ハードフォークについての各クライアントの主張はこちら)
BCH最大クライアントで6割以上のシェアを擁するビットコインABCは、ビットコイン・キャッシュ誕生を担った。仮想通貨マイニングチップ製造大手のビットメイン(Bitmain)が同クライアントを支持している。ここと対立しているのは、ビットコインの考案者サトシ・ナカモトを自称したことがあるクレイグ・ライト氏のブロックチェーン開発会社nChainで、同社はSBIホールディングスのシステム開発子会社SBIビッツと提携している。そしてBCH最大のマイニングプールで、ハッシュパワーの22%を確保しているコインギークがnChainを支持している。
これらクライアントの対立によるビットコイン・キャッシュの分裂は避けられないとの見方が多い。SBIはマイニング事業のほか、マイニング用チップの製造にも直に参入する。現在はチップ製造の合弁会社設立について交渉の最終段階にあるという。BCHが分裂すれば、これらマイニング事業への影響もあるだろう。北尾社長は、対立の解消は難しいとの考えを示した。
「これ(分裂危機)により色んな判断が遅れている。…こんなことがずっと続くと、ハードフォークの度に振り回される投資家がいるわけで。なんとか僕はこんなバカなことをやらせないように持って行こうとしているんだけど、なかなか難しいですね。色んなところにうちの人間を派遣し、交渉もさせて。これはうち自身の為だけじゃなしに、今後のマーケットのためにそういうことをしている」
また、仮想通貨の保有構造が通貨の分裂を引き起こす原因であると指摘し、以下のように述べた。
「例えばビットコインの保有構造は7割が中国勢。しかもごく限られた人間の手にある。その人間がエゴと欲でそういうことをやる。そこに振り回されている。このエゴと欲を無くすために我々自身は3割の(ビットコイン・キャッシュのマイニング)シェアを取りに行こうとしている。…よその会社はどこもハードフォークを止めさせよう、通貨の保有構造を変えようと考えて事業する人はあまりいないと思うんです。それは僕ぐらいしかいないだろうなと」
仮想通貨市場の今後
「投資家は常に新しい投資のビークルを求めている。僕は仮想通貨と呼ばないでデジタルアセットと呼んでいるんだけど、投資商品としてデジタルアセットを育てようというのは、大手金融機関のみんなの考えていること。だから我々もこの世界に入った」
現時点の仮想通貨市場の時価総額は、およそ33兆円。仮想通貨のバリューはゼロだと主張する人もいるが、この規模に達した市場がゼロになることはないと北尾社長は話す。ノーザン・トラストやモルガン・スタンレー、シティバンクなど金融大手が仮想通貨市場に注視しており、向こう10年で市場は2000兆円には達すると考えている。
「仮想通貨だけじゃなく、ブロックチェーンにも注目している。ブロックチェーンが社会の中であらゆる産業で使われる様になって行けば、仮想通貨への世の中の見方も変わる。そういう意味で仮想通貨の将来はブライトなもの」
混戦の仮想通貨取引所市場で、SBIは狭小スプレッドのほか、仮想通貨エコシステムの構築とグループ会社とのシナジー、リップル社の株保有、BCHのハッシュレート3割確保など大手ならではの戦略を掲げている。証券領域で勝ってきた実績を強調し、仮想通貨でもトップになると自信を見せた。
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