canow株式会社(カナウ)は、ブロックチェーン技術を活用したプロダクトやサービスの提供、トークンのプロジェクトに関わってきた桂城漢大氏と大坂亮平氏が中心となり、2020年4月に設立した会社だ。

桂城氏は、海外とのリレーションを、大坂氏はマーケティングを経験してきたが、海外の業界各社の幅広いビジネス展開を目の当たりにして、国内外の企業間や投資家をつなぐ新会社を設立した。

canowでは、すでに海外の企業数社とパートナーシップを結び、事業を拡充していこうとしている。同社のパートナー企業を紹介しながら、canowの戦略などを探っていく。

中国の有力取引所・MXCがパートナーに

canowは、設立と同時に意欲的にパートナーシップをさまざまな企業と結んでいるが、そのうちのひとつが中国の有力暗号資産取引所のひとつであるMXCだ。

canow代表の桂城漢大氏が、MXCの副社長であるキャサリン氏にインタビューをしながら、両社の思いや目指すものを語り合った。

大きく変わる暗号資産取引所ビジネス

桂城:

暗号資産取引所ビジネスの現状はどうなっているのでしょうか。

キャサリン:

私は2017年から暗号資産取引所・Kucoin(クーコイン)の上場担当役員となったのが、この業界に入ったきっかけでした。その後、OKグループの世界最大級の大手取引所であるOKExで2年間ゼネラルマネージャーを努め、現在はMXCの副社長として、外国市場と投資を担当しています。

多くの人たちは、取引所のビジネスはとても簡単で、多大な利益を稼ぐことができると考えています。でも正直なところ、今は多くの取引所が瀕死の状態にあります。

小さな取引所の中には詐欺まがいの悪徳商法に関わりながら、上場手数料で食いつないでいるところもあります。

しかし一方で、大手の取引所は、強い財務力、巨大なコミュニティ、良質な技術を背景に、経営状況は良好です。

小さな取引所が淘汰され、大手取引所が安定した状態にあることで、本来なら注目されていたはずのプロジェクトがこぼれおちてしまうという状況が起こっているのも気になるところです。

桂城:

取引所のビジネスが大きく変わったと感じたのはいつからですか?

キャサリン:

中国で2017年9月にICO(新規仮想通貨公開)が正式に禁止された直後から変化が始まったと考えています。政府が私たちの業界に注目し、規制が強まることで、それに対応するための事務手続きが増えています。

ICOの禁止で気がついたことは、長期的にビジネスを運営したいと考えている取引所が、規制に対応して生き残るためには、エンティティ(事業やプロジェクト)を分割して10以上のエンティティを持っておくべきだということです。

桂城:

なるほど、それは興味深いですね。日本では2つ以上のエンティティを持っていると、少し怪しいと思われてしまいます。

キャサリン:

今後はむしろ10以上のエンティティを持っていないと怪しいと言われるようになると思いますよ。

MXCは日本市場をどう見ているか

桂城

日本市場の規制についてどうお感じになられていますか? 

キャサリン:

私が日本を訪れたのは、OKExとcanowが主催するクリプト業界のイベントに参加した時の1回だけですが、投資家やアドバイザー、プロジェクトマネージャーなどからさまざまな話を聞きました。

日本市場に対する第一印象は、「日本の投資家は、どれだけお金持ちなの?」ということでした。

ICOが禁止されてからは、中国で200万ドル以上の資金調達をしているプロジェクトを目にすることはほとんどありませんでした。しかし、日本では1000万ドル、あるいは2000万ドルを調達するプロジェクトがあって、どこからそうした資金を調達しているのか、見当もつきませんでした。

IDEXなどの取引所を通してのものだということがわかって、まずは日本の仮想通貨業界の調達方法に非常に驚きました。

投資家は金持ちではあるけれど、何に投資をしているかは気にせず、暗号資産をただ、現金を引き寄せる磁石のようなものだと思っているようでした。

そのように考えると、中国の投資家は多くの日本の投資家よりも知識を持っているように思いました。

プロジェクトに関しては、確かに日本には強力なコミュニティがあります。しかし、日本以外の市場に進出しようとすると、彼らはどこに行けばいいのか、どのように取引所にアクセスすればいいのか、どの取引所が自分たちに適しているのかを自分の目で客観的に見極めることができないように思います。

最新のデータによると、日本人は多くのビットコイン(BTC)を保有しています。世界中の多くのBTCは主に東京で購入されていますが、そうした人たちがアルトコインを取引するために取引所を利用することを目にすることはありませんし、アルトコインが何であるかさえほとんど知らないように思えます。

彼らは金(ゴールド)のようなものとしてBTCを理解していて、それが暗号資産について知っているすべてのように思えました。また、上場についても、ただプロジェクトのためにお金を集めることだと考えているようでした。

そこで、日本ではユーザー、投資家、プロジェクトそれぞれへの教育が必要だと考えるようになったのです。

桂城:

まさにそれが日本で起こっていることですね。投資家はBTCやイーサリアム(ETH)の動向のみにとらわれていて、全体的な情報がないため詐欺にあいやすいともいえます。投資家やプロジェクト側を育成し、機関投資家と情報を持ちあわせていない個人投資家の間のいわば中間層を作るための育成が、日本の可能性を引き出すためにも必要なことだと思います。

キャサリン:

そうした意味では、地域のインキュベーションとの連携が重要で、インキュベーターを支援していく必要があるのだと思います。そうしたことも、投資家がより客観的にこの業界の知識、運用や行動を判断するための教育につながるのです

そのために私たちはcanowやOKExとの連携を始めました。canowは投資家と業界の架け橋の役割を果たしていると思っています。

業界の全体像やトレンドは?

桂城:

業界に影響を与えるトレンドにはどんなものがありますか?

キャサリン

ICOが禁止される前は、この業界の人たちはずっと夢の国に住み続けることを考えていました。そこでは生き残ることも利益を上げることも容易だったのです。

ICOが禁止されて以来、プライマリーマーケット(発行市場)に投資していた投資家はセカンダリーマーケット(流通市場)に移りました。しかしそこで利益を上げたり、投資を回収することはこれまでと違い非常に困難です。

大局的に見れば、多くの投資家が資金を失い、投資への意欲は衰えています。そのため多くのプロジェクトは財務力が非常に低いうえに、ICOの規制問題が足かせとなり、破綻しようとしています。

17年当時は、プロジェクトが上場する理由がありました。それは、上場前に投資した人たちに応えるためで、投資家も流通市場でお金を稼ぐことを期待してはいませんでした。
当時、プロジェクト側は、ICO投資家全員をサポートするために大きなプラットフォームに上場する必要があり、何億ドルもの上場手数料を取引所に支払っていました。

しかし、ICOがなくなった今は、個人投資家が存在感を増しています。

個人投資家たちはさまざまな取引所の手数料を容易に比較できるので、取引所ビジネスの競争も激しくなっています。プロジェクトも投資家からえり好みをされるようになり、セカンダリーマーケットからの利益や回収が期待されています。

そういうふうに考えると、取引所もプロジェクトも、そして投資家も難しい局面で負の連鎖に陥っているといえるでしょう。

特に今は、新型コロナウイルスの影響による経済の悪化で暗号資産業界にはさらに大きな影響が出ています。

ICO規制の問題をクリアにして、個人投資家の取引量を増やし、アルトコイン市場をより活発にするための革命的な何かを見つけることが求められています。

桂城:

革命を起こすためには、やはり投資家育成が必要でMXCとcanowの双方でそれに取り組み、この業界にもっと多くの人々に関心を持ってもらう必要がありますね。

キャサリン:

確かにそう思います。

中国でティア1の上位の取引所は確立されたビジネスにより、既存の取引量、ユーザーを維持しようとしています。

しかし、今のところティア1.5クラスの取引所であるMXCは、業界に新しい血を吹き込むために、多くのお金と時間を投下しなければなりません。インキュベーターとして、投資家教育の一端としてもプロジェクトに責任を持つべきだと考えているからです。

桂城:

取引所はもちろん、投資家も変わらなければなりませんね。

キャサリン:

この業界では、プロジェクトも投資家も簡単に財を成すことを期待している人が多いですね。でも、それではうまくいきません。

私たちはそうした姿勢から脱却して、蓄積した知識を共有し投資家の育成に注力する必要があります。

桂城:

プロジェクト側が上場で考えるべきことはどんなことでしょうか

キャサリン:

どの取引所も、同じような通貨を取り扱っていくでしょう。プロジェクト側にとって重要なことは、自分たちに、より適したものは何かを理解することです。例えば通常の上場と違い暗号資産取引所がプロジェクトを代行してトークンセールを行うIEOは大きく損失を被る可能性もあるので、それぞれのプロジェクトがIEOに向いているのかどうかを判断する必要があります。

そのためには、自分たちのことを客観的に理解し、定義することが必要だと考えています。

MXCにとっての南アジア市場、そして日本や韓国の市場

桂城:

MXCは南アジア市場への進出を計画しているのでしょうか? また、日本や韓国の市場をどう位置付けていますか?

キャサリン:

南アジア市場への進出はMXCにとって最優先事項であることは間違いありません。しかし、韓国と日本での存在感を高めることが最優先だと考えています。

中国の投資家にMXCを知っているか、大きな取引所だと思うかと尋ねれば、答えはポジティブなものになると思います。

日本や韓国の投資家も、その多くがMXCについては聞いたことがあり、大きな取引所だと思っているかもしれませんが、彼らは私たちの取引所での取引経験がないのです。取引経験がなければ、PR、ブランド、そして評価も確たるものにはなりません。

そのためにまず、私たちは日本と韓国で、長い間市場で生き残ることができるリアルなコミュニティと、それぞれの地域にふさわしいプロジェクトを大切に取り扱いながら、上場に携わりたいと考えています。私たちは、canowと協力しているすべてのプロジェクトがMXCに上場されることで、プロジェクトも投資家も満足できる、価値のあるものにしたいと考えているのです。

そして、日本と韓国だけでなく、マレーシア、インドネシアでもインキュベーターとの提携を進めています。インドでは現地の取引所との提携も開始しています。

桂城:

日本の場合は、金融庁がさまざまな方法で事業者に規制をかけています。MXCも確立されてきた評価を維持しつつ、規制面でのリスクに対処していかないといけなければなりませんがそれにはコストがかかります。 日本での展開には日本の取引所との連携は欠かせませんね。

キャサリン:

そうですね。私たちはあらゆる規制を考慮しています。桂城さんがおっしゃるように、日本の認可を受けた取引所との提携も視野に入れています。そうすることで規制の問題もクリアになるかもしれません。日本市場に参入するために私たちが行っている非常に重要なことです。

私たちMXCと日本側のインキュベーター、プロジェクト、取引所との間で、より積極的なパートナーシップが生まれることを期待しています。

canowとは共通の認識を持つことができた

桂城:

日本のパートナーとしてcanowを選んだ理由を教えてください。

キャサリン:

パートナーの選択については、2つのことだけを見ています。

まずはチームとしてのパートナーとなり得るかどうか。 そして業界の課題や発展について共通の認識を持てるかということです。

チームとしての基本となるコンセプトは業界をより良くしたいということです。コンセプトを共有できる良いチームとなることは、もっとも大切なことです。

また、私が日本人に学んだことですが、日本市場での地位を確立するために重要なのは、日本市場でどうやって信頼を得るかということです。そのため、私たちの意向を代弁してくれる、信頼に値する存在を日本で見つける必要がありました。

桂城さんとシンガポールで個人的に出会ってから、日本でイベントを行い、多くのやりとりをしながら一緒にプロジェクトを進めてきました。桂城さんの姿勢は信頼と責任を十分に感じられるもので、それがcanowとのパートナーシップを締結する要因の一つとなりました。

次に大切なことがお互いが共通認識を持てるかどうかということです。

MXCcanowは認識を共有しています。私たちは、業界をより良いものにするために、より良い方法を見つけるために、時間もお金もかけています。

それもcanowをパートナーに選んだ理由です。

桂城:

高い評価をいただき、ありがとうございます

より良い業界作りにMXCが取り組むもの

桂城:

グローバル化の中でMXCが目指すものは何ですか?

キャサリン:

取引所にとって、グローバル化は常に重要です。自国でどれだけ人気があるかということは問題ではありません。

今、MXCは中国で人気があり、多くの投資家が訪れてくれていますが、だからといってトップレベルの取引所になっているわけではありません。私たちにはまだ、グローバルへの意識が欠けています。

MXCは現在、英国、日本、マレーシア、ロシア、ヨーロッパ、北米、南米といった地域のコミュニティで活動しています。各地域の顧客に向けたオンライン、オフラインでのイベントを行うために各地域でコミュニティマネージャーを採用しています。そして私たちは各地域のプロジェクトを高い品質で上場させること目指しています。

すでに中国では大きなイベントを開催していますが、今後は、世界中で中国での経験を共有しながら開催していきたいと考えています。

また、現地のインキュベーターとのパートナーシップも始めようと思っています。まずは人脈作りから初めて、現地の習慣に沿ったビジネスをしていきたいと思います。

桂城:

MXCの皆さんとお話をすると、触発されることが多いですね。

いつも、この業界をより良い業界として成り立たせるために戦っていると感じます。さらなる変革のためのグローバル化という視点は日本も持たなければなりません。

キャサリン:

日本は常にMXCの最優先事項の一つです。私たちは日本にポジティブな影響を与えたいと思っているので、そのためにもcanowのサポートが必要です。

中国でのMXCの未来とは

桂城:

中国のMXCの未来はどんなふうに描いていますか?

キャサリン:

中国で最も重要なことは、MXC中国計画」の立ち上げです。

海南省の地方政府とボトムアップブロックチェーン支援のためのパートナーシップを締結し、ブロックチェーン技術のインキュベーションを行う予定です。成都や南条など他の都市への進出も計画しています。

中国では、テクノロジーの部分にまで事業を拡大し、地域社会に貢献したいと考えています。もちろんそうした取り組みはMXCにとって素晴らしいマーケティング効果をもたらすでしょう。 

桂城:

ありがとうございました。

 

プロフィール

canow株式会社 代表取締役 桂城漢大(かつらぎ  くにひろ)氏

1995年生まれ。前職のIFA株式会社ではCOOとして情報銀行の構想を完成させ、海外取引所や企業との交渉、Delta summit、D.FINEをはじめとした世界各国のカンファレンスにスピーカーとして精力的に参加。国内外の架け橋として多くの企業をサポートするために『canow株式会社』を設立し、代表取締役に就任。現在はインキュベーション事業を軸とし、数多くのサービスを手掛ける。

MXC副社長 キャサリン・デン/Katherine Deng

2017年にニューヨーク大学卒業、仮想通貨取引所KuCoin の上場担当取締役として業界入り。18年に仮想通貨取引所取引所コインオール(CoinAll)のジェネラルマネージャーとしてOKExに移籍。現在は仮想通貨取引所MXCの副社長として、すべての上場案件と海外市場の業務に携わっている。